『リバース&リバース』(奥田亜希子)_書評という名の読書感想文
公開日:
:
最終更新日:2024/01/07
『リバース&リバース』(奥田亜希子), 作家別(あ行), 奥田亜希子, 書評(ら行)
『リバース&リバース』奥田 亜希子 新潮文庫 2021年4月1日発行

大切なものは、些細なことで壊れてしまう - 。ティーン向けファッション雑誌の編集者・禄は、お悩み相談ページに投稿してきた渚との間にトラブルを抱えていた。地方に暮らす中学生の郁美は親友の明日花とともに同誌を愛読中。だが、東京からの転校生・道成の存在が二人の関係を次第に変えてゆき・・・・・・・。出会うはずのない人生が交差するとき、明かされる真実とは。心揺さぶる新時代の青春小説。(新潮文庫)
テーマは 「私たちはreverse = 次々と立場を入れ替えながら、rebirth = どんどん生まれ変わっていく」 ということです。
「人はね、ずっと被害者の立場ではいられないの。日常生活の中では、誰もが被害者にも加害者にもなるの。なっちゃうの。なにかでは傷つけられる側にいても、また別のなにかでは人を傷つけてる。私たちはね、許したり許されたりしながら、何度も何度も関係をひっくり返しながら、なんとか進んでいくしかないんだよ」
私はこの言葉を、人生のあらゆる場面で思い出している。
今この瞬間に被っている損害をどうにかしてくれ - そう叫びたくなる瞬間は、誰の人生にもある。郁美や道成のように、自分では選べない要素で選択肢が減らされているなら尚更だ。ただ、この言葉が教えてくれるのは、あらゆる場面で、今この瞬間という点ではなく、線で考えることを意識する大切さだ。(解説よりby朝井リョウ)
この小説を読み、reverse (反転) という言葉を聞いて考えました。自分のことを書こうと思います。
私が通っていたのは田舎の小さな小学校で、クラスは2つ、同級生は全部で50人程でした。辛かったことや悲しかったことの記憶は、思い出す限りほとんどありません。つい最近まで、私は小学生の頃が一番楽しかったと思っていました。
この 「記憶」 や 「思い」 が - 実は大きな 「勘違い」 の上に形作られた、単なる私の 「思いあがり」 ではないかと - 私ばかりが楽しくて、まわりにいた同級生たちはまるで違う思いでいたのではないだろうか。そう考えるようになりました。
今にして思うと、私はかなり “嫌味な奴” だったのかもしれません。横柄で、仕切ってばかりいました。おそらく、平気で人を傷つけるようなことを言ったり、したりしていたのではないかと思います。
先生がするように、クラスの連中に一々 「指示」 を出していました。先生の都合で自習になったときは、勝手に段取りを決め、先生の真似事をして、一人悦に入っていました。
級長である自分にはそれが許されているのだと、勘違いしていました。誰も、何も文句は言わなかったはずだと思うのは、私が端から誰の意見も聞こうとしなかったからです。それが今ならよくわかります。リーダーとしての自分を、私はあまりに過信していました。
一年に一度くらいは集まって食事でもしましょうと、毎年小学校の同級会の案内が届きます。しかし、私は参加したことがありません。参加しようと思ったことがありません。
なぜなら、会いたいと思う人がいないからです。無理から参加したとして、誰に、今更何を話せばよいのでしょう。覚えているのは自分のことばかりで、同級生とのあれやこれやはすっかり忘れてしまっています。
会えば相手も似たようなことではないのかと。そんな気がしてなりません。幸いにも私のことをよく覚えてくれていたとしても、それが楽しい話になるとは限りません。思うほど自分は人気者ではなかったのではないかと - 今更に思い返し、遠い昔に恥じ入るばかりのこの頃です。
この本を読んでみてください係数 80/100

◆奥田 亜希子
1983年愛知県生まれ。千葉県我孫子市在住。
愛知大学文学部哲学科卒業。
作品 「左目に映る星」「ファミリー・レス」「五つ星をつけてよ」「青春のジョーカー」「魔法がとけたあとも」「愛の色いろ」他
関連記事
-
-
『いっそこの手で殺せたら』(小倉日向)_書評という名の読書感想文
『いっそこの手で殺せたら』小倉 日向 双葉文庫 2024年5月18日 第1刷発行 覚悟がある
-
-
『おもかげ』(浅田次郎)_書評という名の読書感想文
『おもかげ』浅田 次郎 講談社文庫 2021年2月17日第4刷発行 孤独の中で育ち
-
-
『完璧な病室』(小川洋子)_書評という名の読書感想文
『完璧な病室』小川 洋子 中公文庫 2023年2月25日改版発行 こうして小川洋子
-
-
『楽園の真下』(荻原浩)_書評という名の読書感想文
『楽園の真下』荻原 浩 文春文庫 2022年4月10日第1刷 「日本でいちばん天国
-
-
『連続殺人鬼カエル男ふたたび』(中山七里)_書評という名の読書感想文
『連続殺人鬼カエル男ふたたび』中山 七里 宝島社文庫 2019年4月18日第1刷
-
-
『正欲』(朝井リョウ)_書評という名の読書感想文
『正欲』朝井 リョウ 新潮文庫 2023年6月1日発行 第34回柴田錬三郎賞受賞!
-
-
『でえれえ、やっちもねえ』(岩井志麻子)_書評という名の読書感想文
『でえれえ、やっちもねえ』岩井 志麻子 角川ホラー文庫 2021年6月25日初版
-
-
『六番目の小夜子』(恩田陸)_書評という名の読書感想文
『六番目の小夜子』恩田 陸 新潮文庫 2001年2月1日発行 津村沙世子 - とある地方の高校にや
-
-
『路傍』(東山彰良)_書評という名の読書感想文
『路傍』東山 彰良 集英社文庫 2015年5月25日第一刷 俺、28歳。金もなけりゃ、女もいな
-
-
『あの子の殺人計画』(天祢涼)_書評という名の読書感想文
『あの子の殺人計画』天祢 涼 文春文庫 2023年9月10日 第1刷 社会派ミステリー・仲田