『リバース&リバース』(奥田亜希子)_書評という名の読書感想文

『リバース&リバース』奥田 亜希子 新潮文庫 2021年4月1日発行

大切なものは、些細なことで壊れてしまう - 。ティーン向けファッション雑誌の編集者・禄は、お悩み相談ページに投稿してきた渚との間にトラブルを抱えていた。地方に暮らす中学生の郁美は親友の明日花とともに同誌を愛読中。だが、東京からの転校生・道成の存在が二人の関係を次第に変えてゆき・・・・・・・。出会うはずのない人生が交差するとき、明かされる真実とは。心揺さぶる新時代の青春小説。(新潮文庫)

テーマは 「私たちはreverse = 次々と立場を入れ替えながら、rebirth = どんどん生まれ変わっていく」 ということです。

人はね、ずっと被害者の立場ではいられないの。日常生活の中では、誰もが被害者にも加害者にもなるの。なっちゃうの。なにかでは傷つけられる側にいても、また別のなにかでは人を傷つけてる。私たちはね、許したり許されたりしながら、何度も何度も関係をひっくり返しながら、なんとか進んでいくしかないんだよ

私はこの言葉を、人生のあらゆる場面で思い出している。
今この瞬間に被っている損害をどうにかしてくれ - そう叫びたくなる瞬間は、誰の人生にもある。郁美や道成のように、自分では選べない要素で選択肢が減らされているなら尚更だ。ただ、この言葉が教えてくれるのは、あらゆる場面で、今この瞬間という点ではなく、線で考えることを意識する大切さだ。
(解説よりby朝井リョウ)

この小説を読み、reverse (反転) という言葉を聞いて考えました。自分のことを書こうと思います。

私が通っていたのは田舎の小さな小学校で、クラスは2つ、同級生は全部で50人程でした。辛かったことや悲しかったことの記憶は、思い出す限りほとんどありません。つい最近まで、私は小学生の頃が一番楽しかったと思っていました。

この 「記憶」 や 「思い」 が - 実は大きな 「勘違い」 の上に形作られた、単なる私の 「思いあがり」 ではないかと - 私ばかりが楽しくて、まわりにいた同級生たちはまるで違う思いでいたのではないだろうか。そう考えるようになりました。

今にして思うと、私はかなり “嫌味な奴” だったのかもしれません。横柄で、仕切ってばかりいました。おそらく、平気で人を傷つけるようなことを言ったり、したりしていたのではないかと思います。

先生がするように、クラスの連中に一々 「指示」 を出していました。先生の都合で自習になったときは、勝手に段取りを決め、先生の真似事をして、一人悦に入っていました。

級長である自分にはそれが許されているのだと、勘違いしていました。誰も、何も文句は言わなかったはずだと思うのは、私が端から誰の意見も聞こうとしなかったからです。それが今ならよくわかります。リーダーとしての自分を、私はあまりに過信していました。

一年に一度くらいは集まって食事でもしましょうと、毎年小学校の同級会の案内が届きます。しかし、私は参加したことがありません。参加しようと思ったことがありません。

なぜなら、会いたいと思う人がいないからです。無理から参加したとして、誰に、今更何を話せばよいのでしょう。覚えているのは自分のことばかりで、同級生とのあれやこれやはすっかり忘れてしまっています。

会えば相手も似たようなことではないのかと。そんな気がしてなりません。幸いにも私のことをよく覚えてくれていたとしても、それが楽しい話になるとは限りません。思うほど自分は人気者ではなかったのではないかと - 今更に思い返し、遠い昔に恥じ入るばかりのこの頃です。

この本を読んでみてください係数  80/100

◆奥田 亜希子
1983年愛知県生まれ。千葉県我孫子市在住。
愛知大学文学部哲学科卒業。

作品 「左目に映る星」「ファミリー・レス」「五つ星をつけてよ」「青春のジョーカー」「魔法がとけたあとも」「愛の色いろ」他

関連記事

『残像』(伊岡瞬)_書評という名の読書感想文

『残像』伊岡 瞬 角川文庫 2023年9月25日 初版発行 訪れたアパートの住人は、全員 “

記事を読む

『残穢』(小野不由美)_書評という名の読書感想文

『残穢』小野 不由美 新潮文庫 2015年8月1日発行 この家は、どこか可怪しい。転居したばかりの

記事を読む

『あなたの本当の人生は』(大島真寿美)_書評という名の読書感想文

『あなたの本当の人生は』大島 真寿美 文春文庫 2019年8月1日第2刷 「書くこ

記事を読む

『赤へ』(井上荒野)_書評という名の読書感想文

『赤へ』井上 荒野 祥伝社 2016年6月20日初版 ふいに思い知る。すぐそこにあることに。時に静

記事を読む

『我が家の問題』(奥田英朗)_書評という名の読書感想文

『我が家の問題』奥田 英朗 集英社文庫 2014年6月30日第一刷 まず、この本に収められて

記事を読む

『緋い猫』(浦賀和宏)_書評という名の読書感想文

『緋い猫』浦賀 和宏 祥伝社文庫 2016年10月20日初版 17歳の洋子は佐久間という工員の青年

記事を読む

『なぎさホテル』(伊集院静)_書評という名の読書感想文

『なぎさホテル』伊集院 静 小学館文庫 2016年10月11日初版 「いいんですよ。部屋代なんてい

記事を読む

『初めて彼を買った日』(石田衣良)_書評という名の読書感想文

『初めて彼を買った日』石田 衣良 講談社文庫 2021年1月15日第1刷 もうすぐ

記事を読む

『悪い恋人』(井上荒野)_書評という名の読書感想文

『悪い恋人』井上 荒野 朝日文庫 2018年7月30日第一刷 恋人に 「わたしをさがさないで」

記事を読む

『木になった亜沙』(今村夏子)_圧倒的な疎外感を知れ。

『木になった亜沙』今村 夏子 文藝春秋 2020年4月5日第1刷 誰かに食べさせた

記事を読む

Message

メールアドレスが公開されることはありません。 が付いている欄は必須項目です

『作家刑事毒島の嘲笑』(中山七里)_書評という名の読書感想文

『作家刑事毒島の嘲笑』中山 七里 幻冬舎文庫 2024年9月5日 初

『バリ山行』(松永K三蔵)_書評という名の読書感想文

『バリ山行』松永K三蔵 講談社 2024年7月25日 第1刷発行

『少女葬』(櫛木理宇)_書評という名の読書感想文

『少女葬』櫛木 理宇 新潮文庫 2024年2月20日 2刷

『この部屋から東京タワーは永遠に見えない』(麻布競馬場)_書評という名の読書感想文

『この部屋から東京タワーは永遠に見えない』麻布競馬場 集英社文庫 2

『これはただの夏』(燃え殻)_書評という名の読書感想文

『これはただの夏』燃え殻 新潮文庫 2024年9月1日発行 『

→もっと見る

  • 3 にほんブログ村 本ブログ 書評・レビューへ
PAGE TOP ↑