『雪の鉄樹』(遠田潤子)_書評という名の読書感想文

『雪の鉄樹』遠田 潤子 光文社文庫 2016年4月20日初版


雪の鉄樹 (光文社文庫)

母は失踪。女の出入りが激しい「たらしの家」で祖父と父に育てられた庭師の雅雪は、両親を失った少年、遼平の世話をしてきた。しかし遼平の祖母は雅雪に冷たく当たり続ける。雅雪も、その理不尽な振る舞いに耐える。いったい何故なのか? そして14年前、雅雪が巻き込まれた事件の真相は? 耐え続ける男と少年の交流を軸に「償いと報い」を正面からとらえたサスペンス。(「BOOK」データベースより)

この感動は、ホンモノだ。深い小説の海へ潜る。本物の人生の物語。とあります。

「もう別格です。」「あまりのすごさにぶっとびました。」「天童荒太に近いかな。とにかく熱量が半端じゃない。」「こういう展開になるのか! と読ませる。」「予備知識なしに読んだほうがいいかもしれないね。」-(『おすすめ文庫王国2017』本の雑誌座談会のコメントより)

もう、どう読んでも絶賛の嵐。これ以上ない傑作か!? と思い、勢い込んで読んでみました。

ところがです。

ところがどうしたことか、上手く読めないのです。読むと「突っかかる」というのか「のつこつ」(京ことばで物をもてあます状態をいいます)した感じがあって、気持ち良くありません。内容もさることながら、私には著者の書く文章が性に合わないのだと思います。

失礼ついでに言わせてもらうと、内容は、最初紹介したように「別格」だとも思えませんし、すごいとも感じないので「ぶっとび」もしません。天童荒太に近いかと訊かれたら、おそらく、それは違うのではないかと。

ずいぶんと作り込んだ話で、「熱量が半端じゃない」という感想は分からぬではありません。とにかく主人公の雅雪 -「まさゆき」はいいにして「雅雪」とは、あてた漢字があざとすぎるのもどうかと - という人物が、文字通り「半端じゃない」のです。

雅雪は、誰に何を言われようと「悪いのは俺です」と応えます。彼の周辺で不都合があり、誰かが迷惑を被ったり、小さくはない事件になったりした場合、雅雪が直接関与しているわけでもないのに、(結局は)悪いのは自分なのだと言い張ります。

悪事や災いの原因はすべて自分にある。雅雪は、心からそう信じています。(実はほとんどがそうではないのですが)彼は不器用で、無骨で、一途な、そうとしか生きられない青年なのです。(この雅雪の生き様をどう感じるか、まずはそれが問題です)

でなければ、何を支えに、遼平の祖母・島本文枝の氷の心に耐えることができるでしょうか。雅雪の恋人・舞子は、文枝にとって確かに憎むべき重大な過失を引き起こした当人なわけですが、だからといって交際相手の雅雪をそこまで無下に扱うのはどうなのかと。

線香をあげるどころか、彼は仏壇に近づくことさえ許されません。お供え物にと持参した菓子包みは、雅雪が帰ると同時にゴミ箱へ捨てられます。正座し、許しが出るまで頭は下げたまま。文枝は、雅雪が訪ねて来ること自体に我慢がならないのです。

それでも雅雪は、遼平に会いに行くことをやめようとはしません。文枝に、成長し反抗期を迎えた、そして事実を知った遼平に、来るなと言われても通い続けます。遼平が高校を卒業するまでは何としても面倒を見続けるんだと自分に言い聞かせ、ひたすら耐えます。

過去に何があって、雅雪はそこまですると決めたのか。事の経緯とその顛末、そして雅雪の今ある状況 - それらをリアルと感じて浸れるかどうか、すべてはそこにかかっているように思います。

 

この本を読んでみてください係数  80/100


雪の鉄樹 (光文社文庫)

 

◆遠田 潤子
1966年大阪府生まれ。
関西大学文学部独逸文学科卒業。

作品 「月桃夜」「アンチェルの蝶」「鳴いて血を吐く」「お葬式」「蓮の数式」など

関連記事

『ディス・イズ・ザ・デイ』(津村記久子)_書評という名の読書感想文

『ディス・イズ・ザ・デイ』津村 記久子 朝日新聞出版 2018年6月30日第一刷 ディス・イズ

記事を読む

『夜よ鼠たちのために』(連城三紀彦)_書評という名の読書感想文

『夜よ鼠たちのために』(復刻名作1位)連城 三紀彦 宝島社 2014年9月18日第一刷 夜よ鼠

記事を読む

『桜の首飾り』(千早茜)_書評という名の読書感想文

『桜の首飾り』千早 茜 実業之日本社文庫 2015年2月15日初版 桜の首飾り (実業之日本社

記事を読む

『茄子の輝き』(滝口悠生)_書評という名の読書感想文

『茄子の輝き』滝口 悠生 新潮社 2017年6月30日発行 茄子の輝き 離婚と大地震。倒産と転職。

記事を読む

『夜は終わらない』上下 (星野智幸)_書評という名の読書感想文

『夜は終わらない』上下 星野 智幸 講談社文庫 2018年2月15日第一刷 夜は終わらない(上

記事を読む

『妖談』(車谷長吉)_書評という名の読書感想文

『妖談』車谷 長吉 文春文庫 2013年7月10日第一刷 妖談 (文春文庫)  

記事を読む

『これからお祈りにいきます』(津村記久子)_書評という名の読書感想文

『これからお祈りにいきます』津村 記久子 角川文庫 2017年1月25日初版 これからお祈りに

記事を読む

『青色讃歌』(丹下健太)_書評という名の読書感想文

『青色讃歌』丹下 健太 河出書房新社 2007年11月30日初版 青色讃歌  

記事を読む

『雪の断章』(佐々木丸美)_書評という名の読書感想文

『雪の断章』佐々木 丸美 創元推理文庫 2008年12月26日初版 雪の断章 (創元推理文庫)

記事を読む

『愛と人生』(滝口悠生)_書評という名の読書感想文

『愛と人生』滝口 悠生 講談社文庫 2018年12月14日第一刷 愛と人生 (講談社文庫)

記事を読む

Message

メールアドレスが公開されることはありません。 * が付いている欄は必須項目です

『夜の側に立つ』(小野寺史宜)_書評という名の読書感想文

『夜の側に立つ』小野寺 史宜 新潮文庫 2021年6月1日発行

『地獄への近道』(逢坂剛)_書評という名の読書感想文

『地獄への近道』逢坂 剛 集英社文庫 2021年5月25日第1刷

『ブルーもしくはブルー』(山本文緒)_書評という名の読書感想文

『ブルーもしくはブルー』山本 文緒 角川文庫 2021年5月25日改

『天国までの百マイル 新装版』(浅田次郎)_書評という名の読書感想文

『天国までの百マイル 新装版』浅田 次郎 朝日文庫 2021年4月3

『七怪忌』(最東対地)_書評という名の読書感想文

『七怪忌』最東 対地 角川ホラー文庫 2021年4月25日初版

→もっと見る

  • 3 にほんブログ村 本ブログ 書評・レビューへ
PAGE TOP ↑