『殺人依存症』(櫛木理宇)_書評という名の読書感想文

公開日: : 最終更新日:2024/01/07 『殺人依存症』(櫛木理宇), 作家別(か行), 書評(さ行), 櫛木理宇

『殺人依存症』櫛木 理宇 幻冬舎文庫 2020年10月10日初版

息子を六年前に亡くした捜査一課の浦杉は、その現実から逃れるように刑事の仕事にのめり込む。そんな折、連続殺人事件が勃発。捜査線上に、実行犯の男達を陰で操る一人の女の存在が浮かび上がる。彼女は一体何者なのか - 。息をするように罪を重ねる女と、最愛の家族を失い死んだように生きる刑事。二人が対峙した時、衝撃の真実が明らかになる。(幻冬舎文庫)

〇「荒川女子高校生殺人死体遺棄事件」 中野区在住、明蓮第一高校一年生・小湊美玖 (15歳) の場合

遺体は上半身にブラウスだけを着け、下肢は剥き出しだった。ブラウスはボタンのほとんどが千切れ、前がはだけている。未発達な乳房と、まだ生え揃わない陰毛が無惨だ。左足のみ、足首までのソックスを履いていた。
右乳房の下と脇腹に、深い刺創が見てとれた。また下腹部に、✕字の切創がいくつか刻まれている。こちらは浅いなぶり傷であった。
顔面は殴打で腫れあがっていた。裂けた唇の隙間から覗く歯が、一本折れていた。口腔を検めれば、おそらく奥歯も何本か失われているだろう。一目でわかるほど、激しい殴打痕だった。

なぶられた痕は、ほかにもあった。右手の中指と薬指、左手の人差し指と中指と小指が折られ、各々ばらばらの方向を指している。右の乳首が切り落とされている。
髪を汚しているのは少女自身の嘔吐物だろうか。腹部は黒と紫のまだらな痣に覆われ、ぶよぶよと腫れあがっていた。殴打で内臓が損傷している証拠だ。そして、白い頸部に索溝がある。

〇「小金井市小三男児失踪事件」 小金井市在住の小学生・平瀬洸太郎くん (9歳) の場合

平瀬洸太郎には両親の反応がわかっていたのだ。わかっていたからこそ、彼はあの日、親にも祖父母にも黙って家を抜け出した。
隠れてパソコンで長時間ゲームができたならば、祖父母は口ほどには洸太郎をかまっていなかったはずだ。親と祖父母には秘密裡に、平瀬洸太郎はハンドルネーム
B & Kとオンライン上で仲良くなった。

大人にやさしくしてもらえて嬉しかったのかもしれない。寂しさが作る心の隙間に、巧くB & K はするりと這いこんだ。これは邪推だが、洸太郎は疑似両親のごとく思っていたのではあるまいか。
そうして
B & K にそそのかされた洸太郎は、イベント会場に向かい - その後の足取りは途絶えている。

ある朝、捜査会議に久しぶりの朗報が届きます。それは、小湊美玖を集団痴漢する計画が立てられたとおぼしき 『痴漢専用掲示板』 サイトの解析データでした。

「埼京線、×時×分発の三両目が入れ食い、JC多し。♯OK娘」
「丸ノ内線、×時×分発の二両目に乗るJK、おとなしく無抵抗。通報ゼロ。155、ややぽちゃ、ポニテ。清稜女。♯OK娘、OK子 ♯情報交換」
などといった文字が並んでいます。JCは女子中学生、JKは女子高校生。OK娘とは、文字通り触ってもOKな少女 - 奴らが勝手にそう見做している、狙い目の対象者を指しています。

〇『痴漢専用掲示板』 サイトにあったハンドルネーム 『ヘルメス』 こと津久井渉 (35歳無職、渋谷区在住) の場合

津久井渉にとっての英雄は、二十数年前に神戸で起こった児童連続殺傷事件の犯人であった。
当時の津久井は十三歳。千葉の中学校に通う、内気で目立たない少年だった。
児童連続殺傷事件の犯人が十四歳だと知って、津久井は震えた。恐怖ではない。憧憬で震えたのである。
自分と一歳しか違わないのに、こんなことをやってのけるのか。やりおおせられるのかと、尊敬で息が詰まった。
(太字はすべて本文より)

一連の惨たらしい事件の主犯となる人物は、まだまだ表舞台には現れません。彼女は大勢の男達を従えながら、”息をするように” 罪を重ねます。「シリアルキラー」 「サイコパス」 とは、彼女のような人物のことをいうのでしょう。

女が最後にしたことは、女が一番望んだことでした。息子を亡くし、家族と別れて暮らす浦杉に、女はなお一層の試練を与えます。大きな後悔を抱え、ただ生きてきただけの浦杉に、あまりな選択を迫ります。

この本を読んでみてください係数 85/100

◆櫛木 理宇
1972年新潟県生まれ。
大学卒業後、アパレルメーカー、建設会社などの勤務を経て、執筆活動を開始する。

作品 「ホーンテッド・キャンパス」「赤と白」「侵蝕 壊される家族の記録」「209号室には知らない子供がいる」「死刑にいたる病」「死んでもいい」「鵜頭川村事件」他多数

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