『幻の翼』(逢坂剛)_書評という名の読書感想文
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最終更新日:2024/01/14
『幻の翼』(逢坂剛), 作家別(あ行), 書評(ま行), 逢坂剛
『幻の翼』逢坂 剛 集英社 1988年5月25日第一刷
『百舌の叫ぶ夜』に続くシリーズの第二話。相変わらず話の構図は複雑で、前作を踏まえると随分落ち着いて読めると思います。(前作『百舌の叫ぶ夜』の書評はコチラ)
『幻の翼』は、『百舌の叫ぶ夜』で最後に起こった事件、稜徳会病院での大量殺人事件から約1年3ケ月後の話です。(稜徳会病院事件:身元不詳の”殺人請負人”が、警視庁公安部の室井部長や組織暴力団の組員を含む5名を殺害しますが、その”殺人請負人”も若松公安三課長によって殺されます。さらに、若松三課長も同僚の公安特務一課の警部に射殺されるという事件)
稜徳会病院での事件の捜査は、真相をうやむやにしたまま突然打ち切られました。倉木は事件の詳細を文書にして、大杉の知合いを介して出版社へ持ち込んで記事にすることを目論みます。しかし、残念ながら政界を揺るがす極めてリスクの高い代物を発表しようとする出版社は現れなかったのですが、それをきっかけに、倉木は再び事件に巻き込まれていきます。
主要人物の現在状況を確認しておきましょう。
倉木尚武・・・警視に昇進し、特別監察官になっています。(津城警視正と同じ警察内部の御目付役。津城の画策した人事)
明星美希・・・外事課へ異動。倉木や大杉と仕事上の距離はできますが、第二話では個人的な関係が飛躍的に縮まります。
大杉良太・・・なぜか左遷されて新宿大久保署へ転出。一時期かなり荒れて、妻と娘は家を出ています。
新谷和彦・・・崖から落ちて死亡したものだと思われていたのですが、実は北の工作員として日本へ戻ってきているのではないかという情報が入ります。
新谷和彦=百舌のことをさらに詳しく。
稜徳会病院での身元不詳の”殺人請負人”とは新谷和彦のことであり、新谷は間違いなく殺されているわけですが、二話で百舌ならぬ不死鳥のごとく甦ります。ことの真相は稜徳会病院で殺されたのは新谷和彦ではなく、和彦の双子の弟・宏美だったのでした。
和彦は崖から落とされたあと北の工作船に拾われ、北朝鮮へ連れていかれたのです。北のスパイになる他生きる選択肢がないなかで厳しい訓練を受け、再び日本へ戻ってきたという筋書です。弟の宏美に代わり「百舌」となった和彦は、宏美が殺された事件の真の黒幕が法務大臣の森原であることを知り、復讐を誓うのでした。
・・・・・・・・・・・
倉木は罠に嵌められ、稜徳会病院へ強制的に入院させられることになります。あろうことか脳の前頭葉をいじる手術「ロボトミー」によって、人格を根こそぎ変えようとされます。美希は変装して病院へ潜入するものの、倉木の救出に失敗し、監禁されて身動きが取れなくなってしまいます。大杉は、病院の職員・古江五郎の協力を得て二人の救出に向かいます。
稜徳会病院の地下二階にあるサロンには、次々と事件の関係者が顔を揃えます。稜徳会病院理事長・桐生、梶村院長、南多摩署・栗山署長に水島、そして、津城警視正と森原法相。主要な人物が出揃ったところで、最後に登場するのが「本当の」新谷和彦、蘇った「百舌」だったのです。
※先日から「MOZU Season2」のTVドラマが始まりました。原作では、大杉が大活躍し、美希が随分と女っぽくなります。倉木は囚われの身、そして新谷和彦こと「百舌」は、北朝鮮の工作員です。Season2は、Season1ほど原作に忠実ではなく、様々に脚色されているようで、比較しながらお楽しみください。
この本を読んでみてください係数 95/100
◆逢坂 剛
1943年東京都文京区生まれ。
中央大学法学部法律学科卒業。卒業後は、博報堂に勤務しながら執筆活動。約17年後に退職、専業作家となる。
サビーカスのフラメンコギターのレコードを聴いて衝撃を受け、後にスペインに興味を持つようになる。スペインを題材にした小説も数多い。
作品 「カディスの赤い星」「屠殺者よグラナダに死ね」「百舌シリーズ」「岡坂伸策シリーズ」「御茶ノ水警察署シリーズ」「イベリアシリーズ」「禿鷹シリーズ」他多数
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