『私の家では何も起こらない』(恩田陸)_書評という名の読書感想文

公開日: : 最終更新日:2024/01/10 『私の家では何も起こらない』(恩田陸), 作家別(あ行), 恩田陸, 書評(わ行)

『私の家では何も起こらない』恩田 陸 角川文庫 2016年11月25日初版

私の家では何も起こらない・・・・・・・、わけがない!

本当に何も起こらないなら、(そこで暮らす住人は) わざわざ 「何も起こらない」 とは言わないだろう。敢えてそう言い切るには、それなりの “理由” がある。

何かしら覚えがあるものの、しかしそうとは認めたくないばかりに、できれば何事もないようにして暮らしたい。暮らそうと心がけている。- だが、

起こるのだ! その家では間違いなく “何か” が起こっている。得体の知れない “何者か” が潜んでいる - 気配がするのだ。町の噂を軽んじてはならない。何代にも渡り語り継がれ、その間に死に絶えた人の数を思えば、どんな家にしろ、幽霊の一人や二人が住み着いていたとしても何の不思議もない。家人にとってそれはもはや恐怖の対象というよりも、口がきけない “同居人” のようなものである。

これは -

恩田陸の正統派幽霊屋敷物語である。エレガントで怖い、静謐な物語。怪談雑誌 『幽』 に連載していた連作短編集の待望の文庫化である。

アップルパイが焼けるキッチンで殺しあった姉妹。
近所から攫ってきた子を解体して主人に食べさせていた料理女。
床下の動かない少女の傍らで自殺した殺人鬼の美少年。
壁に埋め込まれた死体と思しき物体。
幽霊屋敷に魅了された人々の記憶が奏でる不穏な物語が、今、静かに語られる --。

ようこそ、恩田陸の幽霊屋敷へ。

この本を読んでみてください係数 80/100

◆恩田 陸
1964年青森県青森市生まれ。宮城県仙台市出身。
早稲田大学教育学部卒業。

作品 「夜のピクニック」「ユージニア」「六番目の小夜子」「中庭の出来事」「木洩れ日に泳ぐ魚」「蜜蜂と遠雷」「EPITAPH東京」他多数

関連記事

『夏と花火と私の死体』(乙一)_書評という名の読書感想文

『夏と花火と私の死体』乙一 集英社文庫 2000年5月25日第一刷 九歳の夏休み、少女は殺され

記事を読む

『さまよえる脳髄』(逢坂剛)_あなたは脳梁断裂という言葉をご存じだろうか。

『さまよえる脳髄』逢坂 剛 集英社文庫 2019年11月6日第5刷 なんということで

記事を読む

『羊は安らかに草を食み』(宇佐美まこと)_書評という名の読書感想文

『羊は安らかに草を食み』宇佐美 まこと 祥伝社文庫 2024年3月20日 初版第1刷発行 認

記事を読む

『その可能性はすでに考えた』(井上真偽)_書評という名の読書感想文

『その可能性はすでに考えた』井上 真偽 講談社文庫 2018年2月15日第一刷 山村で起きたカルト

記事を読む

『R.S.ヴィラセリョール』(乙川優三郎)_書評という名の読書感想文

『R.S.ヴィラセリョール』乙川 優三郎 新潮社 2017年3月30日発行 レイ・市東・ヴィラセリ

記事を読む

『あなたの燃える左手で』(朝比奈秋)_書評という名の読書感想文

『あなたの燃える左手で』朝比奈 秋 河出書房新社 2023年12月10日 4刷発行 この手の

記事を読む

『ホワイトラビット』(伊坂幸太郎)_書評という名の読書感想文

『ホワイトラビット』伊坂 幸太郎 新潮文庫 2020年7月1日発行 兎田孝則は焦っ

記事を読む

『庭』(小山田浩子)_書評という名の読書感想文

『庭』小山田 浩子 新潮文庫 2021年1月1日発行 夫。どじょう。クモ。すぐそば

記事を読む

『合意情死 がふいしんぢゆう』(岩井志麻子)_書評という名の読書感想文

『合意情死 がふいしんぢゆう』岩井 志麻子 角川書店 2002年4月30日初版 「熊」とあだ名

記事を読む

『泳いで帰れ』(奥田英朗)_書評という名の読書感想文

『泳いで帰れ』奥田 英朗 光文社文庫 2008年7月20日第一刷 8月16日、月曜日。朝の品川駅

記事を読む

Message

メールアドレスが公開されることはありません。 が付いている欄は必須項目です

『今日のハチミツ、あしたの私』(寺地はるな)_書評という名の読書感想文

『今日のハチミツ、あしたの私』寺地 はるな ハルキ文庫 2024年7

『アイドルだった君へ』(小林早代子)_書評という名の読書感想文

『アイドルだった君へ』小林 早代子 新潮文庫 2025年3月1日 発

『現代生活独習ノート』(津村記久子)_書評という名の読書感想文

『現代生活独習ノート』津村 記久子 講談社文庫 2025年5月15日

『受け手のいない祈り』(朝比奈秋)_書評という名の読書感想文

『受け手のいない祈り』朝比奈 秋 新潮社 2025年3月25日 発行

『蛇行する月 』(桜木紫乃)_書評という名の読書感想文

『蛇行する月 』桜木 紫乃 双葉文庫 2025年1月27日 第7刷発

→もっと見る

  • 3 にほんブログ村 本ブログ 書評・レビューへ
PAGE TOP ↑