『愛すること、理解すること、愛されること』(李龍徳)_書評という名の読書感想文

『愛すること、理解すること、愛されること』李 龍徳 河出書房新社 2018年8月30日初版


愛すること、理解すること、愛されること

謎の死を遂げた後輩の妹に招かれ、軽井沢の別荘に集まった四人の男女。過去と現在、そして未来 - 。それぞれが自らの人生を語るうちに、愛と憎しみの感情が渦を巻き始める。

皮肉と軽蔑の応酬 -
究極の会話劇が紡ぎだす新文学! (河出書房新社)

デビュー作 『死にたくなったら電話して』、二作目 『報われない人間は永遠に報われない』 に続く新刊。大きな期待をもって買いました。- が、前二作ほどの刺激はありません。

ありきたりといえばありきたりな、一組は夫婦、一組は恋人同士、他にいるもう一人の女性 - 大学のサークルで知り合った四人と、同じサークルに所属し、自殺した姉を持つ妹の - 五人の会話の様子が、全編に渡り綴られています。

工夫はわかるのですが、言いたいことが伝えられているかといえば、それはどうかと。

但し、それを承知で、(李龍徳は) この作品を世に問いたいと考えたのでしょう。若さゆえの切実さ、行き着く果てのない潔癖さを求めて彷徨う様子は、(今の、歳を取った私には) とてもよくわかります。

人がする会話のそれぞれは往々にして空々しく、如何にもおざなりなものに過ぎません。誠実と見せかけて、本音は何も言わないでいます。それが美徳のように、大抵の場合は “無難” に済ませ、それで善しとしています。

人と人の関係というのは、およそそんなものでしょう。余程の事がない限り、人は土足で他人の心に切り込むようなことはしません。すればまた、それが自分に返ってくるのがわかるからです。

わかった上で 「正論」 を吐く - もしも、本音を本音のままに、思い通り打ち明けたとしたらどうでしょう? 何かが変わる・・・・・・・のでしょうか。あるいは、互いが互いに傷ついて、結果何も変わらないのでしょうか。

※鶴見光介と巴香の夫婦。水口純吾と北村珠希のカップル。四人は大学時代、同じサークルにいた遊び仲間で、卒業した数年後、サークルの後輩で、後に自殺したという姉とは五歳違いの妹・鈴田涼子の招きで、軽井沢にある鈴田の別荘を訪れます。

四人と涼子は、その時が初対面。涼子が四人と会いたいと思ったのは、自殺した姉が残した日記のせいでした。日記を読み、涼子は四人に会いたいと思うようになります。その理由は、こうです。

「私のお姉ちゃんがなんで自殺したのか、それは私にもほんとにわからないんです」

「お手紙にもちょっと書きましたけど、お姉ちゃんの死んだあと、私はその姉の日記を見つけて、それで読んじゃったんですね。ほんとはよくないことですけどでもお姉ちゃん、私が幼いときは母親代わりみたいなところもあって、というのも私の両親は喧嘩ばっかりの本当に血の通わないクソッタレ夫婦で、だから姉だけが本当の私の肉親みたいなところがあったのに、なのに家を出て行ってからもうまるで赤の他人みたいになって、それで何の前触れもなく死んじゃった。手首を切って、夫が出張中に。で、日記読んだら私のことなんか全然触れてない。ていうかほとんどが箇条書きの淡々とした忘備録みたいなもので、でも、大学に入ってから卒業するまでの記述は、まったく違って生き生きとしてました。皆さんのことが本当によく、鮮やかに描写されていてそこだけが異質で、だから知りたかった。皆さんに直接お会いして、あの姉がどうしてそんなにみなさんに惹きつけられたのか、彼女の人生にそのときだけいったい何が起こってたのか」(P39.40)

彼女は、それが知りたいが為に会いたかったのだと言います。

ところが、実のところ四人は、涼子の姉のことをほとんど覚えていません。慕っていたと言われる程の付き合いはなく、姿形さえもはっきり覚えていません。

涼子の、彼らに向けた言葉のやり取りは、あたかもそれを承知で四人を招待したかのように、僅かずつではありますが、徐々に尖ったものに変化していきます。

 

この本を読んでみてください係数 80/100


愛すること、理解すること、愛されること

◆李龍徳(イ・ヨンドク)
1976年埼玉県生まれ。
早稲田大学第一文学部卒業。在日韓国人三世。

作品 「死にたくなったら電話して」「報われない人間は永遠に報われない」

関連記事

『砕かれた鍵』(逢坂剛)_書評という名の読書感想文

『砕かれた鍵』逢坂 剛 集英社 1992年6月25日第一刷 砕かれた鍵 (百舌シリーズ) (集

記事を読む

『私の家では何も起こらない』(恩田陸)_書評という名の読書感想文

『私の家では何も起こらない』恩田 陸 角川文庫 2016年11月25日初版 私の家では何も起こ

記事を読む

『鯖』(赤松利市)_書評という名の読書感想文

『鯖』赤松 利市 徳間書店 2018年7月31日初刷 鯖 (文芸書) 読めば、地獄。狂気

記事を読む

『阿弥陀堂だより』(南木佳士)_書評という名の読書感想文

『阿弥陀堂だより』南木 佳士 文春文庫 2002年8月10日第一刷 阿弥陀堂だより (文春文庫

記事を読む

『彼女は存在しない』(浦賀和宏)_書評という名の読書感想文

『彼女は存在しない』浦賀 和宏 幻冬舎文庫 2003年10月10日初版 彼女は存在しない (幻

記事を読む

『最悪』(奥田英朗)_書評という名の読書感想文

『最悪』奥田 英朗 講談社 1999年2月18日第一刷 最悪 (講談社文庫)  

記事を読む

『きれいなほうと呼ばれたい』(大石圭)_書評という名の読書感想文

『きれいなほうと呼ばれたい』大石 圭 徳間文庫 2015年6月15日初刷 きれいなほうと呼ばれ

記事を読む

『工場』(小山田浩子)_書評という名の読書感想文

『工場』小山田 浩子 新潮文庫 2018年9月1日発行 工場 (新潮文庫) (帯に) 芥

記事を読む

『赤目四十八瀧心中未遂』(車谷長吉)_書評という名の読書感想文

『赤目四十八瀧心中未遂』車谷 長吉 文芸春秋 1998年1月10日第一刷 赤目四十八瀧心中未遂

記事を読む

『あとかた』(千早茜)_書評という名の読書感想文

『あとかた』千早 茜 新潮文庫 2016年2月1日発行 あとかた (新潮文庫) &nbs

記事を読む

Message

メールアドレスが公開されることはありません。 * が付いている欄は必須項目です

『火口のふたり』(白石一文)_書評という名の読書感想文

『火口のふたり』白石 一文 河出文庫 2015年6月20日初版

『ママがやった』(井上荒野)_書評という名の読書感想文

『ママがやった』井上 荒野 文春文庫 2019年1月10日第一刷

『私は存在が空気』(中田永一)_書評という名の読書感想文

『私は存在が空気』中田 永一 祥伝社文庫 2018年12月20日初版

『キッドナッパーズ』(門井慶喜)_書評という名の読書感想文

『キッドナッパーズ』門井 慶喜 文春文庫 2019年1月10日第一刷

『万引き家族』(是枝裕和)_書評という名の読書感想文

『万引き家族』是枝 裕和 宝島社 2018年6月11日第一刷

→もっと見る

  • 3 にほんブログ村 本ブログ 書評・レビューへ
PAGE TOP ↑