『老後の資金がありません』(垣谷美雨)_書評という名の読書感想文

『老後の資金がありません』垣谷 美雨 中公文庫 2018年3月25日初版


老後の資金がありません (中公文庫)

「老後は安泰」のはずだったのに!   後藤篤子は悩んでいた。娘の派手婚、舅の葬式、姑の生活費・・・・・・・しっかり蓄えた老後資金はみるみる激減し、夫婦そろって失職。家族の金難に振り回されつつ、やりくりする篤子の奮闘は報われるのか? ふりかかる金難もなんのその、生活の不安に勇気とヒントをあたえる家計応援小説。(中公文庫)

単行本で出た時、ピンときました。(何の根拠もありませんが)これは間違いなくおもしろいだろうと。

作り話であって、作り話に非ず。現に今在る生活が、いっとう庶民レベルで描いてあります。要らぬ矜持や見栄がありません。フツーに暮らす人々の、誰もが経験し得る、人に言えない内輪の「 辛い」話が、包み隠さず真っ正直に書いてあります。

一介の主婦・後藤篤子は、金銭にかかる思いもしない幾多の逆境に繰り返し絶望の淵に立たされながらも、しかし今一歩のところで辛うじて耐え忍ぶ毎日を送っています。

それなりの覚悟を持ち、それなりに計算した上で、つつがなく老後を迎えるはずだった彼女の計画は、ある出来事を境に、崖から転げ落ちるようにしてかたちを変えて行きます。次々と襲い来る「金難」に、もはや篤子はどう対処すればいいか、わからなくなります。

夫の章が定年退職したら夫婦であちこちに紅葉を観に行くはずだったのに - と、思う間もなく、老後にと貯めた貯金が激減したのでした。

1,200万円あった貯金は、さやかの結婚で500万円、そして舅の葬儀と墓で400万円を使い、今や残りは300万円を切ってしまった。夫が定年したあと、どうやって暮らせばいいのか。50代の夫婦で、それだけしか貯金のない人って、日本人の何割くらいいるのだろう。ついさっきのガレットの店で払った代金がもったいなく思えてくる。(本文より)

悪いことは重なるもので、篤子ばかりか、夫の勤める会社がダメになります。経営不振により、本社機能だけを残してそれ以外は全員解雇だと。夫の章は60歳を前にして失職、退職金は一円も出ないといいます。貯金を使ったあげく夫婦揃って馘とは。篤子は、足もとが崩れていくような気持ちになります。

※若いうちならまだしも、そのときの篤子と章、53歳と57歳の夫婦にとっては只事ではありません。老後のこともそうですが、二人にしてみれば、老後に至る、つまりは年金受給開始年齢である65歳までを如何にして生き延びるのか - たちまちは、それが最大の問題となります。

 

この本を読んでみてください係数  85/100


老後の資金がありません (中公文庫)

◆垣谷 美雨
1959年兵庫県豊岡市生まれ。明治大学文学部文学科(フランス文学専攻)卒業。

作品 「竜巻ガール」「リセット」「夫のカノジョ」「ニュータウンは黄昏れて」「あなたの人生、片づけます」「農ガール、農ライフ」「子育てはもう卒業します」他多数

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