『さんかく』(千早茜)_なにが “未満” なものか!?
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最終更新日:2024/01/09
『さんかく』(千早茜), 作家別(た行), 千早茜, 書評(さ行)
『さんかく』千早 茜 祥伝社 2019年11月10日初版
![](http://choshohyo.com/wp-content/uploads/2024/01/71nzmzMc60L._AC_UL320_-1.jpg)
「おいしいね」 を分けあえる そんな人に、出会ってしまった。
恋はもういらないと言うデザイナーの夕香。
夕香の “まかない” が忘れられない営業職の正和。
食事より彼氏より、研究一筋の日々を送る華。古い京町家で暮らす夕香と同居することになった正和。
理由は “食の趣味” が合うから。ただそれだけ。なのに、
恋人の華には言えなくて・・・・・・・。
三角関係未満の揺れ動く女、男、女の物語。(祥伝社)
「三角関係未満」 とありますが、読むかぎり、そもそもその “定義” に無理があるのではないかと。「未満」 というのはあまりに無責任な解釈で、実のところはこの上なく身勝手なことであるような。そんな感じがします。以下にその根拠を述べたいと思います。
1.本当でしょうか? 夕香と正和の、こんな関係が現実にあるとするなら、それはもう、紛れもなく “夫婦” ではないかと。
二人の関係は (単にセックスレスなだけで) 内実は限りなく “夫婦” に近いものだろうと。食の趣味が合うとは、それを理由に同居を決めたとしたら、もはやそれは “そういうこと” なんだろうと。
互いに燻る本心をきれいごとで片付けて - そのほとんどを料理に託けて - それで全てが丸く収まるなら、世話はありません。「恋はもういらない」 と言うのなら、夕香こそが罪作りで、いかな年上であるとはいえ、むしろ年上であるからこそ、自ら誘った上で同居などするべきではなかったのでしょう。
たとえ夕香の方に正和に対する恋情が1ミリもなかったとしても、正和はそうではなかったことに気付かずにいたとは言わせません。どこかしらで自覚しつつそれを紛らわし、年上の自立した女の矜持を盾に、自分を慕う若い男を安全な位置に据えた上、手の込んだ料理を餌に徒に翻弄するだけのことではなかったのかと。正和は思うほど大人ではありません。
2.可哀相なのは、そして一等正直に生きていると思えるのは、華です。
大学の研究室での華のもっぱらの仕事は、死んだ動物の解体と解剖でした。そんな彼女が 「肉が食べたい」 と言います。正和はフライドチキンを買って彼女の部屋へ行き、二人してそれを食べている時の会話。
「華はこういう話をしていてもおいしく食べられるの」
意味がわからなかった。数秒たって責められているのだとわかった。残酷だとでも言いたいのだろうか。
(華は仕事のことが一時も頭から離れません。食事時にはまことに相応しくない骨や標本の話ばかりを平気でします)
「ねえ、正和」
ゆっくりと言った。
「おいしいよ」
にっこりと笑う。知っても知らなくても味は変わらない。なにも知らず大量消費社会の恩恵を受け、自分の手を汚したことのない人間は傷ついたふりがしたいだけだ。知ろうとすれば簡単に調べられることなのに。あたしは神様じゃない。だから、事実に対して判定はしない。ただ、知っておくだけだ。
でも、知ろうともしないのが普通なのかもしれない。あたしが髪を巻いて化粧をして可愛い服を着ていれば普通の女の子だと思い込む男の子たちのように。本当はなにをしているのか、どんな人間なのか、知らない方がおいしく、楽しく、関われるのだろう。(本文より)
華を愛しく思う気持ちの反面、華の仕事に対するあまりな熱量についていけない正和は、現に彼女と気ままに会うことすら叶いません。一方、華は華で考えています。「自分がなにをしたいのか」 と。彼氏がいるという状態が大事なだけで、一緒に生活することなんか考えていなかったのかもしれない。果たして 「あたしは正和と結婚したいのだろうか」 と。
そんなさなか、
正和は、夕香が暮らす古い京町家でルームシェアをすることになった。
理由は “食の趣味” が合うから。
それだけだったのに、恋人の華には言い出せなくて・・・・・・・。
- とまあ、話はこんな感じでこんがらがっていきます。
この本を読んでみてください係数 80/100
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◆千早 茜
1979年北海道江別市生まれ。
立命館大学文学部人文総合インスティテュート卒業。
作品 「魚神(いおがみ)」「おとぎのかけら/新釈西洋童話集」「からまる」「森の家」「桜の首飾り」「あとかた」「眠りの庭」「男ともだち」「夜に啼く鳥は」他
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