『サムのこと 猿に会う』(西加奈子)_書評という名の読書感想文
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最終更新日:2024/01/08
『サムのこと 猿に会う』(西加奈子), 作家別(な行), 書評(さ行), 西加奈子
『サムのこと 猿に会う』西 加奈子 小学館文庫 2020年3月11日初版
そぼ降る雨のなか、様々なことが定まらない二十代男女5人が、突然の死を迎えた仲間の通夜に向かうところから始まる 『サムのこと』。
二十代半ばの、少し端っこを生きている仲良し女子3人組が温泉旅行で、「あるもの」 に辿り着くまでを描いた 『猿に会う』。
小説家志望の野球部の友人と、なぜか太宰治の生家を訪ねることになった高校生男子が、そのまま足を伸ばした竜飛岬で、静かに佇む女性に出会う 『泣く女』。
人生の踊り場のようなふとした隙間に訪れる、「何かが動く」 瞬間を捉えた初期3作を新たに編んだ短編集。(小学館文庫)
「サムのこと」
仲間は全部で6人。死んだのはサムでした。
サムの名前は伊藤剛。なぜか、知り合った頃からサムはサムでした。スミはそのまま角で、モモは桃子、キムは金で、ハスは蓮見。「僕」 は有本でアリで、スミだけひとつ年上で、あとは全員同じ年の26歳。僕らが出会ったのは、10代の終わりでした。
その日は午後から雨でした。僕らは誰も喪服を持っていません。それでも皆が何とか黒い服を準備して、桃谷駅のメモリアルパークに向かいます。
「猿に会う」
二十五歳になっても彼氏おらんいうのはあかんのちゃうん、と、きよちゃんに言われて、さつきちゃんは、ぐう、と、下唇を噛んだのだけど、さつきちゃんの前歯は、なんか丸いから、ラムネを二個、ふざけて唇にはさんでいるみたいに見える。
二十歳くらいまでやったら、処女の女の子とか、男の子は喜ぶかも知らんけど、数えで二十六で経験がない、て言うと、ひるんでまうで?
これはある日のきよちゃんとさつきちゃんのやり取りです。きよちゃんはあくまで数え年にこだわります。二人のほかにもう一人、まこちゃんがいます。
三人が出会ったのは、中学一年生で、蒼井きよ、明石さつき、飯田まこ、という出席番号順で仲良くなったのでした。それからおよそ十年。今も実家暮らしの三人は、驚くべきことに、現在も中学生並みの精神的かつ身体的レベルを維持しています。年に一度の楽しみに、今年は日光東照宮へ旅行に行くと決めました。
「泣く女」
小学校の頃から、堀田とノリオは野球少年でした。高校では県大会の決勝まで行き、そこで二人の夏は終わったのでした。
ノリオには推薦の話が来ており、そのまま進学して野球を続けるつもりでした。堀田も当然野球を続けるだろうと思っていると、県大会が終わった後、今後どうするのだ、と聞いたノリオに、堀田はこう言ったのでした。
「小説家になる。」
「決勝で負けて、決心したわ。俺、野球もめっちゃ好きやけど、やっぱり小説家になりたいねん。太宰みたいな、小説家。」
最後の夏の思い出に東京へ行こうと誘うノリオの気持ちを無下にして堀田が青森へ行こうと言ったのは、そこが太宰の故郷だったからでした。
※「何かが動く」 瞬間とは - 、気付くとそれは、その後のあなたの人生においてかなり大きな意味を持つような。好むと好まざると、あなたの何かを決定付けてしまうような。そこから先の人生になくてはならないような。そんなものの 「気配」 のことでしょうか?
この本を読んでみてください係数 85/100
◆西 加奈子
1977年イラン、テヘラン生まれ。エジプト、大阪府堺市育ち。
関西大学法学部卒業。
作品 「あおい」「さくら」「きいろいゾウ」「漁港の肉子ちゃん」「通天閣」「円卓」「ふくわらい」「サラバ!」他
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