『死刑にいたる病』(櫛木理宇)_書評という名の読書感想文

公開日: : 最終更新日:2024/01/11 『死刑にいたる病』(櫛木理宇), 作家別(か行), 書評(さ行), 櫛木理宇

『死刑にいたる病』櫛木 理宇 早川書房 2017年10月25日発行

主人公の筧井雅也は、元優等生ながら、今は偏差値の低い大学の学生として鬱屈と孤独に苦しむ青年だ。そんな彼のもとに一通の手紙が届く。差出人は、なんと世間を騒がせた殺人鬼・榛村大和。人当たりのいいベーカリーの店主として地元の人々から愛されていた彼は、十代の少年少女を中心に多くの男女を拷問・殺害した罪で五年前に逮捕されていた。

容疑は二十四件に及ぶ大量殺人だが、警察が立件できたのは九件のみ。彼は取り調べの場で「逮捕されたのは、ぼくの思いあがりのせいです」「もう一度やりなおせるなら、今度こそ慢心しないでしょう」などと淡々と供述したという。

遠い昔、小学生だった雅也は大和が経営するベーカリーの常連客だったことがあり、大和はそれを覚えていたらしい。とはいえ、何故今になって雅也に手紙を送ってきたのか。興味を刺激されて拘置所を訪れた雅也に、大和は意外な打ち明け話をする。

立件された九件の殺人のうち、二十三歳の女性が絞殺された最後の一件だけは冤罪だというのだ。大和が雅也を呼んだのは、事件を再調査して無実を証明してほしいからだという。迷いつつも結局その依頼を引き受けた雅也は大和の過去を知る人々を訪ね、彼がどのような人間だったかを調べはじめる・・・・・・・。(解説より抜粋)

なぜ人はこんな話を読みたいと思うのだろう。猟奇殺人犯。連続殺人鬼。秩序型殺人犯。演技性人格障害者。鬼畜。シリアルキラー。異常者。怪物。等々 - 。

思いのほか人というのは薄情なのかもしれない。それとも単に怖いもの見たさによるものか、(理由は何にせよ)殺される人間の数が多ければ多いほど、そのやり口が痛ましければ痛ましいほど惹きつけられてしまうのはなぜだろうか。

(言葉は悪いが)読者の多くは、シリアルキラー(この小説では「榛村(はいむら)大和」という男)に魅了されてしまうのかもしれない。魅了され、榛村の知られざる性格や殺害に至るそもそものきっかけやその後の推移についてを、より詳細に知りたいと思うのだ。

普段の生活では起こり得ない酷く特異な犯罪に、(小説という作り話とはいえ)少なからず興奮している。周辺ではあり得ない出来事だと思うからこそ「安心して」享受していられる、そんなことでもあるのだろうと。

但し、怖気づくような感じかというとそこまでではない。

解説に、本書は『世界が赫に染まる日』や『FEED』などよりはソフトな印象の作品だが、それでもかなり陰惨な要素はある。単に、残虐なシリアルキラーが作中に登場することを指すのではない。雅也は調査の過程で大和の生い立ちを知ることになるが、そこから浮かび上がってくる事実は暗鬱そのものだ。- とある。

とまれこれ一冊ではどうしようもない。この際続けて、この小説を凌駕して陰惨だという『寄居虫女(ヤドカリオンナ)』(文庫化の際に『侵蝕 壊される家族の記録』と改題)と初期の作品『赤と白』(第25回小説すばる新人賞)を読んでみようと思う。

鬱屈した日々を送る大学生、筧井雅也に届いた一通の手紙。それは稀代の連続殺人鬼・榛村大和からのものだった。「罪は認めるが、最後の一件だけは冤罪だ。それを証明してくれないか? 」 パン屋の元店主にして自分のよき理解者だった大和に頼まれ、事件を再調査する雅也。その人生に潜む負の連鎖を知るうち、雅也はなぜか大和に魅せられていく。一つ一つの選択が明らかにする残酷な真実とは。『チェインドッグ』改題・文庫化(早川書房)

この本を読んでみてください係数 80/100

◆櫛木 理宇
1972年新潟県生まれ。
大学卒業後、アパレルメーカー、建設会社などの勤務を経て、執筆活動を開始する。

作品 「ホーンテッド・キャンパス」「赤と白」「侵蝕 壊される家族の記録」「僕とモナミと、春に会う」「209号室には知らない子供がいる」他多数

関連記事

『薄闇シルエット』(角田光代)_書評という名の読書感想文

『薄闇シルエット』角田 光代 角川文庫 2009年6月25日初版 「結婚してやる。ちゃんとしてやん

記事を読む

『国境』(黒川博行)_書評という名の読書感想文(その2)

『国境』(その2)黒川 博行 講談社 2001年10月30日第一刷 羅津・先鋒は咸鏡北道の北の果

記事を読む

『十九歳の地図』(中上健次)_書評という名の読書感想文

『十九歳の地図』中上 健次 河出文庫 2020年1月30日新装新版2刷 「俺は何者

記事を読む

『三の隣は五号室』(長嶋有)_あるアパートの一室のあるある物語

『三の隣は五号室』長嶋 有 中公文庫 2019年12月25日初版 傷心のOLがいた

記事を読む

『それもまたちいさな光』(角田光代)_書評という名の読書感想文

『それもまたちいさな光』角田 光代 文春文庫 2012年5月10日第一刷 【主人公である悠木

記事を読む

『203号室』(加門七海)_書評という名の読書感想文

『203号室』加門 七海 光文社文庫 2004年9月20日初版 「ここには、何かがいる・・・・・・

記事を読む

『JR高田馬場駅戸山口』(柳美里)_書評という名の読書感想文

『JR高田馬場駅戸山口』柳 美里 河出文庫 2021年3月20日新装版初版 夫は単

記事を読む

『出身成分』(松岡圭祐)_書評という名の読書感想文

『出身成分』松岡 圭祐 角川文庫 2022年1月25日初版 貴方が北朝鮮に生まれて

記事を読む

『ザ・ロイヤルファミリー』(早見和真)_書評という名の読書感想文

『ザ・ロイヤルファミリー』早見 和真 新潮文庫 2022年12月1日発行 読めば読

記事を読む

『ゼツメツ少年』(重松清)_書評という名の読書感想文

『ゼツメツ少年』重松 清 新潮文庫 2016年7月1日発行 「センセイ、僕たちを助

記事を読む

Message

メールアドレスが公開されることはありません。 が付いている欄は必須項目です

『マッチング』(内田英治)_書評という名の読書感想文

『マッチング』内田 英治 角川ホラー文庫 2024年2月20日 3版

『僕の神様』(芦沢央)_書評という名の読書感想文

『僕の神様』芦沢 央 角川文庫 2024年2月25日 初版発行

『存在のすべてを』(塩田武士)_書評という名の読書感想文

『存在のすべてを』塩田 武士 朝日新聞出版 2024年2月15日第5

『我が産声を聞きに』(白石一文)_書評という名の読書感想文

『我が産声を聞きに』白石 一文 講談社文庫 2024年2月15日 第

『朱色の化身』(塩田武士)_書評という名の読書感想文

『朱色の化身』塩田 武士 講談社文庫 2024年2月15日第1刷発行

→もっと見る

  • 3 にほんブログ村 本ブログ 書評・レビューへ
PAGE TOP ↑