『君は永遠にそいつらより若い』(津村記久子)_書評という名の読書感想文
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最終更新日:2025/12/31
『君は永遠にそいつらより若い』(津村記久子), 作家別(た行), 書評(か行), 津村記久子
『君は永遠にそいつらより若い』津村 記久子 筑摩書房 2005年11月10日初版
この小説は、津村記久子のデビュー作にして太宰治賞受賞作です。
私は、この人が書く小説の主人公 (その多くが著者と等身大の女性) が大好きです。比較的地味で、おそらく目を引くような美人でもなくて、やや卑屈。それでかどうかはわかりませんが、自意識はかなり強固で、その分素直にものが言えずにときに変人扱いされてしまうことがあります。
ところが、見た目と違い、彼女の内側では気分は縦横無尽、(誰に対しても) 無敵の戦士となります。妄想は際限なく広がり、憎い敵を薙ぎ倒し、正しいと信じることは怯まず一歩も後には引きません。
「他人 (ひと) が要ることは、難しい」と、彼女は痛切に感じています。他人の痛みや悩み、望んでいることもわかっているのに、思い通りに話せない、態度で示すことができないのでした。
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主人公の堀貝佐世 (ホリガイ) は京都に住む女子大生、卒業を間近に控え、地方公務員試験にも合格して、半ば燃え尽きたようにぼんやりとした毎日を送っています。22歳のホリガイは、未だに自分が処女であることが何より憂鬱で、処女という言葉を呪ってさえいます。
できれば 「童貞の女」 ということにしてほしいと願い、さもなくば別の言葉を発見して流行らせてほしいと思っています。「不良在庫」 とか 「劣等品種」、「ヒャダルコ」 とか 「ポチョムキン」 とか・・・・・。ホリガイは才気ある、でもちょっと奥手の女子大生でした。。
穂峰君はホリガイが惚れた男で、子供が虐待されている様子を見かねて自分の部屋に住まわせていたのを、誘拐と勘違いされて警察の取り調べを受けるような人物です。彼との結婚を密やかに夢見るホリガイだったのですが、彼はある日突然自らの命を絶ってしまうのでした。
河北は大学を退学して、現在は実業家。河北とホリガイは腐れ縁で、河北は彼女を女扱いしませんが食事に誘ったりする仲です。ホリガイ曰く、河北は他人の心の機微に対してカジュアル過ぎる、その過ぎた部分こそを自分の得手としているような、ちょっと困った人物です。
河北の恋人・アスミちゃんを部屋に泊めたことがきっかけで、ホリガイは猪乃木楠子 (イノギ) という女子学生と知り合うことになります。ホリガイがバイト先で出会うヤスオカとの交流を間に挟みながら、小説は徐々にホリガイとイノギの関わりへと収斂していきます。
バイト先の酒造工場にやってきたヤスオカと、彼の指導役になったホリガイとのやりとりは、私がこの小説のなかで最も楽しくうずうずしながら読んだ部分です。
ヤスオカはホリガイに懐いています。ホリガイも、ヤスオカには気を許しています。食事に行った居酒屋で、ホリガイはヤスオカからある相談を受けます。この相談が男にとっては誠に切実な問題なのですが、二人のやり取りが傑作で只々笑ってしまいます。
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小学生の頃、同級生の2人の男子と大喧嘩の末、ひどく殴られた記憶をホリガイは忘れることができません。好きだった穂峰君がやろうとしたことは、赤の他人の子供を虐待から救い出すことでした。
ホリガイが地方公務員になろうとした本当の目的は、児童福祉に関わる仕事に就くためでした。児童福祉司の資格を取った誰にも言えない理由 ・・・・・・・それはテレビの特番でみた行方不明の男の子を捜し出すためでした。
その時の衝動を、ホリガイは上手く説明できません。しかし、彼女の中で次第にその思いは具体的な形となり、やがて強固な意思へと醸成されていきます。
この小説の骨格となるテーマであり、語られるのは 「無力で、理不尽なもの」 に対する抵抗とそれに立ち向かうホリガイの 「成長と自由」 への軌跡です。
ホリガイの初体験の相手は、イノギさんでした。イノギさんの部屋で、その事件は語られます。中学生だったイノギさんは、ある日自転車の後ろから車をぶつけられて、逃げようとした矢先に尖った石で頭を殴られて意識を失くします。男の目的は暴行でした。この事件のせいで両親は離婚し、イノギさんの毛穴と片耳は潰れてしまうのでした。
※津村記久子という人は、大人になる一歩手前の女性の心理を本当に巧みに表現してくれる作家だと思います。辛辣だけど嫌味がなく、正直すぎるくらい正直に書けてしまうのはやはり与えられた才能なんだと。
小説の最後は卒業の半年後、話は冒頭のシーンに遡ります。ホリガイは、休学中のイノギさんが暮らす和歌山沖の島へ行こうとしています。「あなたのことをいつも気にしている」 という気持ちを、今こそ、ホリガイはイノギさんに伝えようとしています。
この本を読んでみてください係数 85/100
◆津村 記久子
1978年大阪府大阪市生まれ。
大谷大学文学部国際文化学科卒業。
作品 「まともな家の子供はいない」「カソウスキの行方」「ミュージック・ブレス・ユー!!」「アレグリアとは仕事はできない」「ポトスライムの舟」「とにかくうちに帰ります」「ダメをみがく”女子”の呪いを解く方法」「これからお祈りにいきます」など
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