『無人島のふたり/120日以上生きなくちゃ日記』(山本文緒)_書評という名の読書感想文

『無人島のふたり/120日以上生きなくちゃ日記』山本 文緒 新潮社 2022年11月30日4刷

ある日突然がんと診断され、夫とふたり、無人島に流されてしまったかのような日々が始まった。
お別れの言葉は、言っても言っても言い足りない - 。余命宣告を受け、それでも書くことを手放さなかった作家が、最期まで綴った日記。

私の人生は充実したいい人生だった。
58歳没はちょっと早いけど、短い生涯だったというわけではない。
どんなにいい人生でも悪い人生でも、人は等しく死ぬ。それが早いか遅いかだけで一人残らず誰にでも終わりがやってくる。
だから今は安らかな気持ちだ・・・・・・・、余命を宣告されたら、そういう気持ちになるのかと思っていたが、それは違った。
そんな簡単に割り切れるかボケ! と神様に言いたい気持ちがする。(本文より)

亡くなられたのが2021年10月13日。日記はその9日前の、10月4日に終わっています。

10月4日 (月)

昨日から今日にかけてたくさんの妙なことが起こり、それはどうも私の妙な思考のせいのようだ。これでこの日記の二次会もおしまいになる気がしている。とても眠くて、お医者さんや看護師さん、薬剤師さんが来て、その人たちが大きな声で私に話しかけてくれるのだけれど、それに応えるのが精一杯で、その向こう側にある王子の声がよく聞こえない。今日はここまでとさせてください。明日また書けましたら、明日。

- と。

2021年4月に突然膵臓がんと診断され、そのとき既にステージは4bで治療法はなく、やむなく受けた抗がん剤治療は地獄で、医師やカウンセラー、夫と話し合った結果、緩和ケアへ進むことを決めたのでした。それが2021年5月のことで、日記は同月24日から始まっています。

その日々は、痛みや吐き気、発熱などの繰り返しであったろうに。目に見えて体力が落ち、食欲は減退し、迫りくる終焉に動揺は激しさを増すばかりであったろうに。

それでも書くと決めたのは・・・・・・・

そして思うのは、この文章のこと。
私はこんな日記を書く意味があるんだろうか、とふと思う。
こんな、余命4ヶ月でもう出来る治療もないという救いのないテキストを誰も読みたくないのではないだろうか。
これ、『120日後に死ぬフミオ』 のタイトルで、ツイッターやブログにリアルタイムで更新したりするほうがバズったのではないか。
でもそれは望んでいることからはずいぶん遠い。そんなことだから作家としてイマイチなのかもしれない。
だったら何も書き残したりせず、潔くこの世を去ればいいのに、ノートにボールペンでちまちま書いてしまうあたりが何というか承認欲求を捨てきれない小者感がある。
せめてこれを書くことをお別れの挨拶として許して下さい。(本文/6月9日(水)の日記より)

貴女がほんとうに 「小者」 なら、こんなものは書かないでしょう。というか、書けないと思う。万万が一書いたとしても、まるで中身の違うものになったはずです。これは、若くしてこの世を去らなければならなくなった作家の、いっとう最後の 「覚悟」 なんだろうと。

この本を読んでみてください係数  85/100

◆山本 文緒
1962年神奈川県生まれ。2021年10月13日(58歳)没。
神奈川大学経済学部卒業。

作品 「恋愛中毒」「プラナリア」「アカペラ」「ブルーもしくはブルー」「パイナップルの彼方」「自転しながら公転する」「ばにらさま」他多数

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