『あむんぜん』(平山夢明)_書評という名の読書感想文

公開日: : 最終更新日:2024/01/06 『あむんぜん』(平山夢明), 作家別(は行), 平山夢明, 書評(あ行)

『あむんぜん』平山 夢明 集英社文庫 2022年7月25日第1刷

時に荒唐無稽 時に清浄無垢 あの賞 (M・S賞) の金賞受賞断念!! の問題短編集

とんでもなく尊いものと果てしなくくだらないものが列を作ってジェンカを踊っている」- 杉江松恋氏、驚愕!!

みんな生きている。例えばチンパンジーに後穴の純潔を奪われたとしても (「GangBang The Chinpanzee)、前人未到、脳大陸発見の遊びに夢中になっても (「あむんぜん」)、ウンゲロの末、透明になっても (「千々石ミゲルと殺し屋バイブ」)、捜査方法が異端でも (「報恩捜査官夕鶴」)、推しがどぷゅリンでも (「ヲタポリス」)、どっこいみんな生きている。この欄の意味がわかるためには、読むしかない。鬼才の描く圧倒的悲喜劇! (集英社文庫)

読み出すと 「これは一体何なんだ? 」 と思うに違いありません。荒唐無稽で奇天烈で、そのうえお下劣で・・・・・・・、自分はいま何を読まされているのだろうと。大丈夫か? 貴重な時間を無駄にしてはいないだろうか、と。

現に私がそうでした。それが杞憂に過ぎたのは、6編ある中の、表題作 「あむんぜん」 を読み、”これは違う。これはただものではない” と感じたときでした。

(以下は、杉江松恋氏の解説にある 「あむんぜん」 についての文章からの引用です)

表題作に触れずにここまできたが、少年の日々を回顧する物語を得意とするスティーブン・キングが、ダニエル・キイス 『アルジャーノンに花束を』 を悪い薬をやりながら読んで影響を受けた後で書いたような作品だ。

「あむんぜん」 という題名は、作中登場人物の家が 「アムンゼン靴店」 を経営している、というところからつけられたものだが、おそらく新宿 「ワシントン靴店」 からの連想で、深い意味はまったくないはずだ。

やはり弱者を嬲る暴力と、愚かな者が愚かなりにそれに対処して生きていくさまが描かれるが、作中にとても好きな一文がある。「おふくろが赤ん坊の頭ぐらいあるハンバーグを作ってくれた」 というのがそれで、ここだけ抜き出すと何がなんだかわからないと思うが、前後の文脈を踏まえながら読むと涙腺を崩壊させる破壊力のある文章と化すのだ。

こういうことを、死ぬほどくだらないギャグと並行してやってくるから平山夢明は困るのである。困るよ。

繰り返しになりますが、話は 「荒唐無稽で奇天烈で、加えてお下劣で」 あることには変わりありません。

但し、それだけでは終わりません。いじめがあり、友情があり、暴力があり、家族の不幸があり、不幸中の幸いで、生き延びた少年が見る夢があります。少年の友の同級生もまた不幸せで、父は母を殴ってばかりいます。母が大きな大きなハンバーグを作ってくれたのは、父が留守の日のことでした。

[目次]
GangBang The Chinpanzee
あむんぜん
千々石ミゲルと殺し屋バイブ
あんにゅい野郎のおぬるい壁
報恩捜査官夕鶴
ヲタポリス

この本を読んでみてください係数 85/100

◆平山 夢明
1961年神奈川県川崎市生まれ。
法政大学中退。

作品 「異常快楽殺人」「SINKER - 沈むもの」「メルキオールの惨劇」「独白するユニバーサル横メルカトル」「ダイナー」他多数

関連記事

『花びらめくり』(花房観音)_書評という名の読書感想文

『花びらめくり』花房 観音 新潮文庫 2021年12月25日4刷 「誘ってきたのは

記事を読む

『いつか、アジアの街角で』(中島京子他)_書評という名の読書感想文

『いつか、アジアの街角で』中島 京子他 文春文庫 2024年5月10日 第1刷 あの街の空気

記事を読む

『スリーピング・ブッダ』(早見和真)_書評という名の読書感想文

『スリーピング・ブッダ』早見 和真 角川文庫 2014年8月25日初版 敬千宗の大本山・長穏寺に2

記事を読む

『悪寒』(伊岡瞬)_啓文堂書店文庫大賞ほか全国書店で続々第1位

『悪寒』伊岡 瞬 集英社文庫 2019年10月22日第6刷 男は愚かである。ある登

記事を読む

『イヤミス短篇集』(真梨幸子)_書評という名の読書感想文

『イヤミス短篇集』真梨 幸子 講談社文庫 2016年11月15日第一刷 小学生の頃のクラスメイトか

記事を読む

『絶叫』(葉真中顕)_書評という名の読書感想文

『絶叫』葉真中 顕 光文社文庫 2019年3月5日第7刷 - 私を棄てたこの世界を騙

記事を読む

『うたかたモザイク』(一穂ミチ)_書評という名の読書感想文

『うたかたモザイク』一穂 ミチ 講談社文庫 2024年11月15日 第1刷発行 祝・直木賞受

記事を読む

『影裏』(沼田真佑)_書評という名の読書感想文

『影裏』沼田 真佑 文藝春秋 2017年7月30日第一刷 北緯39度。会社の出向で移り住んだ岩手の

記事を読む

『アポロンの嘲笑』(中山七里)_書評という名の読書感想文

『アポロンの嘲笑』中山 七里 集英社文庫 2022年6月6日第7刷 東日本大震災直

記事を読む

『カルマ真仙教事件(中)』(濱嘉之)_書評という名の読書感想文

『カルマ真仙教事件(中)』濱 嘉之 講談社文庫 2017年8月9日第一刷 上巻(17.6.15発

記事を読む

Message

メールアドレスが公開されることはありません。 が付いている欄は必須項目です

『おまえレベルの話はしてない』(芦沢央)_書評という名の読書感想文

『おまえレベルの話はしてない』芦沢 央 河出書房新社 2025年9月

『絶縁病棟』(垣谷美雨)_書評という名の読書感想文

『絶縁病棟』垣谷 美雨 小学館文庫 2025年10月11日 初版第1

『木挽町のあだ討ち』(永井紗耶子)_書評という名の読書感想文

『木挽町のあだ討ち』永井 紗耶子 新潮文庫 2025年10月1日 発

『帰れない探偵』(柴崎友香)_書評という名の読書感想文

『帰れない探偵』柴崎 友香 講談社 2025年8月26日 第4刷発行

『野火の夜/木部美智子シリーズ』(望月諒子)_書評という名の読書感想文

『野火の夜/木部美智子シリーズ』望月 諒子 新潮文庫 2025年10

→もっと見る

  • 3 にほんブログ村 本ブログ 書評・レビューへ
PAGE TOP ↑