『雪が降る』(藤原伊織)_書評という名の読書感想文

『雪が降る』藤原 伊織 角川文庫 2021年12月25日初版

雪が降る (角川文庫)

没後15年記念〉 史上初の乱歩賞&直木賞のW受賞を成し遂げた、不出世の偉才・藤原伊織による至高の短編集。

ギャンブルに溺れ、自堕落な日々を過ごす会社員・志村。彼の元に、1通のメールが届く。〈母を殺したのは、志村さん、あなたですね〉 メールの送り主は、かつて愛した女性・陽子の息子だった - 。訪ねてきた少年とともに、志村は目を背け続けてきた彼女との記憶を辿り始める。その末に明らかになる、あまりにも切ない真実とは (「雪が降る」)。不朽の名作 『テロリストのパラソル』 の著者による、6編を収録した短編集。解説・黒川博行 (角川文庫)

目次
台風
雪が降る
銀の塩
トマト
紅の樹
ダリアの夏

帯に大きく、黒川博行氏絶賛!!  と書いてあります。「とにかく巧い。これは掛け値なしの感想だ。」 と。もしも 「黒川博行」 ではなかったら、たぶん私はこの本を買わなかったと思います。

藤原伊織をわたしは “イオリン” と呼ぶ。イオリンはわたしよりひとつ年上だが、わたしのことを “おっちゃん” と呼ぶ。イオリンの本名は利一といい、これをアルファベットで書いて文字を並べかえると、”IORI” になるのだと、本人はいう。”RIICHI” には “O” がないやんけ、と思うのだが、わたしも五十をすぎたオトナだから、あえて反論はしない。

わたしがイオリンと知りあったのは、彼が 『テロリストのパラソル』 で江戸川乱歩賞と直木賞をダブル受賞したあとだった。イオリンがなにかのエッセイに、「乱歩賞という満貫を自模ったら裏ドラがのって、直木賞という倍満になった」 というふうに書いていたのを読んで、これはそうとうの麻雀好きやな、と、わたしは手ぐすねをひき、担当編集者を通して対戦を申し込んだのである。

イオリンと親しくなって、共通するところがたくさんあると分かった。彼は大阪生まれで市内の高津高校という進学校に入り、美術部に所属して油絵を描いていた。コンクールに何度も入賞するほどの腕だったという。当時のクラブ顧問のS先生はわたしの羽曳野市の家のすぐ近くに住んでいて、いまはわたしのよめはんといっしょに毎週、デッサン会をしている。わたしとよめはんは京都芸大の出身だが、高津高校からも多くの学生が入学し、イオリンを知っている連中も何人かいた。イオリンは頭がよすぎたために芸大には行けず、東大に入って学生運動と麻雀にのめりこんだらしい。ちなみにわたしは、頭の形はいいのだが中身がともなわず、芸大にしか行けなくて競馬と麻雀にのめりこんだ。

今回の角川文庫の前に発行された講談社版に載った黒川氏の解説のうち、直接小説とは関係ない部分をあえて選んで紹介しています。(こっちの方が断然面白い! )

でも、安心してください。作品それぞれの解説は、後にきちんと書いてあります。表題作のみ、紹介しておきたいと思います。※ややネタバレぎみですが、そこはご了承を。

雪が降る』- 企業小説といえるだろう。人間模様にイオリンが勤めている広告代理店の知識が生かされている。小さな起伏に大きなドラマがある。
陽子の残した未発信のメール。〈志村さん。このまえは、あなたと最初からいっしょに 「ランニング・オン・エンプティー」 を見たかった。そしてきょう、もし会えれば最高のセックスをしたい。してみたい。したかった。してください。これから私は横浜にいきます〉
ここがいい。めちゃくちゃいい。
ビデオショップでリバー・フェニックスの 『ランニング・オン・エンプティー』 をレンタルしよう。

この本を読んでみてください係数 80/100 

雪が降る (角川文庫)

◆藤原 伊織
1948年大阪生まれ。2007年、食道癌のため59歳で永眠。
東京大学文学部仏文科卒業。

作品 「ダックスフントのワープ」「テロリストのパラソル」「てのひらの闇」「ダナエ」「シリウスの道」「ひまわりの祝祭」等

関連記事

『フォルトゥナの瞳』(百田尚樹)_書評という名の読書感想文

『フォルトゥナの瞳』百田 尚樹 新潮文庫 2015年12月1日発行 フォルトゥナの瞳 (新潮文

記事を読む

『ひゃくはち』(早見和真)_書評という名の読書感想文

『ひゃくはち』早見 和真 集英社文庫 2011年6月30日第一刷 ひゃくはち (集英社文庫)

記事を読む

『パトロネ』(藤野可織)_書評という名の読書感想文

『パトロネ』藤野 可織 集英社文庫 2013年10月25日第一刷 パトロネ  

記事を読む

『夜よ鼠たちのために』(連城三紀彦)_書評という名の読書感想文

『夜よ鼠たちのために』(復刻名作1位)連城 三紀彦 宝島社 2014年9月18日第一刷 夜よ鼠

記事を読む

『ぼくはイエローでホワイトで、ちょっとブルー』(ブレイディみかこ)_書評という名の読書感想文

『ぼくはイエローでホワイトで、ちょっとブルー』ブレイディみかこ 新潮文庫 2021年7月1日発行

記事を読む

『平成くん、さようなら』(古市憲寿)_書評という名の読書感想文 

『平成くん、さようなら』古市 憲寿 文春文庫 2021年5月10日第1刷 平成くん、さような

記事を読む

『カルマ真仙教事件(中)』(濱嘉之)_書評という名の読書感想文

『カルマ真仙教事件(中)』濱 嘉之 講談社文庫 2017年8月9日第一刷 カルマ真仙教事件(中

記事を読む

『夜葬』(最東対地)_書評という名の読書感想文

『夜葬』最東 対地 角川ホラー文庫 2016年10月25日初版 夜葬 (角川ホラー文庫) あ

記事を読む

『まぐだら屋のマリア』(原田マハ)_書評という名の読書感想文

『まぐだら屋のマリア』原田 マハ 幻冬舎文庫 2014年2月10日初版 まぐだら屋のマリア (

記事を読む

『45°ここだけの話』(長野まゆみ)_書評という名の読書感想文

『45° ここだけの話』長野 まゆみ 講談社文庫 2019年8月9日第1刷 45° ここだ

記事を読む

Message

メールアドレスが公開されることはありません。 が付いている欄は必須項目です

『生命式』(村田沙耶香)_書評という名の読書感想文

『生命式』村田 沙耶香 河出文庫 2022年5月20日初版発行

『中尉』(古処誠二)_書評という名の読書感想文

『中尉』古処 誠二 角川文庫 2017年7月25日初版発行

『犬のかたちをしているもの』(高瀬隼子)_書評という名の読書感想文

『犬のかたちをしているもの』高瀬 隼子 集英社文庫 2022年9月1

『殺人者』(望月諒子)_書評という名の読書感想文

『殺人者』望月 諒子 新潮文庫 2022年11月1日発行

『緑の我が家』(小野不由美)_書評という名の読書感想文

『緑の我が家』小野 不由美 角川文庫 2022年10月25日初版発行

→もっと見る

  • 3 にほんブログ村 本ブログ 書評・レビューへ
PAGE TOP ↑