『大人になれない』(まさきとしか)_歌子は滅多に語らない。
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最終更新日:2024/01/09
『大人になれない』(まさきとしか), まさきとしか, 作家別(ま行), 書評(あ行)
『大人になれない』まさき としか 幻冬舎文庫 2019年12月5日初版
学校から帰宅し、母親に捨てられたと知った小学生の純矢。母の親戚・歌子の家に預けられたがそこはデブ女、無職の中年、67歳の引きこもりや毒親の老婆など、純矢が 「生きてる価値ない」 と思う大人の吹き溜まりだった。捨て子の自分も同類だと不貞腐れていたある日、「歌子が双子の姉を殺した」 と聞き探り始めるが。大人になれない大人たちの感動ミステリ。(幻冬舎文庫)
まずはこの物語に登場する主な人物を紹介しましょう。
[森見カレン] 本名は勝子。勝子という名前が嫌で、自分をカレンと呼んでいます。シングルマザーの彼女は、一人息子に向けて 「これからは親戚の家で暮らしてくれる? 」 という置き手紙一枚を残したきりで、ある日突然行方知れずになります。どうやらカレンには、我が子より大事な夢があるらしい。
[森見純矢] 勝子の息子。小学五年生。彼が行けと言われて行ったのは、万知田歌子の家でした。そこは防風林を挟んで北側に建つぽつんと一軒だけの 「ぼろ着をまとってじっと耐えている貧乏人といった印象」 の家でした。
[万知田歌子] 38歳、独身。純矢が万知田家を初めて訪ねて行った時の歌子に対する彼の印象はというと、
ひとことで言うなら・・・・・・・いや、ひとことじゃとても言いきれないけど、まずデブ。デブとしてのバランスが完璧な、見本のようなデブ。でも、それよりも僕が圧倒されたのはその恰好だ。デブのくせにびたびたの黒いTシャツを着て、しかも胸にはSEXなんとかと書いてあるし、つぶれた大福みたいな腹がはみだしている。下は銀色のファスナーがたくさんついた黒いミニスカートで、大根どころじゃない迫力の足が剥きだしだ。(P14)
といったものでした。歌子という人物は、中々に正体を現しません。ただ、彼女が (純矢をはじめ数名の居候を含む) 万知田家の家計を一手に支えているのは確かなことで、それを苦にする素振りも見せません。歌子は、概ね、飄々としています。その上、思いのほか男にモテます。
[万知田政江] 歌子の母。純矢は最初 “魔女” と見間違えたのでした。
[万知田花子] 歌子の双子の姉。(防風林で首を吊って死んだはずの人)
[亀山太助] 41歳。居候。万知田家の暮らしの中心を担いながら就活中。
[江口修] 67歳。居候。万知田家で引きこもり中。
[宇佐木毬男] 32歳のプー。歌子をこよなく愛し、できれば一緒になりたいと考えています。
[早乙女美留久] 30歳。ほんのつかの間万知田家で居候。同じデブでも、歌子とは大違い。彼女は名字が嫌いで、名前も嫌い。思い通りにいかないことは、こうなったのは、全部親のせいだと思っています。
※舞台は、札幌のとある古びた一軒家。どういうわけでか、そこには 「大人になれない」 大人ばかりが集まっています。というか - 、では己の今までを振り返り、そもそも 「大人になる」 とは、人の、何がどうなることなのでしょう?
それを知るために、「大人になれない」 大人の “手本” として示される、たとえば亀山太助や江口修や毬男や美留久のような、究極森見カレンのような人物は、ある意味とてもわかり易いキャラクターとして描かれています。
問題なのはやはり 「万知田歌子」 その人です。こまっしゃくれた小学生の純矢だけが、素の彼女、彼女が抱えて生きる心の闇に気付くのは、純矢もきっとそれに似た気持ちを抱えたままでどうすることもできずにいたからでしょう。
彼が今在る不確かな思いを晴らすには、”とりあえず大人な” 面々とは違い、大人になるために必要な、相応の時間を待たなければなりません。
この本を読んでみてください係数 85/100
◆まさき としか
1965年東京都生まれ。北海道札幌市育ち。
作品 「夜の空の星の」「完璧な母親」「いちばん悲しい」「途上なやつら」「熊金家のひとり娘」「ゆりかごに聞く」「屑の結晶」「ある女の証明」他
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