『ゴースト』(中島京子)_書評という名の読書感想文
公開日:
:
『ゴースト』(中島京子), 中島京子, 作家別(な行), 書評(か行)
『ゴースト』中島 京子 朝日文庫 2020年11月30日第1刷
風格のある原宿の洋館に出没する少女、激動の20世紀を生き抜いたミシン、少しぼけた曾祖父が繰り返す 「リョウユー」 の言葉・・・・・・・。多彩な切り口で戦禍の記憶を現代に蘇らせる、ユーモラスで温かくてどこか切ない7つの幽霊連作集。(朝日文庫)
[目次]
第一話 原宿の家
第二話 ミシンの履歴
第三話 きららの紙飛行機
第四話 亡霊たち
第五話 キャンプ
第六話 廃 墟
第七話 ゴーストライター
この小説は、今を生きる我々と、遠い過去に命を失くした “幽霊たち” を繋ぐ物語です。鬱蒼とした原宿の館に出没する女の子、20世紀を生き抜いたミシン、廃墟と化した台湾人留学生寮、などが登場します。
では、なに故の幽霊 (ゴースト) かといいますと、全編に共通するのは、彼らが死を迎えた原因や時期はそれぞれ異なりますが 「皆、戦争の影響を受けている」 という点です。幽霊たちは、思い出してほしいと思う人の隣に現れて、思い出すのを黙って待っています。
ひとつふたつ、例を挙げましょう。
第三話の 「きららの紙飛行機」 は、上野の浮浪児だったケンタの幽霊が登場する。一定期間だけ現れて、死因と同じく車に轢かれて消える、ということを繰り返しているらしい。自分の姿が見える女の子、きららと出会う。育児放棄されているきららに、ケンタは心を砕く。戦後の浮浪児と現代の被虐待児の、一日だけの時間の中で飛ばす紙飛行機は、かすかな希望を具現化したようで胸を突く。
第四話の 「亡霊たち」 では、従軍経験のある仙太郎が 「僚友」 と呼ぶ、目には見えない人と語りあっていることをひ孫の千夏が知る。大岡昇平の 『俘虜記』 などの戦争に関する著作の内容と絡ませつつ、当時の出征兵士たちのことを想像する千夏のもとに、「現実にそこにある」 亡霊が現れる。曾祖父の時代と現在が地続きであることと、戦争の亡霊のいる “今” をつきつけられた。(解説より)
ケンタは、辛い。きららは、なお辛い。二人が飛ばす紙飛行機の幸せのあまりな儚さに、その切なさに、胸が震えます。
仙太郎はもはや違う世界のどこかを漂っています。死んで居るはずのない 「リョウユー」 が、そこには確かにいます。なぜか、千夏までもがそれを感じています。
この本を読んでみてください係数 85/100
◆中島 京子
1964年東京都生まれ。
東京女子大学文理学部史学科卒業。
作品 「FUTON」「イトウの恋」「均ちゃんの失踪」「冠・婚・葬・祭」「小さいおうち」「眺望絶佳」「妻が椎茸だったころ」「長いお別れ」他多数
関連記事
-
-
『彼女は存在しない』(浦賀和宏)_書評という名の読書感想文
『彼女は存在しない』浦賀 和宏 幻冬舎文庫 2003年10月10日初版 彼女は存在しない (幻
-
-
『暗い越流』(若竹七海)_書評という名の読書感想文
『暗い越流』若竹 七海 光文社文庫 2016年10月20日初版 暗い越流 (光文社文庫) 5
-
-
『個人教授』(佐藤正午)_書評という名の読書感想文
『個人教授』佐藤 正午 角川文庫 2014年3月25日初版 個人教授 (角川文庫) 桜の花が
-
-
『GIVER/復讐の贈与者』(日野草)_書評という名の読書感想文
『GIVER/復讐の贈与者』日野 草 角川文庫 2016年8月25日初版 GIVER 復讐の贈
-
-
『肩ごしの恋人』(唯川恵)_書評という名の読書感想文
『肩ごしの恋人』唯川 恵 集英社文庫 2004年10月25日第一刷 肩ごしの恋人 (集英社文庫
-
-
『木になった亜沙』(今村夏子)_圧倒的な疎外感を知れ。
『木になった亜沙』今村 夏子 文藝春秋 2020年4月5日第1刷 木になった亜沙 誰か
-
-
『起終点駅/ターミナル』(桜木紫乃)_書評という名の読書感想文
『起終点駅/ターミナル』桜木 紫乃 小学館文庫 2015年3月11日初版 起終点駅(ターミナル
-
-
『テミスの剣』(中山七里)_テミスの剣。ネメシスの使者
『テミスの剣』中山 七里 文春文庫 2017年3月10日第1刷 テミスの剣 (文春文庫)
-
-
『幻年時代』(坂口恭平)_書評という名の読書感想文
『幻年時代』坂口 恭平 幻冬舎文庫 2016年12月10日初版 幻年時代 (幻冬舎文庫) 4
-
-
『月魚』(三浦しをん)_書評という名の読書感想文
『月魚』三浦 しをん 角川文庫 2004年5月25日初版 月魚 (角川文庫) 古書店 『無窮