『輪 RINKAI 廻』(明野照葉)_書評という名の読書感想文
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最終更新日:2024/01/07
『輪 RINKAI 廻』(明野照葉), 作家別(あ行), 明野照葉, 書評(ら行)
『輪 RINKAI 廻』明野 照葉 文春文庫 2003年11月10日第1刷
茨城の旧家に嫁いだ香苗は愛娘・真穂をもうけたが、なぜか義母がその孫娘に苛烈な仕打ちを加える。それに耐えかね、離婚した香苗は大久保に住む実母・時枝のもとに帰るが、やがて真穂の体には痣や瘤が・・・・・・・。東京、茨城、新潟を点と線で結び、「累 (かさね)」 の恐怖を織り込んだ明野ホラーの原点。第7回松本清張賞受賞作。(文春文庫)
この小説は2000年に松本清張賞を受賞した。「ホラー小説」 というふれこみだが、私は最後までそうとは思わずに読んだ。
「四谷怪談」 の原点である 「累 (かさね)」 の因縁・復讐物語を主旋律として、現代の東京・大久保に追われるようにして流れ込み共に暮らすようになった母娘の上に、ふたたびくり返される 「累」 の悪夢を描いている点ではたしかにホラー小説ではあろう。ところが、人間存在の業の深みに歩み下りてゆく明野照葉の筆は、電脳立国ニッポンの基層にドクドクと脈を打って流れる六道輪廻の思想をあらためてほじくり返しているのである。
主人公は大人に成長したひとりの娘である。母親が新潟のとある町の嫁ぎ先からひとり娘の主人公をつれて出奔したのは三十年あまりまえ。「歌舞伎町で燃え残ってこぼれ落ちた欲望が、そのまま雪崩れてきている街」 大久保に住み着いた。育った娘は茨城の旧家に嫁ぎ一女を産んだのだが、なぜか義母が孫なる娘にむごい仕打ちを加えつづける。
それに堪えきれず主人公は離婚し、わが子をつれて大久保の実母のもとに身を寄せる。だが、その実母もまた孫娘を見てぞっとしたように顔を蒼白にし、以後、なぜか娘の体には痣や瘤が絶えなくなる。
もしや実母が娘を虐待しているのではないかと疑いはじめた香苗は時枝を問い質すのですが、そんなことはするはずがないと言い返され、当の真穂からは、おばあちゃんはそんなことはしていないし大好きだと言われて、途方に暮れるのでした。
時枝も、真穂も、嘘は言っていません。但し、二人はそれぞれに、全てを包み隠さず話しているわけではありません。時枝は多くを語らず、その時の真穂は、真穂とは違う別の “誰か” に代わっています。
(香苗が産んだ一人娘の真穂は際立つ美形の少女だったのですが、なぜか、母の香苗にも、実の父である香苗の元夫にも、義母にも、そして香苗の実の母である時枝にも、まるで似ていません。およそ異なった顔立ちをしています)
この小説は 「姑殺し」 にまつわる因縁を描きながら、その姑の怨霊がこの世にあらわれ、殺した者にたいして恨みをはらす因果応報の物語に安易に力点を置くより、この世にあって飯を食い息をしていたそのときそのままの猜疑心や虐待嗜好をもって、ふたたび生前と変わらぬ楽しみを味わい尽くそうとする人間の救いがたい欲動を描いているのである。(太字は全て解説よりby高山文彦)
義母が娘に加える苛烈な仕打ちの本当の理由とは一体何なのか。読んで思うのは、女の業の怖ろしさ、凄まじさ、その一点でした。どうぞ、幼気な少女を悪魔に変える 「恐怖と怨念の物語」 を心ゆくまでご堪能ください。
この本を読んでみてください係数 85/100
◆明野 照葉
1959年東京都中野区生まれ。
東京女子大学文理学部社会学科卒業。
作品 「雨女」「魔性」「誰?」「新装版 汝の名」他多数
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