『王とサーカス』(米澤穂信)_書評という名の読書感想文

公開日: : 最終更新日:2024/01/10 『王とサーカス』(米澤穂信), 作家別(や行), 書評(あ行), 米澤穂信

『王とサーカス』米澤 穂信 創元推理文庫 2018年8月31日初版

2001年、新聞社を辞めたばかりの太刀洗万智は、知人の雑誌編集者から海外旅行特集の仕事を受け、事前取材のためネパールに向かった。現地で知り合った少年にガイドを頼み、穏やかな時間を過ごそうとしていた矢先、王宮で国王をはじめとする王族殺害事件が勃発する。太刀洗はジャーナリストとして早速取材を開始したが、そんな彼女を嘲笑うかのように、彼女の前にはひとつの死体が転がり・・・・・・・。「この男は、わたしのために殺されたのか? あるいは - 」 疑問と苦悩の果てに、太刀洗が辿り着いた痛切な真実とは?

『さよなら妖精』 の出来事から10年の時を経て、太刀洗万智は異邦でふたたび、自らの人生をも左右するような大事件に遭遇する。2001年に実際に起きた王宮事件を取り込んで描いた壮大なフィクションにして、米澤ミステリの記念碑的傑作! (創元推理文庫)

既に多くの方が御存知でしょう。ミステリー小説の年間ランキングで3冠を達成。内容は他を圧し、評価と支持の高さは群を抜いています。読むうちに喚起され、並みのミステリーではないことに気付きます。

2001年6月、東洋新聞を辞めフリーになった28歳の太刀洗万智は、月刊誌「深層」の牧野に誘われたアジア旅行特集の事前取材のため、単身でネパールの首都・カトマンズにいた。

トーキョーロッジというホテルに滞在する万智は、そこでアメリカ人の大学生ロブ、インド人の商人シュクマル、長期滞在している日本人で破戒僧だという八津田らと知り合うが、最も親しくなったのは路上でしつこく土産物を売りつけてくる少年サガルだった。万智は、カトマンズに詳しく、機転も利くサガルをガイドとして雇うことにする。

その直後、イギリスの放送局BBCが衝撃のニュースを流す。ナラヤンヒティ王宮で開かれた王族の晩餐会で、ディペンドラ皇太子が、国民の人気も高い父のビレンドラ国王、母のアイシュワリャ王妃らを射殺し、自殺したというのだ。

すぐに日本の牧野と連絡を取った万智は、本格的なルポを書くことになる。その記事が、自分のジャーナリストとしての方向性を決めると考えた万智は、サガルの協力を得てカトマンズで取材を始める。(解説より抜粋)

カトマンズ市民にとっては想像だにしない 「降って湧いた」 ような事件に、政府は沈黙し、何一つ語ろうとしません。あげく事の経緯は歪めて公けにされ、市民の不信を煽り、暴動にまで発展する事態を招くことになります。

フリーになったばかりのジャーナリストとして 「千載一遇」 のチャンスに巡り合った万智は、トーキョーロッジの女主人チャメリの紹介で、事件当夜王宮にいたというネパール国軍のラジェスワル准尉との面会を果たします。

面会場所として指定されたのは、廃ビルの地下にある 「クラブ・ジャスミン」 でした。事件勃発直後のこの時期に、国王が射殺されたまさにその建物内にいたという人物と会い、いち早く生々しい話が聞けることに、万智は身震いします。世界を驚かすに違いないスクープを、自分こそが手にするのだと。

ところが万智に対し、ラジェスワル准尉は 「外国人の記者には何も話すことはない」 と証言を拒否します。国王が殺されたことは軍の恥 であり、なぜそれを世界に向けて知らせなければならないのだ、と語ります。日本語で書かれた記事などこの国とは無関係であり、万智に対し、そもそもおまえに真実を報じる資格があるのか、と問いかけるのでした。

後にわかるのですが、万智と会ったその日のうちに、ラジェスワル准尉は何者かによって殺害され、町の広場で発見されることになります。遺体は上半身が裸で、背中にナイフを使ったような傷文字があり、よくよく見ると、そこには 「INFORMER」(密告者) と書いてあります。

この本を読んでみてください係数 85/100

◆米澤 穂信
1978年岐阜県生まれ。
金沢大学文学部卒業。

作品「折れた竜骨」「心あたりのある者は」「氷菓」「インシテミル」「追想五断章」「ふたりの距離の概算」「満願」他多数

関連記事

『慈雨』(柚月裕子)_書評という名の読書感想文

『慈雨』柚月 裕子 集英社文庫 2019年4月25日第1刷 警察官を定年退職し、妻

記事を読む

『パリ行ったことないの』(山内マリコ)_書評という名の読書感想文

『パリ行ったことないの』山内 マリコ 集英社文庫 2017年4月25日第一刷 女性たちの憧れの街〈

記事を読む

『テティスの逆鱗』(唯川恵)_書評という名の読書感想文

『テティスの逆鱗』唯川 恵 文春文庫 2014年2月10日第一刷 女優・西嶋條子の "売り" は

記事を読む

『生きてるだけで、愛。』(本谷有希子)_書評という名の読書感想文

『生きてるだけで、愛。』本谷 有希子 新潮文庫 2009年3月1日発行 あたしってなんでこんな

記事を読む

『鞠子はすてきな役立たず』(山崎ナオコーラ)_書評という名の読書感想文

『鞠子はすてきな役立たず』山崎 ナオコーラ 河出文庫 2021年8月20日初版発行

記事を読む

『雨に殺せば』(黒川博行)_書評という名の読書感想文

『雨に殺せば』黒川 博行 文芸春秋 1985年6月15日第一刷 今から30年前、第2回サント

記事を読む

『ある日 失わずにすむもの』(乙川優三郎)_書評という名の読書感想文

『ある日 失わずにすむもの』乙川 優三郎 徳間文庫 2021年12月15日初刷 こ

記事を読む

『砂漠ダンス』(山下澄人)_書評という名の読書感想文

『砂漠ダンス』山下 澄人 河出文庫 2017年3月30日初版 「砂漠へ行きたいと考えたのはテレビで

記事を読む

『嫌な女』(桂望実)_書評という名の読書感想文

『嫌な女』桂 望実 光文社文庫 2013年8月5日6刷 初対面の相手でも、たちまち

記事を読む

『あの家に暮らす四人の女』(三浦しおん)_書評という名の読書感想文

『あの家に暮らす四人の女』三浦 しおん 中公文庫 2018年9月15日7刷 ここは杉並の古びた洋館

記事を読む

Message

メールアドレスが公開されることはありません。 が付いている欄は必須項目です

『オーブランの少女』(深緑野分)_書評という名の読書感想文

『オーブランの少女』深緑 野分 創元推理文庫 2019年6月21日

『揺籠のアディポクル』(市川憂人)_書評という名の読書感想文

『揺籠のアディポクル』市川 憂人 講談社文庫 2024年3月15日

『海神 (わだつみ)』(染井為人)_書評という名の読書感想文

『海神 (わだつみ)』染井 為人 光文社文庫 2024年2月20日

『百年と一日』(柴崎友香)_書評という名の読書感想文

『百年と一日』柴崎 友香 ちくま文庫 2024年3月10日 第1刷発

『燕は戻ってこない』(桐野夏生)_書評という名の読書感想文

『燕は戻ってこない』桐野 夏生 集英社文庫 2024年3月25日 第

→もっと見る

  • 3 にほんブログ村 本ブログ 書評・レビューへ
PAGE TOP ↑