『電球交換士の憂鬱』(吉田篤弘)_書評という名の読書感想文

『電球交換士の憂鬱』吉田 篤弘 徳間文庫 2018年8月15日初刷


電球交換士の憂鬱 (徳間文庫)

十文字扉、職業 「電球交換士」。節電が叫ばれLEDライトへの交換が進む昨今、仕事は多くない。それでも古き良きものにこだわる人の求めに応じ電球を交換して生計を立てていた。人々の未来を明るく灯すはずなのに・・・・・・・行く先々で巻き込まれる厄介ごとの数々。自分そっくりの男が巷で電球を交換してる? 最近俺を尾行してる黒い影はなんだ? 謎と愉快が絶妙にブレンドされた魅惑の連作集! (徳間文庫)

道に詳しいのに、自分の行き先がわからないもの、なあんだ? 」 いきなりマチルダが、謎謎を仕掛けてきた。それに対し、おれはロクに考えもせず「さあね」 と応じる。

「なによ、十文字。ちょっとは考えてくれたっていいじゃない」
「いや、考えてるけど」
「嘘。アンタって、ホントに口から出まかせばっかりなんだから」 とマチルダは憤慨し、 「そうそう」 と春ちゃんは、何だか見わけがつかない透明な酒を手にしてニヤついた。

「十文字さんの話って面白いけど、どこまでホントなんだか、わかんない」 と言う春ちゃんに対し、「あのさ」 とおれは反論をする。

「そんなにホントのことが知りたいわけ? おれの経験からするとね」
ホントのことなんて、ロクなもんじゃないと思うけど」
「だからって、嘘つくことはないでしょ」 「嘘なんかついてないよ。ただね - 」 と、そこへママが話に割り込んできた。

ホントのことなんて、誰にもわからない」 「この商売をつづけていたら、そんなこと、いちいち気にしていられないの」 と言う。

- さて、冒頭にあるこれら一連の話に、何かしら人生に役立つ “教訓” めいた意味があるのか? ないのか? ・・・・・・・ あるような、ないような。それは誰にもわかりません。

それを言うなら、そもそも十文字は何が為に電球を交換しているのか? 自分のことを 「電球交換士」 などと名乗っているのか?

確かに言えるのは、十文字には自分の仕事に対する、揺るぎない “信念” があります。それはひとえに彼が扱う 「電球」 にあり、十文字扉は、彼のみが扱うオリジナルな電球を使用しています。そしてそれを 〈十文字ランプ〉 と呼んでいます。〈十文字ランプ〉 には、決して人に明かせない、ある “秘密” があります。

“秘密” が、もしも永遠に “秘密” であり続けたとしたら -、 “永遠” であることに疑いの余地がなかったとしたら -、おそらくは、十文字の “憂鬱” もまたなかったのかも知れません。

彼は、ある事情がもとで、自分が 「不死身(かもしれない)」 と思っています。

ドクター・ヤブからそう言われ、それで十文字は 「不死身(かもしれない)」 男になります。思うに、不死身とはいかばかりか孤独なもので、十文字が誰よりも長生きし、もしも不死身であるのを証明したとしても、その時、今いる 「わたしたち」 はもうこの世の中には存在しません。誰にもそうとは思われず、彼は 「不死身」 であり続けなければなりません。

十文字は、なるほど、そのとおりだと思います。

それは重々承知していた。おれはもうとっくに一人きりなのだ。生きのこるというのはそういうことで、不死身であるというのは、この世のあらゆる弔いを見届けることを意味する。
たった一人でだ。(P19)

彼が抱える孤独と憂鬱は、この先どこへ向かうのでしょう。日々忙しく電球の交換に励む十文字だったのですが、徐々に注文が減り、そのうち、〈十文字ランプ〉 が粗悪になっていることに気付きます。

 

この本を読んでみてください係数 80/100


電球交換士の憂鬱 (徳間文庫)

◆吉田 篤弘
1962年東京都生まれ。執筆のかたわら、「クラフト・エヴィング商會」名義による著作と装幀の仕事を続けている。

作品 「百鼠」「フィンガーボールの話のつづき」「空ばかり見ていた」「78ナナハチ」「それからはスープのことばかり考えて暮らした」「つむじ風食堂の夜」他多数

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