『ホワイトラビット』(伊坂幸太郎)_書評という名の読書感想文

公開日: : 最終更新日:2024/01/08 『ホワイトラビット』(伊坂幸太郎), 伊坂幸太郎, 作家別(あ行), 書評(は行)

『ホワイトラビット』伊坂 幸太郎 新潮文庫 2020年7月1日発行

兎田孝則は焦っていた。新妻が誘拐され、今にも殺されそうで、だから銃を持った。母子は怯えていた。眼前に銃を突き付けられ、自由を奪われ、さらに家族には秘密があった。連鎖は止まらない。ある男は夜空のオリオン座の神秘を語り、警察は特殊部隊SITを突入させる。軽やかに、鮮やかに。「白兎事件」 は加速する。誰も知らない結末に向けて、驚きとスリルに満ちた、伊坂マジックの最先端! (新潮文庫)

最初に言っておきます。これは恐ろしく手の込んだミステリーです。

作中では誘拐や殺人、詐欺や籠城事件などが起こります。登場する本人たちは極めて真剣なのですが、語りは概ね軽妙で、時にコミカルでさえあります。

物語が始まってすぐ、あるキャラクターにこんなことを言わせる。
あの小説って、ところどころ、変な感じですよね。急に作者が、これは作者の特権だから、ここで話を前に戻そうとか、ずっとあとに出てくるはずの頁のために、ひとつ断っておかねばならないとか、妙にしゃしゃり出てきて

あの小説とは、ヴィクトール・ユゴーのレ・ミゼラブルのことなのだが、それは同時に、ホワイトラビット のことでもある。作者は開幕してすぐに、ホワイトラビット変な小説であることを、自ら告げるのだ。読者が 変な感じを抱くより前に、半歩先回りしてそれを宣言する。(解説よりby小島秀夫)

「どんな小説ですか? 」 と訊かれても、上手く答える自信がありません。何層にも連なっていく背景に、一体どこが帰結なんだと。

物語には、人を殺しておきながらそれを隠して生きている、そんな人物が二人も登場します。しかも彼らは 「本当の悪人」 ではありません。(これってどうよ? という感じ)

東京都内の路上で車を停めた兎田孝則は、冬の夜空を見上げ、妻の綿子ちゃん から聞いたオリオンの神話を思い出していた。巨人のオリオンは狩りの名手だったが、女神に送り込まれたサソリに刺されてしまう。だからサソリ座が見え始めると、オリオン座は逃げるように沈む、というエピソードだ。

やがて仲間が戻ってくると、車をスタートさせる。その後部には、誘拐した女性が梱包されて横たわっている。兎田たちは、誘拐を生業とする ベンチャー企業のようなものの一員なのだ。しかし彼らのグループには、ちょっとしたトラブルが発生していた。オリオオリオなるコンサルタントによって、組織の金を騙し取られてしまったのだ。取引先に送金する期限が迫っており、なんとしてもその金を奪還しなければならない。それを命じられたのは兎田。愛しい綿子を人質に取られ、オリオオリオを探すように仕向けられてしまう。誘拐犯が身内を誘拐されてしまうのだ。

そのオリオは、オリオン座と言えば、オリオと評されるほどのオリオン座オタクだった。物語は、まさに変な冒頭から始まる。(同解説より)

※この作品は、同時進行する物語を描いています。みなさん、著者の語りに騙されてはいけません。

この本を読んでみてください係数 85/100

◆伊坂 幸太郎
1971年千葉県生まれ。
東北大学法学部卒業。

作品 「オーデュポンの祈り」「アヒルと鴨のコインロッカー」「死神の精度」「ゴールデンスランバー」「グラスホッパー」「重力ピエロ」「AX」他多数

関連記事

『不時着する流星たち』(小川洋子)_書評という名の読書感想文

『不時着する流星たち』小川 洋子 角川文庫 2019年6月25日初版 私はな

記事を読む

『あなたが私を竹槍で突き殺す前に』(李龍徳)_書評という名の読書感想文

『あなたが私を竹槍で突き殺す前に』李 龍徳 河出書房 2022年3月20日初版 日

記事を読む

『死にたくなったら電話して』(李龍徳/イ・ヨンドク)_書評という名の読書感想文

『死にたくなったら電話して』李龍徳(イ・ヨンドク) 河出書房新社 2014年11月30日初版

記事を読む

『花びらめくり』(花房観音)_書評という名の読書感想文

『花びらめくり』花房 観音 新潮文庫 2021年12月25日4刷 「誘ってきたのは

記事を読む

『切羽へ』(井上荒野)_書評という名の読書感想文

『切羽へ』井上 荒野 新潮文庫 2010年11月1日発行 かつて炭鉱で栄えた離島で、小学校の養

記事を読む

『太陽は気を失う』(乙川優三郎)_書評という名の読書感想文

『太陽は気を失う』乙川 優三郎 文芸春秋 2015年7月5日第一刷 人は(多かれ少なかれ)こんな

記事を読む

『蓬萊』(今野敏)_書評という名の読書感想文

『蓬萊』今野 敏 講談社文庫 2016年8月10日第一刷 この中に「日本」が封印されている - 。

記事を読む

『脊梁山脈』(乙川優三郎)_書評という名の読書感想文

『脊梁山脈』乙川 優三郎 新潮文庫 2016年1月1日発行 上海留学中に応召し、日本へ復員する

記事を読む

『グラジオラスの耳』(井上荒野)_書評という名の読書感想文

『グラジオラスの耳』井上 荒野 光文社文庫 2003年1月20日初版 グラジオラスの耳

記事を読む

『ひと呼んでミツコ』(姫野カオルコ)_書評という名の読書感想文

『ひと呼んでミツコ』姫野 カオルコ 集英社文庫 2001年8月25日第一刷 彼女はミツコ。私立薔薇

記事を読む

Message

メールアドレスが公開されることはありません。 が付いている欄は必須項目です

『十字架屋の日常』 (井上荒野)_書評という名の読書感想文

『十字架屋の日常』 井上 荒野 中公文庫 2026年2月25日 初版

『有罪、とAIは告げた』 (中山七里)_書評という名の読書感想文

『有罪、とAIは告げた』 中山 七里 小学館文庫 2026年5月20

『けんぐゎい』 (朝倉かすみ)_書評という名の読書感想文

『けんぐゎい』 朝倉 かすみ 光文社 2026年4月30日 初版第1

『食べると死ぬ花』 (芦花公園)_書評という名の読書感想文

『食べると死ぬ花』 芦花 公園 新潮文庫 2026年6月1日 発行

『滅びの前のシャングリラ』 (凪良ゆう)_書評という名の読書感想文

『滅びの前のシャングリラ』 凪良 ゆう 講談社文庫 2026年5月1

→もっと見る

  • 3 にほんブログ村 本ブログ 書評・レビューへ
PAGE TOP ↑