『星に願いを、そして手を。』(青羽悠)_書評という名の読書感想文

公開日: : 最終更新日:2024/01/09 『星に願いを、そして手を。』(青羽悠), 作家別(あ行), 書評(は行), 青羽悠

『星に願いを、そして手を。』青羽 悠 集英社文庫 2019年2月25日第一刷

大人になった僕たちの、”夢” との向かい合い方。
16歳の現役高校生が描く、ストレートな青春群像劇。

中学三年生の夏休み。宿題が終わっていない祐人は、幼馴染の薫、理奈、春樹とともに、町の科学館のプラネタリウムに併設された図書室で、毎年恒例の勉強会をおこなっていた。そんな彼らを館長はにこやかに迎え入れ、星の話、宇宙の話を楽しそうに語ってくれた。小学校からずっと一緒の彼らを繋いでいたのは、宇宙への強い好奇心だった。宇宙の話をするときはいつでも夢にあふれ、四人でいれば最強だと信じて疑わなかった。時が経ち、大人になるまでは - 。

祐人は昔思い描いていた夢を諦め、東京の大学を卒業後、故郷に戻り、公務員となった。そんな祐人を許せない理奈は、夢にしがみつくように大学院に進み、迷いながらも宇宙の研究を続けている。薫は科学館に勤め、春樹は実家の電気店を継いだ。それぞれ別の道を歩いていた彼らが、館長の死をきっかけに再び集まることになる - 。第29回小説すばる新人賞受賞作。(アマゾン内容紹介より)

館長が死んだ。そのことが今更頭をよぎった。
その死が、「このままのお前で本当にいいのか」 と、自分への信頼を足元から揺るがし続けている。「あの時、諦めたよね」 と理奈が後ろ指を指す。心の中がくすぶり、何かが暴れだすような夜をいくつも越える。浅い眠りで朝を迎える。

「何かを掴み損ねたんだ」
何か言おうとしたわけではないのに、気付けば口を開いていた。そのこぼれ出た言葉に自分でも驚くが、それはとりとめもなく広がっていくような今の感覚にぴったりだった。

「何か、ですか」
「そう。何か」
夢よりは具体的で、現実よりは眩しい何か。

僕は、その何かをずっと待っていたはずだった。
いろんなことを選ぶうちに、気が付けば大切なものを手放していた。
(P149.150 一部略)

これは大学卒業後地元に帰り、町役場の観光課で働く祐人と同じ課の後輩である宮田が、夏の終わりに催される花火大会の本部にいて、日中暇に任せてするやり取りの場面です。

ここでも、未だ祐人は - これまでには多くの分岐点があり、その先にはそれぞれの未来があったはずなのに、何度も選択を積み重ねている間に 「自分が進んでいると思っていた場所と大きくずれた位置に来てしまった」 と思っています。

では進むべき道に答えがあるかといえばそれはなく、然るに間違えようがないとも言え、今が結構満ち足りているという宮田の言葉に頷きはするものの、本心から納得しているわけではありません。選び損ねた未来が確かに自分にはあり、それが今ではすべて存在しない過去に変ってしまったことが、「怖いし、悲しい」 と感じています。

- さて、これはほんの一例ですが、読んでみなさんはどんな感じを受けたでしょう? 

書いてあることは、とてもよくわかります。その年頃にはありがちな迷いが適確に、整然とした文章で綴られています。

批判するのではありません。私が何気に感じたのは - 16歳の少年が、なぜ、(その年齢に) なってもいない人のことを書いたのか? - ということです。

この先の自分を想像し、あるいは友人の誰かの未来を予感して、もしも状況がそうであったらと仮定した上で書いたのでしょうが、それらしくはあるものの、その年頃の若者なら大抵一度や二度は誰もが思う、ごく当たり前のことが書いてあります。

もしもこれが高校一年生の、16歳の少年が書いたものではなく、相応の年齢の人が書いたものだとしたら、おそらく抵抗なく読んだはずです。なぜこんな無茶なことをしたのでしょう。そんな無理をしなくてよかったのに - と思うのですが、どうでしょう?

