『あむんぜん』(平山夢明)_書評という名の読書感想文

『あむんぜん』平山 夢明 集英社文庫 2022年7月25日第1刷

時に荒唐無稽 時に清浄無垢 あの賞 (M・S賞) の金賞受賞断念!! の問題短編集

とんでもなく尊いものと果てしなくくだらないものが列を作ってジェンカを踊っている」- 杉江松恋氏、驚愕!!

みんな生きている。例えばチンパンジーに後穴の純潔を奪われたとしても (「GangBang The Chinpanzee)、前人未到、脳大陸発見の遊びに夢中になっても (「あむんぜん」)、ウンゲロの末、透明になっても (「千々石ミゲルと殺し屋バイブ」)、捜査方法が異端でも (「報恩捜査官夕鶴」)、推しがどぷゅリンでも (「ヲタポリス」)、どっこいみんな生きている。この欄の意味がわかるためには、読むしかない。鬼才の描く圧倒的悲喜劇! (集英社文庫)

読み出すと 「これは一体何なんだ? 」 と思うに違いありません。荒唐無稽で奇天烈で、そのうえお下劣で・・・・・・・、自分はいま何を読まされているのだろうと。大丈夫か? 貴重な時間を無駄にしてはいないだろうか、と。

現に私がそうでした。それが杞憂に過ぎたのは、6編ある中の、表題作 「あむんぜん」 を読み、”これは違う。これはただものではない” と感じたときでした。

(以下は、杉江松恋氏の解説にある 「あむんぜん」 についての文章からの引用です)

表題作に触れずにここまできたが、少年の日々を回顧する物語を得意とするスティーブン・キングが、ダニエル・キイス 『アルジャーノンに花束を』 を悪い薬をやりながら読んで影響を受けた後で書いたような作品だ。

「あむんぜん」 という題名は、作中登場人物の家が 「アムンゼン靴店」 を経営している、というところからつけられたものだが、おそらく新宿 「ワシントン靴店」 からの連想で、深い意味はまったくないはずだ。

やはり弱者を嬲る暴力と、愚かな者が愚かなりにそれに対処して生きていくさまが描かれるが、作中にとても好きな一文がある。「おふくろが赤ん坊の頭ぐらいあるハンバーグを作ってくれた」 というのがそれで、ここだけ抜き出すと何がなんだかわからないと思うが、前後の文脈を踏まえながら読むと涙腺を崩壊させる破壊力のある文章と化すのだ。

こういうことを、死ぬほどくだらないギャグと並行してやってくるから平山夢明は困るのである。困るよ。

繰り返しになりますが、話は 「荒唐無稽で奇天烈で、加えてお下劣で」 あることには変わりありません。

但し、それだけでは終わりません。いじめがあり、友情があり、暴力があり、家族の不幸があり、不幸中の幸いで、生き延びた少年が見る夢があります。少年の友の同級生もまた不幸せで、父は母を殴ってばかりいます。母が大きな大きなハンバーグを作ってくれたのは、父が留守の日のことでした。

[目次]
GangBang The Chinpanzee
あむんぜん
千々石ミゲルと殺し屋バイブ
あんにゅい野郎のおぬるい壁
報恩捜査官夕鶴
ヲタポリス

この本を読んでみてください係数 85/100

◆平山 夢明
1961年神奈川県川崎市生まれ。
法政大学中退。

作品 「異常快楽殺人」「SINKER - 沈むもの」「メルキオールの惨劇」「独白するユニバーサル横メルカトル」「ダイナー」他多数

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