『夜葬』(最東対地)_書評という名の読書感想文

公開日: : 最終更新日:2024/01/12 『夜葬』(最東対地), 作家別(さ行), 書評(や行), 最東対地

『夜葬』最東 対地 角川ホラー文庫 2016年10月25日初版

ある山間の寒村に伝わる風習。この村では、死者からくりぬいた顔を地蔵にはめこんで弔う。くりぬかれた穴には白米を盛り、親族で食べわけるという。この事から、顔を抜かれた死者は【どんぶりさん】と呼ばれた - 。スマホにメッセージが届けば、もう逃げられない。【どんぶりさん】があなたの顔をくりぬきにやってくる。脳髄をかき回されるような恐怖を覚える、ノンストップホラー。第23回日本ホラー小説大賞・読者賞受賞作! (角川ホラー文庫)

その本の背表紙には【最恐スポットナビ】と書いてあります。手に取って見ると、良く言えばシンプルで読みやすい、悪く言えば色が多くて安っぽい印象の、コンビニでよく見かけるタイプの本です。

パラパラとページをめくると目に飛び込んでくるのは、写真と色味の多いカラーの特集ページ。ひと際目立つイラストが描いてあります。・・・・【どんぶりさん】? 顔に穴が空いており気持ちが悪いにもかかわらず、どこか間抜けな、ふざけたネーミングではあります。

見開きの左側を丸々1ページ使って、顔の真ん中にまん丸い穴が空き、目も鼻も口もない女性の絵が描かれています。右のページには『忘れられた孤独の集落に血塗られた葬送の儀式』とあり、穴空き人間とその村の風習についてが写真付きで綴られています。

日頃は臆病なあなたでさえ、怖いもの見たさでつい手に取って読みたくなるような、如何にも興味本位な記事ではありますが・・・・、しかしです。

それは、決して読んではならない「記事」なのです。読めば、今度はあなたが【どんぶりさん】になります。

【夜葬(やそう)】
栃木県の山奥に位置する外界と完全に隔離された鈍振(どんぶり)村に古くから伝わる風習。この村では、人の顔は『神からの借りもの』と信じられている。死後は老若男女問わず顔をくりぬかれ、神様に返すものとされた。魂=神様からの借りもの(顔)は、顔を抉られた地蔵にはめ込み返した。それを【どんぶり地蔵】と呼んだという。
一方で神様に顔を返した死者は、幽世(かくりょ)へ渡る船として扱われる。幽世に着くまで腹が減らないようにと、くりぬいた顔に山盛りの炊き立ての白米を盛られる。このことから、この村では顔を抜かれた死者の事を【どんぶりさん】と呼び、それが村名の由来にもなった。【どんぶりさん】が、幽世へ船(身体)に乗って旅立つのは決まって夜とされ、この村での死者を弔う儀式は必ず夜に行われる。それがこの【夜葬】と呼ばれる鈍振村独自の葬送風習である。《ヴィンチ出版発行 最恐スポットナビより》

鈍振(どんぶり)村に、どんぶり地蔵、死んだ人をして【どんぶりさん】とは・・・・

軽めのタッチで、はじめはたいして怖くもないだろうと。およそ考えられない展開についても、(いつかどこかで)きっとオチがあるんだろうと思いながら読んでいました。

ところが、そうではなかったのです。最後の最後に一番の恐怖があり、収まるどころか事態は更に悪化します。

この本を読んでみてください係数 80/100


◆最東 対地
1980年大阪府交野市生まれ。大阪府在住。

作品 本作で第23回日本ホラー小説大賞・読者賞を受賞。

関連記事

『戸村飯店 青春100連発』(瀬尾まいこ)_書評という名の読書感想文

『戸村飯店 青春100連発』瀬尾 まいこ 文春文庫 2012年1月10日第一刷 大阪の超庶民的

記事を読む

『45°ここだけの話』(長野まゆみ)_書評という名の読書感想文

『45° ここだけの話』長野 まゆみ 講談社文庫 2019年8月9日第1刷 カフ

記事を読む

『この胸に深々と突き刺さる矢を抜け』(白石一文)_書評という名の読書感想文

『この胸に深々と突き刺さる矢を抜け』 白石 一文 講談社 2009年1月26日第一刷 どちらかと

記事を読む

『翼』(白石一文)_書評という名の読書感想文

『翼』白石 一文 鉄筆文庫 2014年7月31日初版 親友の恋人である、ほとんど初対面の男から結婚

記事を読む

『ユーチューバー』(村上龍)_書評という名の読書感想文 

『ユーチューバー』村上 龍 幻冬舎文庫 2025年6月15日 初版発行 静かでクリアで、何も

記事を読む

『春の庭』(柴崎友香)_書評という名の読書感想文

『春の庭』柴崎 友香 文春文庫 2017年4月10日第一刷 東京・世田谷の取り壊し間近のアパートに

記事を読む

『麦本三歩の好きなもの 第一集』(住野よる)_書評という名の読書感想文

『麦本三歩の好きなもの 第一集』住野 よる 幻冬舎文庫 2021年1月15日初版

記事を読む

『個人教授』(佐藤正午)_書評という名の読書感想文

『個人教授』佐藤 正午 角川文庫 2014年3月25日初版 桜の花が咲くころ、休職中の新聞記者であ

記事を読む

『夜がどれほど暗くても』(中山七里)_書評という名の読書感想文

『夜がどれほど暗くても』中山 七里 ハルキ文庫 2020年10月8日第1刷 追う側

記事を読む

『明るい夜に出かけて』(佐藤多佳子)_書評という名の読書感想文

『明るい夜に出かけて』佐藤 多佳子 新潮文庫 2019年5月1日発行 富山は、ある

記事を読む

Message

メールアドレスが公開されることはありません。 が付いている欄は必須項目です

『八月の母』(早見和真)_書評という名の読書感想文

『八月の母』早見 和真 角川文庫 2025年6月25日 初版発行

『おまえレベルの話はしてない』(芦沢央)_書評という名の読書感想文

『おまえレベルの話はしてない』芦沢 央 河出書房新社 2025年9月

『絶縁病棟』(垣谷美雨)_書評という名の読書感想文

『絶縁病棟』垣谷 美雨 小学館文庫 2025年10月11日 初版第1

『木挽町のあだ討ち』(永井紗耶子)_書評という名の読書感想文

『木挽町のあだ討ち』永井 紗耶子 新潮文庫 2025年10月1日 発

『帰れない探偵』(柴崎友香)_書評という名の読書感想文

『帰れない探偵』柴崎 友香 講談社 2025年8月26日 第4刷発行

→もっと見る

  • 3 にほんブログ村 本ブログ 書評・レビューへ
PAGE TOP ↑