『人間タワー』(朝比奈あすか)_書評という名の読書感想文
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最終更新日:2024/01/07
『人間タワー』(朝比奈あすか), 作家別(あ行), 書評(な行), 朝比奈あすか
『人間タワー』朝比奈 あすか 文春文庫 2020年11月10日第1刷
桜丘小学校の運動会で毎年六年生が挑んできた組体操 「人間タワー」。しかし危険性が取りざたされ中止に!? 強硬なタワー推進派の珠愛月 (じゅえる) 先生、冷めた目で反対を主張する文武両道な男子・青木、誰もが納得する道を探ろうとする同級生の澪・・・・・・・教師、児童、親、様々な人物の思いが交錯し、胸を打つラストが訪れる! (文春文庫)
この物語の中心は、あくまで - 桜丘小学校の運動会で、毎年六年生が挑む組体操 「人間タワー」 を 「これまで通り続けるべきか否か」 にあります。
但し、登場する人物は現・六年生や、彼ら彼女らの保護者や担任の先生ばかりではありません。かつての卒業生で、桜丘小学校にあまり良い思い出がない人がいます。「人間タワー」 を、テレビのニュースで見るだけの人だっています。
第一話 「天国と地獄」 離婚したことを悔やみ続けるシングルマザー・片桐雪子の話。彼女には (桜丘小学校の) 一年生になっばかりのひとり息子、貴文がいます。
第二話 「すべてが零れ落ちても」 老人ホームに暮らし、生前の妻の言葉に囚われ続ける老人・本郷伊佐夫の話。哀しいかな、彼は既に半分夢の中で生きています。
伊佐夫は近所の小学校が運動会で造りあげる人間タワーを毎年楽しみにしている。土台を組み立て、中段の子が身を起こし、最後の一人が怖いものなしの立ち上がり方をする瞬間、伊佐夫は胸を突かれるような感動を覚えた。
ワット・アルンだ。
初めて見たとき、ワット・アルンと呼ばれるタイの寺院の、仏塔を思い出した。川なのに流れがほとんどなく、ただ淀んで揺蕩っているようなチャオプラヤに、舟が浮かんでいて、乗っているのは伊佐夫と鈴子だ。オイルのにおいのきつさに、鈴子はスカーフで口元を覆った。ふたりはワット・アルンを眺めていた。(本文より)
第三話 「珠愛月の決意」 自身の名前にコンプレックスを抱え、伝統ある人間タワーを遂行させようと頑迷に手を尽くす、六年生の学年主任・沖田珠愛月の話。彼女の熱意。彼女の決意を感じてください。沖田珠愛月は決して冷たい人間ではありません。
第五話 「熱意と高慢」 その意固地な沖田に違和感を抱きながらも、自分だけは良い教師であろうとする島倉優也の話。和也の母は、それでも彼を 「いい先生」 と言ってくれたのでした。
第六話 「乗り越える」 母校である桜丘小学校で受けた凄惨なイジメの記憶を抱え続ける会社員・高田剛の話。転職後のある日、彼は (第一話で登場する) 片桐雪子の元夫・遼と出会うことになります。部署こそ違え、二人は同じ会社で働いています。出会ったのは、桜丘小学校の運動会でのことでした。
そして、何より、今年の運動会で 「人間タワー」 に挑むことを目の前に控えた、六年生の子どもたち。中で、
第四話 「月曜日の審判」 転校生の安田澪と学年一の優等生・青木栄太郎がする会話の中で、特に澪の発言に注意してください。彼女は、人間タワーには反対だけど、人間タワーをやらないことにも反対、と意見を述べます。
澪は何が言いたかったのか。彼女が思う解決策とは、どんなものだったのか。考えながら、読んでみてください。
この本を読んでみてください係数 85/100
◆朝比奈 あすか
1976年東京都生まれ。
慶應義塾大学文学部卒業。
作品 「光さす故郷へ」「憂鬱なハスビーン」「憧れの女の子」「不自由な絆」「あの子が欲しい」「天使はここに」「自画像」他多数
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