『田村はまだか』(朝倉かすみ)_書評という名の読書感想文
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最終更新日:2017/12/07
『田村はまだか』(朝倉かすみ), 作家別(あ行), 書評(た行), 朝倉かすみ
『田村はまだか』朝倉 かすみ 光文社 2008年2月25日第一刷
田村は、妻の旧姓です。
そんな理由でこの本を買ったのかと言われそうですが、その通りだからしょうがないのです。
まず「田村」という文字が目に飛び込んできたから手に取ったわけで、もしこれが「鈴木」とか「田中」ならどうだったのか分からないのです。
もちろんその後ページを開いて面白そうだと感じたから買ったわけですけど、たまにはそんな理由もよいでしょう。
第一話から最終話までの6編からなる小説です。
中年にさしかかったサラリーマン(に限りませんが)には、適度な感傷を含んでつい読まされる話だと思います。
小学校のクラス会の三次会に残った男女5名。場所は、札幌ススキノのスナック・バー「チャオ!」
彼等の年齢は、満で40歳。若からず、老成にはまだはるかに遠い、なんとも半端な年齢です。
彼等は、大雪で列車が遅れクラス会に間に合わなかった同級生「田村」を待っています。
その間に交わされる過去の印象深い出来事や人物の話で場は盛上がり、時にはしんみりとした空気に浸されます。
時間はすでに午前零時前。それにつけても遅い、「田村はまだか」...
第一話「田村はまだか」・・・なぜ田村なのかが語られる導入部。田村はメンバーにとって特別な存在なのです。
第二話「パンダ全速力」・・・化粧品・日用雑貨の卸会社へ入社したての池内暁の話。仕事に少し慣れた矢先に「こいつはこのごろ何でもなめてかかっている」と上司に言われて落ち込みます。
第三話「グッナイ・ベイビー」・・・高校の保健室の先生をしている加持千夏の話。千夏は、19歳年下の生徒キッドに淡い恋心を抱いています。
第四話「きみとぼくとかれの」・・・生命保険会社で営業所長をしている坪田隼雄の話。高給取りで童貞の坪田は、やや変質ぎみの複雑な心理の持ち主です。
第五話「みどり同盟」・・・チャオのマスター・花輪春彦の家庭内事情、永田一太と伊吹祥子のあやしい関係の話。
最終話「話は明日にしてくれないか」・・・実物の田村がとうとう登場します。
平たく言ってしまえば「まぁ、誰しもそれぞれに人生があり、それは決して楽しいことばかりではありません」という話。
そう言えば身も蓋もないのですが、多くの小説家がこのテーマに様々な着色をして語っているなかで、朝倉かすみという作家の色合いも個別に鮮やかで最後まで飽きずに読むことができました。
個人的には第二、三話あたりが面白く読めました。
第二話に出てくる、池内君の指導係の二瓶正克という人物が得体が知れず興味を引きますが、元医者という設定はさすがに無理があるように思います。
尚、この小説は2009年の吉川英治文学新人賞の受賞作品です。
この本を読んでみてください係数 80/100
◆朝倉 かすみ
1960年北海道小樽市生まれ。
北海道武蔵女子短期大学教養学科卒業。
作品 「ほかに誰がいる」「そんなはずない」「深夜零時に鐘が鳴る」「感応連鎖」「肝、焼ける」「声出していこう」「夏目家順路」「少しだけ、おともだち」など
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