『風の歌を聴け』(村上春樹)_書評という名の読書感想文(書評その2)
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最終更新日:2024/01/14
『風の歌を聴け』(村上春樹), 作家別(ま行), 書評(か行), 村上春樹
『風の歌を聴け』(書評その2)村上 春樹 講談社 1979年7月25日第一刷
書評その1はコチラ
私にとって最も印象深いフレーズがこれです。
「高校の終り頃、僕は心に思うことの半分しか口に出すまいと決心した。理由は忘れたがその思いつきを、何年かにわたって僕は実行した。そしてある日、僕は自分が思っていることの半分しか語ることのできない人間になっていることを発見した。」
当時、私は大学には入ったものの周囲の学生の白々しく思える程の明るさや快活さに気後れし、馴染めないまま授業にも出なくなっていく自分に鬱々としていました。
自分の心の在り様を知る手立てが見つけられず立往生していたのです。そんなときに見つけたこの文章は、私には天啓のように脳天に響くものでした。
私はこの『風の歌を聴け』という小説が、今まで読んだ小説の中で一番好きです。
何度も、ことある毎に読み返しています。たぶんですが、私はもうこの小説を「読んでいる」 のではなく、半ば 「絵画のよう」 に眺めているのかも知れません。
この小説は、29歳になった 「僕」 が、東京の大学へ進学した20歳の夏に、神戸へ帰省した18日間を回想して綴る物語です。
29歳の 「僕」 とは、おそらく、若き日の村上春樹その人のことでしょう。
「僕」 が退屈な夏休みのほとんどを過ごすのは「ジェイズ・バー」 で、そこにはバーテンダーの中国人、ジェイがいます。
ひとつ年上で、「僕」 よりもっと裕福な家に生まれたという鼠という男は、「僕」 と同じ大学生。
ジェイズ・バーで 「僕」 が出会う女たち - 酔ったまま洗面所で寝ていた、片手の指が4本しかない女。電話をするために 「僕」 に小銭を借りた、グレープフルーツのような乳房をつけ、派手なワンピースを着た30歳ばかりの女。
「僕」 がこれまでに寝た三人の女の子 - 17歳の高校のクラス・メート。新宿で激しいデモが吹き荒れる夜に駅で出会ったヒッピーの女の子。大学の図書館で知り合った仏文科の女子学生。
そして、ラジオのDJが語る、脊髄の病気で入院生活を送る17歳の少女と高校時代にレコードを貸してくれた少女の姉。
彼らは 「僕」 に、どんな思想を植え付けたのでしょう? 「僕」 は、思うほどには語ろうとしません。
※この小説ではあらゆる登場人物がそれぞれに、自分だけの秘めたるドラマを示唆するような科白を呟きます。世を儚むように、シニカルな隠喩を語ります。
その言葉と文章のリズムこそが、この小説の最大の魅力だと思います。村上春樹がなぜ文章を書こうとしたのか、文章で何を伝えようと決意したのかをストレートに表現した、初々しいデビュー作品です。
思い入れが強い作品なので、二部構成です。その1も良かったら読んで下さい。
『風の歌を聴け』(村上春樹)_書評という名の読書感想文(書評その1)
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◆村上 春樹
1949年京都府京都市伏見区生まれ。兵庫県西宮市、芦屋市で育つ。
早稲田大学第一文学部演劇科を7年かけて卒業。在学中にジャズ喫茶「ピーター・キャット」を国分寺に開店する。
作品 「1973年のピンボール」「羊をめぐる冒険」「世界の終りとハードボイルド・ワンダーランド」「TVピープル」「ねじまき鳥クロニクル」「1Q84」「色彩を持たない多崎つくると、彼の巡礼の年」「女のいない男たち」他多数
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