『ホワイトラビット』(伊坂幸太郎)_書評という名の読書感想文
公開日:
:
『ホワイトラビット』(伊坂幸太郎), 伊坂幸太郎, 作家別(あ行), 書評(は行)
『ホワイトラビット』伊坂 幸太郎 新潮文庫 2020年7月1日発行
兎田孝則は焦っていた。新妻が誘拐され、今にも殺されそうで、だから銃を持った。母子は怯えていた。眼前に銃を突き付けられ、自由を奪われ、さらに家族には秘密があった。連鎖は止まらない。ある男は夜空のオリオン座の神秘を語り、警察は特殊部隊SITを突入させる。軽やかに、鮮やかに。「白兎事件」 は加速する。誰も知らない結末に向けて、驚きとスリルに満ちた、伊坂マジックの最先端! (新潮文庫)
最初に言っておきます。これは恐ろしく手の込んだミステリーです。
作中では誘拐や殺人、詐欺や籠城事件などが起こります。登場する本人たちは極めて真剣なのですが、語りは概ね軽妙で、時にコミカルでさえあります。
- 物語が始まってすぐ、あるキャラクターにこんなことを言わせる。
「あの小説って、ところどころ、変な感じですよね。急に作者が、『これは作者の特権だから、ここで話を前に戻そう』 とか、『ずっとあとに出てくるはずの頁のために、ひとつ断っておかねばならない』 とか、妙にしゃしゃり出てきて」
「あの小説」 とは、ヴィクトール・ユゴーの 『レ・ミゼラブル』 のことなのだが、それは同時に、『ホワイトラビット』 のことでもある。作者は開幕してすぐに、『ホワイトラビット』 が 「変な小説」 であることを、自ら告げるのだ。読者が 「変な感じ」 を抱くより前に、半歩先回りしてそれを宣言する。(解説よりby小島秀夫)
「どんな小説ですか? 」 と訊かれても、上手く答える自信がありません。何層にも連なっていく背景に、一体どこが帰結なんだと。
物語には、人を殺しておきながらそれを隠して生きている、そんな人物が二人も登場します。しかも彼らは 「本当の悪人」 ではありません。(これってどうよ? という感じ)
東京都内の路上で車を停めた兎田孝則は、冬の夜空を見上げ、妻の 「綿子ちゃん」 から聞いたオリオンの神話を思い出していた。巨人のオリオンは狩りの名手だったが、女神に送り込まれたサソリに刺されてしまう。だからサソリ座が見え始めると、オリオン座は逃げるように沈む、というエピソードだ。
やがて仲間が戻ってくると、車をスタートさせる。その後部には、誘拐した女性が梱包されて横たわっている。兎田たちは、誘拐を生業とする 「ベンチャー企業のようなもの」 の一員なのだ。しかし彼らのグループには、ちょっとしたトラブルが発生していた。オリオオリオなるコンサルタントによって、組織の金を騙し取られてしまったのだ。取引先に送金する期限が迫っており、なんとしてもその金を奪還しなければならない。それを命じられたのは兎田。愛しい綿子を人質に取られ、オリオオリオを探すように仕向けられてしまう。誘拐犯が身内を誘拐されてしまうのだ。
そのオリオは、「オリオン座と言えば、オリオ」 と評されるほどのオリオン座オタクだった。物語は、まさに 「変な冒頭」 から始まる。(同解説より)
※この作品は、同時進行する物語を描いています。みなさん、著者の語りに騙されてはいけません。
この本を読んでみてください係数 85/100
◆伊坂 幸太郎
1971年千葉県生まれ。
東北大学法学部卒業。
作品 「オーデュポンの祈り」「アヒルと鴨のコインロッカー」「死神の精度」「ゴールデンスランバー」「グラスホッパー」「重力ピエロ」「AX」他多数
関連記事
-
-
『裏アカ』(大石圭)_書評という名の読書感想文
『裏アカ』大石 圭 徳間文庫 2020年5月15日初刷 裏アカ (徳間文庫) 青山のア
-
-
『星の子』(今村夏子)_書評という名の読書感想文
『星の子』今村 夏子 朝日新聞出版 2017年6月30日第一刷 星の子 林ちひろは中学3年生
-
-
『肝、焼ける』(朝倉かすみ)_書評という名の読書感想文
『肝、焼ける』朝倉 かすみ 講談社文庫 2009年5月15日第1刷 肝、焼ける (講談社文庫
-
-
『ファイナルガール』(藤野可織)_書評という名の読書感想文
『ファイナルガール』藤野 可織 角川文庫 2017年1月25日初版 ファイナルガール (角川文
-
-
『ヒポクラテスの試練』(中山七里)_書評という名の読書感想文
『ヒポクラテスの試練』中山 七里 祥伝社文庫 2021年12月20日初版第1刷 ヒポクラテス
-
-
『4TEEN/フォーティーン』(石田衣良)_書評という名の読書感想文
『4TEEN/フォーティーン』石田 衣良 新潮文庫 2005年12月1日発行 4TEEN (新
-
-
『ツタよ、ツタ』(大島真寿美)_書評という名の読書感想文
『ツタよ、ツタ』大島 真寿美 小学館文庫 2019年12月11日初版 ツタよ、ツタ (小学館
-
-
『ファーストラヴ』(島本理生)_彼女はなぜ、そうしなければならなかったのか。
『ファーストラヴ』島本 理生 文春文庫 2020年2月10日第1刷 ファーストラヴ (文春文
-
-
『しゃもぬまの島』(上畠菜緒)_書評という名の読書感想文
『しゃもぬまの島』上畠 菜緒 集英社文庫 2022年2月25日第1刷 それは突然やっ
-
-
『空飛ぶタイヤ』(池井戸潤)_書評という名の読書感想文
『空飛ぶタイヤ』 池井戸 潤 実業之日本社 2008年8月10日第一刷 @1,200 &n