『そして、海の泡になる』(葉真中顕)_書評という名の読書感想文
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最終更新日:2024/01/05
『そして、海の泡になる』(葉真中顕), 作家別(は行), 書評(さ行), 葉真中顕
『そして、海の泡になる』葉真中 顕 朝日文庫 2023年12月30日 第1刷発行
『ロスト・ケア』 の著者による 2020年代を切り拓く、圧倒的な社会派ミステリー
終戦、バブル崩壊、コロナ禍。昭和8年に和歌山の寒村に生まれた女性の一生と、日本の戦後史。
バブル期に個人として史上最高額の負債を抱え、自己破産した朝比奈ハル。「北浜の魔女」 と呼ばれた彼女は、詐欺と殺人の容疑で逮捕され、平成が終わる年にひっそりと獄死していた。その生涯を小説にしようと、“私“ は彼女の生前を知る関係者に取材を始める。〈解説・芦沢央〉 (朝日文庫)
書いてあるのは、朝比奈ハルという一人の女性のことだけではありません。謎に包まれたその人生の傍らには幾人もの 「同伴者」 や 「同調者」 が存在し、ハルに憧れ、しかしハルのようには生きられなかった女性や、大きく人生を歪められた家族もまた存在したのでした。ハルが望んだものは、いったい何だったのか。何を、どうしたかったのでしょう。
本書は、バブル期に 「ガマガエルのお告げ」 によって巨額の株式投資に成功し、バブル崩壊後に詐欺事件で逮捕されたとされる尾上縫をモデルにして書かれた、朝比奈ハルという一人の女性の人生を巡る物語だ。
まず彼女についての複数の報道記事が提示され、次に、アマチュア小説家の 〈私〉 がコロナ渦中の2020年、朝比奈ハルを題材にした小説を書くために生前の彼女を知る人たちに話を聞いて回ることにした旨が明かされ、その後に 「インタビュアーへの返答」 が続いていく。
複数の証言によって徐々に描き出されていくのは、報道記事では見えてこない朝比奈ハルの数奇な人生だ。
戦前に和歌山県の漁村で生まれ、敗戦直後に家族を一家心中で失い、親戚の家でも、庄屋の息子に見初められて嫁いだ先でも労働力として消費されるしかなかったハルの人生は、夫の死によって大きく変わる。
大阪へ出てホステスとして成功し、大企業グループ創業者一族の御曹司の愛人になって自分の店を持たせてもらい、料亭経営の傍ら、株式投資で巨万の富を築いて 〈北浜の魔女〉 と呼ばれるようになっていくのだ。
バブル崩壊と共に個人史上最高額の4300億円という負債を抱えて自己破産し、さらに詐欺と殺人の容疑をかけられて逮捕され、獄中で死亡した - あらすじを書くだけでも情報量が多すぎるが、物語としての魅力は何よりも彼女の人生に残された謎の多さだろう。
彼女は 〈うみうし様〉 のお告げに従い、一流の金融マンたちが群がるほどに莫大な利益を出していったとされているが、〈うみうし様〉 は本物だったのか。
彼女の人生に影のようにつきまとう複数の人間の死の真相は。彼女は本当に殺人を犯したのか。そして、そうした彼女の人生自体に込められた謎以外にも、物語の構造自体が持つ謎がある。(解説より)
※少なくとも胸のすくような話ではありません。というか、いくつも疑問が残り、正しく読めたかどうか、わからなくなります。もしかすると、思ったものとはまるで違う意図で書かれた話ではないかしらと。
この本を読んでみてください係数 85/100
◆葉真中 顕
1976年東京都生まれ。
東京学芸大学教育学部中退。
作品 「絶叫」「ロスト・ケア」「ブラック・ドッグ」「コクーン」「政治的に正しい警察小説」「凍てつく太陽」「灼熱」「Blue/ブルー」他
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