『アトムの心臓 「ディア・ファミリー」 23年間の記録』(清武英利)_書評という名の読書感想文
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最終更新日:2024/05/10
『アトムの心臓 「ディア・ファミリー」 23年間の記録』(清武英利), 作家別(か行), 書評(あ行), 清武英利
『アトムの心臓 「ディア・ファミリー」 23年間の記録』清武 英利 文春文庫 2024年4月10日 第1刷
娘の心臓に残された時間はたった10年。絶対にあきらめない家族のとてつもない挑戦が始まる - 。ディア・ファミリー 感動の実話
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心臓病の娘を救いたい - 。運命に抗い、闘った23年間の物語。絶対にあきらめない家族の姿に心震える感動ノンフィクション
心臓疾患を抱えた娘は、医師から余命10年を宣告される。町工場を営む筒井夫婦は、娘を救う術を探す。日本のトップクラスの研究者や大学病院を訪ね歩き、「人工心臓を作るしかない」 と決意。その開発には、莫大な資金と技術力という大きな壁が立ちふさがっていた。諦めなかった家族が紡いだ奇跡を描く傑作ノンフィクション。(文春文庫)
二女の佳美が早産で生まれた時、産婦人科医は新生児室に宣政を呼び、「赤ちゃんの心臓がひどく悪いですよ」 「雑音がしますから。これを心臓のところに当てて聞いてみてください」 聴診器を手に、そう言ったのでした。そして後に続けて 「佳美ちゃんは長く持たないかもしれません」 と。
それから9年が経ち、佳美は (体力的に) 手術ができるまでに成長し、事前の検査を受けはしたのですが、結果知らされたのは、難病故 「現代の医学では手術はできない」 という宣告でした。
生きて十年 - 医師から言われたその言葉に、宣政と妻の陽子はどうあっても納得ができません。ならば 「人工心臓」 を作ろうと。「アトムみたいな、鉄の心臓を」 と決め、何の知識もない素人夫婦がそのための勉強にのめり込んだのでした。宣政三十七歳、陽子三十五歳の時です。
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結論を言いますと、「アトムの心臓」 は未完成に終わります。それはある意味当然で - 医学的な見地と並外れた技術力、開発に必要な莫大な資金 - いくら熱意があるとはいえ、それがいかに無謀な挑戦であったかを、やがて二人は思い知ることになります。しかしです。
しかし宣政は諦めません。人工心臓には及ばぬものの、それに代わる、ある特殊な医療器具に着目し、より安全で、より日本人の身体に合った製品を開発しようと思い立ちます。それが 「IABPバルーンカテーテル」 と呼ばれるものでした。
実はここからが -、「IABPバルーンカテーテルの完成と商品化に至るまでの過程」 こそが、この物語のクライマックスではないかと。挫折に次ぐ挫折、改良毎に課せられる検査、検査、また検査・・・・・・・。終わりの見えない挑戦は、もはや宣政の執念でした。そしてその執念を支えたのが家族をはじめ、志しあって工場で働く社員たちでした。
※IABPをさらに詳しく。(あと余談)
心臓病の治療に、足の付け根や手首からカテーテルと呼ばれる細い管を血管に通し、血管内から治療を加える手術法がある。IABP (Intra Aortic Balloon Pumping =大動脈内バルーンパンピング) はカテーテルの一つで、直径数ミリの柔らかい管の先端に、細長い極小の風船がついた医療器具だ。
これを血管に通し、ヘリウムガスで極小風船を拡張、収縮させることで、滞っていた血管の流れを促進させる。心筋梗塞や狭心症などで弱った心臓の働きを補助するために使われていた。(本文より)
◎カテーテル:医療用に用いられる柔らかい管のこと。胸腔や腹腔などの体腔、消化管や尿管などの管腔部または血管などに挿入し、体液の排出、薬液や造影剤などの注入点滴に用いる。(Wikipediaより)
ここからは、私の話をします。実は私は 「狭心症」 で、二十年来専門病院にお世話になっています。最初予兆があり、総合病院へ受診に行くと検査入院を勧められました。検査前日に入院し、翌日に検査、もう一泊して何事もなければそれで退院という予定でした。
その時はじめて 「カテーテル」 というものを知りました。手術室に入り、カテーテルでの検査が始まって、ものの十分か十五分くらいだったと思います。「〇〇さん (私の名前)、もう帰れませんよ」 「このまま入院して、来週から手術しましょう」 「よかった。病院に来てくれて。もう大丈夫、治してあげるから」 なにごとでもないように、先生はそう言ったのでした。
翌週から週に一本、心臓の周りに張り付いた冠動脈の狭窄箇所の治療を受けては養生しを三回繰り返し、約一ヵ月の入院でようやく退院することができました。後で先生から聞いたのですが、三本ある冠動脈のうち二本が完全に (100%) 狭窄し、残り一本の狭窄率が70%だったとのことでした。
いつからかはわかりませんが、三本のうちの一本の残り30%の血流だけで、かろうじて私は生きていたことになります。入院したのは11月の末頃だったのですが、先生からは 「もしも病院に来なかったら、〇〇さん、あなたはお正月には冷たくなっていたでしょう」 と言われ、それまでの不摂生さを今更に猛省したのでした。
手術後約十年が経ち、毎年一回の検査入院がようやく免除され安心していると、その三年後、今度は心筋梗塞で救急搬送される事態に見舞われました。前触れもなく突然で、これは死ぬかと思ったのですが、幸いその日の当直がベテランの循環器専門の先生で (夜の八時頃だったと思います)、緊急手術を受け、約二週間の入院の後、無事退院することができました。(当然ながら、これもカテーテルでの施術です)
おかげさまで、それからは大過なく暮らしています。最初の検査入院から約二十年の間、カテーテルでの施術を何度受けたか知れません。そしてそれはこの先もずっと続くことでしょう。筒井氏の挑戦に、改めて、深く感謝せねばなりません。
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◆清武 英利
1950年宮崎県生まれ。
立命館大学卒業後、75年に読売新聞社入社。社会部記者として警視庁、国税庁などを担当。中部本社社会部長、東京本社編集委員、運動部長を経て、2004年8月より読売巨人軍球団代表兼編成本部長。11年11月、専務取締役球団代表兼GM・編成本部長・オーナー代行を解任され、係争に。
著書 「しんがり 山一証券 最後の12人」「石つぶて 警視庁二課刑事の残したもの」など
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