『本心』(平野啓一郎)_書評という名の読書感想文
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『本心』(平野啓一郎), 作家別(は行), 平野啓一郎, 書評(は行)
『本心』平野 啓一郎 文春文庫 2023年12月10日 第1刷
『マチネの終わりに』 『ある男』 に続く、平野啓一郎 感動の最新長篇! 愛する人の本当の心を、あなたは知っていますか?
「心配だっただけでなく、母は本当は、僕を恥じていたのではなかったか? 」 ロスジェネ世代に生まれ、シングルマザーとして生きてきた母が、生涯隠し続けた事実とは - 急逝した母を、AI/VR技術で再生させた青年が経験する魂の遍歴。
〇四半世紀後の日本を舞台に、愛と幸福の真実を問いかける、分人主義の最先端。
〇ミステリー的な手法を使いながらも、「死の自己決定」 「貧困」 「社会の分断」 といった、現代人がこれから直面する課題を浮き彫りにし、愛と幸福の真実を問いかける平野文学の到達点。
〇読書の醍醐味を味合わせてくれる本格小説。
あらすじ
舞台は、「自由死」 が合法化された近未来の日本。最新技術を使い、生前そっくりの母を再生させた息子は、「自由死」 を望んだ母の、〈本心〉 を探ろうとする。
母の友人だった女性、かつて交際関係のあった老作家…….。それらの人たちから語られる、まったく知らなかった母のもう一つの顔。
さらには、母が自分に隠していた衝撃の事実を知る - 。(『本心』 特設サイトより)
テーマは 「最愛の人の他者性」。これは愛と分人主義の物語であり、その最先端を行くものです。(と言われても) そもそも “分人主義“ などという言葉をはじめて知りましたというあなたに、著者が書いた分人主義についての解説を紹介しましょう。この小説を読む上でとても重要で、あなたの実生活においても必ずや有益だと思います。心して読んでください。
平野啓一郎 「分人主義」 OFFICIAL SITEより
“本当の自分“ はひとつじゃない 「個人」 から 「分人」 へ
「分人dividual」 とは、「個人individual」 に代わる新しい人間のモデルとして提唱された概念です。
「個人」 は、分割することの出来ない一人の人間であり、その中心には、たった一つの 「本当の自分」 が存在し、さまざまな仮面 (ペルソナ) を使い分けて、社会生活を営むものと考えられています。
これに対し、「分人」 は、対人関係ごと、環境ごとに分化した、異なる人格のことです。中心に一つだけ 「本当の自分」 を認めるのではなく、それら複数の人格すべてを 「本当の自分」 だと捉えます。この考え方を 「分人主義」 と呼びます。
環境や職場、家庭でそれぞれの人間関係があり、ソーシャル・メディアのアカウントを持ち、背景の異なる様々な人に触れ、国内外を移動する私たちは、今日、幾つもの 「分人」 を生きています。
自分自身を、更には自分と他者との関係を、「分人主義」 という観点から見つめ直すことで、自分を全肯定する難しさ、全否定してしまう苦しさから解放され、複雑化する先行き不透明な社会を生きるための具体的な足場を築くことが出来ます。
「分人主義」 から、「私とは何か」 を考えてみましょう。
※近い将来起こるであろう愛と幸福の物語 - 安心してください。やたら堅苦しい哲学論が展開されるわけではありません。思うように生きられない 「僕」 が登場し、亡くなった僕の最愛の 「母」 が登場し、偶然の成り行きで僕と同居することになる、かつての母の年の離れた友人 (女性) の 「三好」 が登場し、その界隈では超がつくほど有名なアバター・デザイナー 「イフィー」 が登場します。
ある者はとても貧しく、ある者は桁外れの金持ちで、またある者は、人に言えない過去を抱えています。彼らは、滅多なことでは 「本心」 を言いません。
この本を読んでみてください係数 80/100
◆平野 啓一郎
1975年愛知県生まれ。
京都大学法学部卒業。
作品 「日蝕」「葬送」「滴り落ちる時計たちの波紋」「決裂」「ドーン」「空白を満たしなさい」「透明な迷宮」「ある男」「マチネの終わりに」「死刑について」他
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