『輪 RINKAI 廻』(明野照葉)_書評という名の読書感想文

『輪 RINKAI 廻』明野 照葉 文春文庫 2003年11月10日第1刷

輪(RINKAI)廻 (文春文庫)

茨城の旧家に嫁いだ香苗は愛娘・真穂をもうけたが、なぜか義母がその孫娘に苛烈な仕打ちを加える。それに耐えかね、離婚した香苗は大久保に住む実母・時枝のもとに帰るが、やがて真穂の体には痣や瘤が・・・・・・・。東京、茨城、新潟を点と線で結び、「累 (かさね)」 の恐怖を織り込んだ明野ホラーの原点。第7回松本清張賞受賞作。(文春文庫)

この小説は2000年に松本清張賞を受賞した。ホラー小説というふれこみだが、私は最後までそうとは思わずに読んだ。
四谷怪談の原点であるかさね)」 の因縁・復讐物語を主旋律として、現代の東京・大久保に追われるようにして流れ込み共に暮らすようになった母娘の上に、ふたたびくり返されるの悪夢を描いている点ではたしかにホラー小説ではあろう。ところが、人間存在の業の深みに歩み下りてゆく明野照葉の筆は、電脳立国ニッポンの基層にドクドクと脈を打って流れる六道輪廻の思想をあらためてほじくり返しているのである。

主人公は大人に成長したひとりの娘である。母親が新潟のとある町の嫁ぎ先からひとり娘の主人公をつれて出奔したのは三十年あまりまえ。歌舞伎町で燃え残ってこぼれ落ちた欲望が、そのまま雪崩れてきている街 大久保に住み着いた。育った娘は茨城の旧家に嫁ぎ一女を産んだのだが、なぜか義母が孫なる娘にむごい仕打ちを加えつづける。

それに堪えきれず主人公は離婚し、わが子をつれて大久保の実母のもとに身を寄せる。だが、その実母もまた孫娘を見てぞっとしたように顔を蒼白にし、以後、なぜか娘の体には痣や瘤が絶えなくなる。

もしや実母が娘を虐待しているのではないかと疑いはじめた香苗は時枝を問い質すのですが、そんなことはするはずがないと言い返され、当の真穂からは、おばあちゃんはそんなことはしていないし大好きだと言われて、途方に暮れるのでした。

時枝も、真穂も、嘘は言っていません。但し、二人はそれぞれに、全てを包み隠さず話しているわけではありません。時枝は多くを語らず、その時の真穂は、真穂とは違う別の “誰か” に代わっています。

(香苗が産んだ一人娘の真穂は際立つ美形の少女だったのですが、なぜか、母の香苗にも、実の父である香苗の元夫にも、義母にも、そして香苗の実の母である時枝にも、まるで似ていません。およそ異なった顔立ちをしています)

この小説は 姑殺しにまつわる因縁を描きながら、その姑の怨霊がこの世にあらわれ、殺した者にたいして恨みをはらす因果応報の物語に安易に力点を置くより、この世にあって飯を食い息をしていたそのときそのままの猜疑心や虐待嗜好をもって、ふたたび生前と変わらぬ楽しみを味わい尽くそうとする人間の救いがたい欲動を描いているのである。(太字は全て解説よりby高山文彦)

義母が娘に加える苛烈な仕打ちの本当の理由とは一体何なのか。読んで思うのは、女の業の怖ろしさ、凄まじさ、その一点でした。どうぞ、幼気な少女を悪魔に変える 「恐怖と怨念の物語」 を心ゆくまでご堪能ください。

この本を読んでみてください係数 85/100

輪(RINKAI)廻 (文春文庫)

◆明野 照葉
1959年東京都中野区生まれ。
東京女子大学文理学部社会学科卒業。

作品 「雨女」「魔性」「誰?」「新装版 汝の名」他多数

関連記事

『我が家の問題』(奥田英朗)_書評という名の読書感想文

『我が家の問題』奥田 英朗 集英社文庫 2014年6月30日第一刷 我が家の問題 (集英社文庫

記事を読む

『今だけのあの子』(芦沢央)_書評という名の読書感想文

『今だけのあの子』芦沢 央 創元推理文庫 2018年7月13日6版 今だけのあの子 (創元推理

記事を読む

『地獄行きでもかまわない』(大石圭)_書評という名の読書感想文

『地獄行きでもかまわない』大石 圭 光文社文庫 2016年1月20日初版 地獄行きでもかまわな

記事を読む

『ことり』(小川洋子)_書評という名の読書感想文

『ことり』小川 洋子 朝日文庫 2016年1月30日第一刷 ことり (朝日文庫) &nb

記事を読む

『ニムロッド』(上田岳弘)_書評という名の読書感想文

『ニムロッド』上田 岳弘 講談社文庫 2021年2月16日第1刷 ニムロッド (講談社文庫)

記事を読む

『空飛ぶタイヤ』(池井戸潤)_書評という名の読書感想文

『空飛ぶタイヤ』 池井戸 潤 実業之日本社 2008年8月10日第一刷 @1,200 &n

記事を読む

『無理』(奥田英朗)_書評という名の読書感想文

『無理』奥田 英朗 文芸春秋 2009年9月30日第一刷 無理(上)  

記事を読む

『九年前の祈り』(小野正嗣)_書評という名の読書感想文

『九年前の祈り』小野 正嗣 講談社 2014年12月15日第一刷 九年前の祈り &nbs

記事を読む

『静かにしなさい、でないと』(朝倉かすみ)_書評という名の読書感想文

『静かにしなさい、でないと』朝倉 かすみ 集英社文庫 2012年9月25日第1刷 静かにしな

記事を読む

『むらさきのスカートの女』(今村夏子)_書評という名の読書感想文

『むらさきのスカートの女』今村 夏子 朝日新聞出版 2019年6月20日第1刷 むらさきのス

記事を読む

Message

メールアドレスが公開されることはありません。 * が付いている欄は必須項目です

『薬指の標本』(小川洋子)_書評という名の読書感想文

『薬指の標本』小川 洋子 新潮文庫 2021年11月10日31刷

『ビオレタ』(寺地はるな)_書評という名の読書感想文

『ビオレタ』寺地 はるな ポプラ文庫 2017年4月5日第1刷

『犯人は僕だけが知っている』(松村涼哉)_書評という名の読書感想文

『犯人は僕だけが知っている』松村 涼哉 メディアワークス文庫 2

『大人は泣かないと思っていた』(寺地はるな)_書評という名の読書感想文

『大人は泣かないと思っていた』寺地 はるな 集英社文庫 2021年4

『雪が降る』(藤原伊織)_書評という名の読書感想文

『雪が降る』藤原 伊織 角川文庫 2021年12月25日初版

→もっと見る

  • 3 にほんブログ村 本ブログ 書評・レビューへ
PAGE TOP ↑