『青い壺』(有吉佐和子)_書評という名の読書感想文

『青い壺』有吉 佐和子 文春文庫 2023年10月20日 第19刷 (新装版第1刷 2011年7月10日)

無名の陶芸家が生み出した美しい青磁の壺。売られ盗まれ、十余年後に作者と再会するまでに壺が映し出した数々の人生。定年退職後の虚無を味わう夫婦、戦前の上流社会を懐かしむ老婆、四十五年ぶりにスペインに帰郷する修道女、観察眼に自信を持つ美術評論家。人間の有為転変を鮮やかに描いた有吉文学の傑作は、読んだ後かならず誰かと語り合いたくなります。平松洋子さんの解説も必読!  復刻後に口コミで売れ続けているのはまさに本の力です。(文藝春秋BOOKSより)

美しい青磁の壺をめぐる十三の連作短編集。青磁ひとすじに制作を続ける陶芸家の省造の手を離れ、青い壺は、取引のあるデパートを皮切りに、定年退職した夫とその妻のもとへ、次は夫婦が御礼として渡した会社役員のもとへと渡ります。あれこれあってその後も流転は続き、治療費の代償になったり、酒場に置き忘れられたりと、様々な人生模様のなかに身を置くこととなります。めぐり巡って最終的に壺がたどり着いたのは・・・・・・・

という話のなかで、はたして省造が焼いた青い壺はどんな役目を果たすのか? そこに壺があることとないことに、何か大きな意味があるのかないのか・・・・・・・ まことにあらけない感想ではありますが、(壺が) 無いなら無いで特に支障はないようにも思うのですが、読んだあなたはいかがなものでしょう。

※ 「人間心理への迫り方に唸る不朽の名作! 30万部超」 という (帯の) 言葉に絆されて、つい買ってしまいました。私のような年代の者にとって 「有吉佐和子」 という名前は超が付くほど有名で、特に 『恍惚の人』 や 『複合汚染』 などと聞くと、本は読まずともドラマで観たという人はたくさんいるに違いありません。

ただ著者と比べて三十年ほど若い私は、著者が現役だった頃、著者の小説を進んで読もうとは思いませんでした。それより他に、読みたいと思う本が山ほどありました。結果、一冊も読むことなく現在に至り、『青い壺』 などというタイトルの本があることさえ知りませんでした。

読んで面白くなくはないのですが、かといって強く推すのもどうかと。おそらく、若い人には “刺激がなくて物足りない“ のではないかしらと。人生も中盤から終盤に差し掛かり、艱難辛苦を味わってこそ深く頷いて読む本だろうと。

この本を読んでみてください係数 80/100

◆有吉 佐和子
1931年和歌山県和歌山市生まれ。(1984年8月30日、53歳没)
東京女子大学短期大学部英語科卒業。

作品 「紀ノ川」「華岡青洲の妻」「出雲の阿国」「恍惚の人」「複合汚染」「悪女について」他多数

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