したこともない話を書くのではなく、できれば デビューの時の綿矢りさのような、16歳にしか書けないものが読みたかったと思うのは、私ばかりのことなのでしょうか。彼には十二分にその才能があると思うのですが。

この本を読んでみてください係数 80/100

◆青羽 悠
2000年愛知県生まれ。
京都大学総合人間学部在学中。

作品 高校2年時の16年 『星に願いを、そして手を。』 で第29回小説すばる新人賞を史上最年少で受賞し、デビュー。

関連記事

『ハーレーじじいの背中』(坂井希久子)_書評という名の読書感想文

『ハーレーじじいの背中』坂井 希久子 双葉文庫 2019年1月13日第一刷 坂井希

記事を読む

『半落ち』(横山秀夫)_書評という名の読書感想文

『半落ち』横山 秀夫 講談社 2002年9月5日第一刷 「妻を殺しました」。現職警察官・梶聡一

記事を読む

『夜の側に立つ』(小野寺史宜)_書評という名の読書感想文

『夜の側に立つ』小野寺 史宜 新潮文庫 2021年6月1日発行 恋、喪失、秘密。高

記事を読む

『僕はロボットごしの君に恋をする』(山田悠介)_幾つであろうと仕方ない。切ないものは切ない。

『僕はロボットごしの君に恋をする』山田 悠介 河出文庫 2020年4月30日初版

記事を読む

『幸福な日々があります』(朝倉かすみ)_恋とは結婚とは、一体何なのか?

『幸福な日々があります』朝倉 かすみ 集英社文庫 2015年8月25日第1刷 「夫

記事を読む

『輪 RINKAI 廻』(明野照葉)_書評という名の読書感想文

『輪 RINKAI 廻』明野 照葉 文春文庫 2003年11月10日第1刷 茨城の

記事を読む

『間宵の母』(歌野晶午)_書評という名の読書感想文

『間宵の母』歌野 晶午 双葉文庫 2022年9月11日第1刷発行 恐怖のあまり笑い

記事を読む

『夜をぶっとばせ』(井上荒野)_書評という名の読書感想文

『夜をぶっとばせ』井上 荒野 朝日文庫 2016年5月30日第一刷 どうしたら夫と結婚せずにす

記事を読む

『捨ててこそ空也』(梓澤要)_書評という名の読書感想文

『捨ててこそ空也』梓澤 要 新潮文庫 2017年12月1日発行 平安時代半ば、醍醐天皇の皇子ながら

記事を読む

『脊梁山脈』(乙川優三郎)_書評という名の読書感想文

『脊梁山脈』乙川 優三郎 新潮文庫 2016年1月1日発行 上海留学中に応召し、日本へ復員する

記事を読む

Message

メールアドレスが公開されることはありません。 が付いている欄は必須項目です

『つまらない住宅地のすべての家』(津村記久子)_書評という名の読書感想文

『つまらない住宅地のすべての家』津村 記久子 双葉文庫 2024年4

『悪逆』(黒川博行)_書評という名の読書感想文

『悪逆』黒川 博行 朝日新聞出版 2023年10月30日 第1刷発行

『エンド・オブ・ライフ』(佐々涼子)_書評という名の読書感想文

『エンド・オブ・ライフ』佐々 涼子 集英社文庫 2024年4月25日

『アトムの心臓 「ディア・ファミリー」 23年間の記録』(清武英利)_書評という名の読書感想文

『アトムの心臓 「ディア・ファミリー」 23年間の記録』清武 英利 

『メイド・イン京都』(藤岡陽子)_書評という名の読書感想文

『メイド・イン京都』藤岡 陽子 朝日文庫 2024年4月30日 第1

→もっと見る

  • 3 にほんブログ村 本ブログ 書評・レビューへ
PAGE TOP ↑