『背中の蜘蛛』(誉田哲也)_第162回 直木賞候補作
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最終更新日:2024/01/09
『背中の蜘蛛』(誉田哲也), 作家別(は行), 書評(さ行), 誉田哲也
『背中の蜘蛛』誉田 哲也 双葉社 2019年10月20日第1刷

池袋署刑事課の課長・本宮夏生は、管内で起きた殺人を担当する。しかし捜査は、遅々として進まない。そんなとき捜査一課長から、殺された男の妻の過去を、ひそかに調べるように命じられる。命令系統から外れた捜査一課長の指示を怪しみながら、本宮はふたりの部下を使い、妻の過去を調べるのだった。
事件の犯人も殺人の動機も、分かってみればありふれたものである。だが、事件を解決に導いた、捜査一課長の命令は何だったのか。疑問が解かれぬまま、第二部 「顔のない目」 が始まる。
こちらは違法薬物の売人が爆殺され、尾行をしていた警視庁本部の組織犯罪対策部に所属する植木範和が負傷。事件は、植木と組んだことのある高井戸署の佐古充之が掴んだ情報により解決する。しかし情報の出どころが不鮮明だ。疑問を感じた植木は、その情報の出どころを突き止めようとする。そんな彼に声をかけたのが、今は捜査一課の管理官になった本宮であった。(細谷正充/「小説推理」 より抜粋)
二つの事件は (表向きには) 何ら関係のない、およそ別々のものでした。そして、捜査に当った現場の警察官のほとんどが、概ね事件は解決したと、そう信じて疑いもしませんでした。
ところが、二つは “繋がっているのではないか” と考えた人物がいます。最初の事件では池袋署刑事課の課長として事件に当った、次の事件では捜査一課の管理官となって事件を指揮した警視の、本宮夏生でした。
本宮は、「あること」 に気付きます。ありふれたかに思えた二つの事件に共通する、ある 「奇妙な点」 に、常にはない違和感を抱いたのでした。
それが 「何か」 はわかりません。ただ裏で 「何か」 が繋がっており、その 「何か」 のおかげで、事件は容易く解決したのではないかと。そう考えた本宮は、「奇妙な点」 に着目し、「あること」 の “真の出どころ” を探ろうとします。
このあと、読者の多くのみなさんは、おそらく得体の知れない現実に言葉を失くすことになります。今ある日常を、もしもあなたが何程の危機感も持たずに生きているとするなら、最大級のダメージを負うはずです。
あなたは、携帯電話の基地局に成りすまし、あらゆる通話を盗聴する 『スティングレイ』 という機材のことをご存じでしょうか? 米国で開発された、『PRISM』 や 『XKeyscore』 や 『バウンドレス・インフォーマント』 といった通信傍受システムについてはどうでしょう?
もしも、それらを駆使することで、我々のプライベートなすべての情報が剥き出しのままに晒されて好き勝手に閲覧され、場合によっては利用されたりしているとするなら、この先我々は何を以てそれに対することができるのか・・・・・・・
この警察小説はフィクションです。但し、今のところは。
あなたに、今の日本の現実を正面から見つめる覚悟はありますか?
読むと、あなたはもうこれまでの日常には戻れなくなります。
この本を読んでみてください係数 85/100

◆誉田 哲也
1969年東京都生まれ。
学習院大学経済学部経営学科卒業。
作品 「妖の華」「アクセス」「ストロベリーナイト」「武士道セブンティーン」「ハング」「あなたが愛した記憶」「ケモノの城」他多数
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