『グ、ア、ム』(本谷有希子)_書評という名の読書感想文
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最終更新日:2024/01/13
『グ、ア、ム』(本谷有希子), 作家別(ま行), 書評(か行), 本谷有希子
『グ、ア、ム』本谷 有希子 新潮文庫 2011年7月1日発行
北陸育ちの姉妹。長女は大学を出たもののバイト生活を送る、いわゆる「ワーキングプア」。そんな姉を反面教師にした次女は、高卒で信用金庫に就職。姉妹は母も交えた女三人でグアム旅行に出かけることになるが、長女の身勝手な行動のせいで、早くも旅は不穏なムードに・・・・。時代の理不尽、血の繋がった女同士のうっとうしさを、シニカルな筆致で笑い飛ばす、奇妙で痛快なホームドラマ。(新潮文庫解説より)
たとえ同じ両親の元に生まれ、分け隔てなく育てられた者同士であったとしても、似たような大人になるとは限りません。生まれついての性格が真逆だったりもするでしょうし、育っていく内にまるで別の生きものになることだってあるやも知れません。
長女と次女の場合も、然り。(当然ながら)2人には各々個性というものがあり、いくら生まれ育ちが一緒と言えども、ものを見る目や考え方までもが同じであるはずがありません。
不思議と、あるいは往々にして、違うタイプの女性になったりします。
互いを観察する内にもおのずと取捨選択するものがあるでしょうし、誰かしらの影響で、気付けばまるで他人同士のようになることだってあるでしょう。大人になれば尚のこと、分かってはいても、無邪気な頃の関係には戻れないのです。
何があってそうなったのかは、よく分かりません。今から思うと、幼い頃そう言えばこんなことがあったとか、あの時長女は頑として主張を曲げなかったけれど、次女は案外素直に聞いてくれたではないかなどと思い返すばかりになっています。
この小説に登場する長女と次女(2人には名前が付いていません)もきっとそんな中の一組で、それ以上でも以下でもないように思えます。2人の姉妹に父と母(特に母親)が絡んで物語は進んで行くのですが、彼らは平凡な、それこそどこにもいるような家族です。
2人の娘に挟まれて、(色々と言いたいことがあり、また実際に言いもするのですが)しかし結局どちらの言い分を立てるわけにもいかず、ただ右往左往するばかりの母がいて、それを遠目に眺めては、努めて深入りしようとしない父がいます。
しかし、父はなかなかにデキた人物で、費用は出すからお前たち3人で旅行に行ってこいと言います。行き先は、グアム。2泊3日の、母と娘らには初めての海外旅行です。
・・・・・・・・・・
長女は東京、次女は大阪にいて、母はとある北陸の豪雪地帯に暮らしています。3月 - 3人はそれぞれに成田空港へ集合し、いよいよ搭乗手続きに向かおうかという・・・その辺りから、段々と雲行きが怪しくなってきます。
いやが上にも高揚する母娘を嘲笑うかのように、予期せぬ災難がひとつ、またひとつと舞い込んできます。初めての海外旅行にありがちなあれやこれやは言うまでもなく、母が突然生理になり、次女の奥歯が疼き出します。呑気な長女ばかりが、浮かれています。
チェックインから搭乗までの間、機中での時間、ようやくにして降り立った楽園の島・グアムにおいても、3人はどこかしらギクシャクしています。長女と次女の間に会話らしき会話はなく、母が中をとりもってはじめて次にすることが決まるような按配です。
しかし、どうしようもなく思うのは、それでも彼女らは母娘であるということ。言うことや為すことは、おそらくは日本中のどの親子にもあることです。3人はすでに十分大人(長女は20歳過ぎ、次女は20歳前)で、その分ぶっきらぼうではありますが、決して仲が悪いわけではありません。
たとえ必要最小限であっても会話は会話 - なのですが、肉親同士のこと故、ときとして(前後がなくて)まるでむき出しの、繕いようのないもの言いになったりします。よその人に対しては言えない、言われて一等ショックなことを平気で言われたりします。
言われた方も言われた方で、言われた以上に言った相手を糾弾します。もう、それの繰り返し。エンドレス。言いたいことを言いたいだけ言い、言った本人にしてみれば、それらはすべからく正しいのです。
冗談では済まされないようなことも、冗談としか思えない、まるでバカげた会話においても、すべて均して飲み込んでしまおうとする母娘の様子に笑うことしきり。おまけに交わされる会話が、北陸弁? あるいは石川弁? - これが、ことのほかキツいのです。
この本を読んでみてください係数 85/100
◆本谷 有希子
1979年石川県生まれ。
石川県立金沢錦丘高等学校卒業。ENBUゼミナール演劇科に入学。
作品 「嵐のピクニック」「自分を好きになる方法」「異類婚姻譚」「江利子と絶対」「腑抜けども、悲しみの愛を見せろ」「ぬるい毒」「生きてるだけで、愛。」他
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