『魔女は甦る』(中山七里)_そして、誰も救われない。
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最終更新日:2024/01/09
『魔女は甦る』(中山七里), 中山七里, 作家別(な行), 書評(ま行)
『魔女は甦る』中山 七里 幻冬舎文庫 2018年7月25日5版
元薬物研究員が勤務地の近くで肉と骨の姿で発見された。埼玉県警の槇畑は捜査を開始。だが会社は二ヶ月前に閉鎖され、社員も行方が知れない。同時に嬰児誘拐と、繁華街での日本刀による無差別殺人が起こった。真面目な研究員は何故、無残な姿に成り果てたのか。それぞれの事件は繋がりを見せながら、恐怖と驚愕のラストへなだれ込んでいく・・・・・・・。(幻冬舎文庫)
それを目にした瞬間、槇畑啓介は思わず顔を背けた。捜査畑を歩いて十二年、腐乱やら轢断やら損傷の激しい死体には何度もお目にかかってきたが、これほど見事に原形を留めない代物は初めてだった。
埼玉県所沢市神島町。国道沿いの集落から一キロほど離れた沼地に、その死体は遺棄されていた。遺棄 - ただ放置されているのではなく、これ見よがしにうち棄てられているという形容がその状態を適確に表現していた。(本文より)
〇バラバラ死体となって発見されたのは、ドイツに本社を置く製薬会社・スタンバーグ社の元主任研究員、桐生隆という人物でした。
1.(生前の彼をよく知る人は) 桐生隆は敵のいない穏やかな人物で、なぜこれほどまでに残虐な殺され方をしたのか、その理由がさっぱりわかりません。彼には、大学の薬学部に通う女子大生、毬村美里という恋人がいました。
2.捜査を担当することになった埼玉県警捜査一課の槇畑啓介刑事が聞きこみを行ったところ、桐生の 「薬学」 についての考え方はやや特異なものだったことが判明します。また、彼は自分のことを 「魔女の末裔」 と称していたことがわかります。
3.桐生が勤務していたスタンバーグ社は、彼の事件が起こる直前に所沢の研究所を閉鎖、ドイツ人社員は帰国し、桐生を含むスタッフはその際に全員解雇されています。
4.捜査が難航する中、桐生が元いたスタンバーグ社の “よからぬ情報” が明かされます。事件の捜査に加わった警察庁生活安全局課長補佐・宮條貢平からのものでした。それによると、最近東京都内で起こった三件の凶悪犯人である未成年者たちから、「ヒート」 という新種の麻薬が検出されており、そのヒートの売人がスタンバーグ社の社員であったのみならず、会社ぐるみの犯行の可能性さえあるというものでした。
桐生の遺体は、「実際、それは肉片と骨で出来た屑だった。」 宮條は無謀な捜査が仇となり、志半ばでその生涯を閉じます。
追いつめたのは - 、そして追いつめられたのは槇畑啓介と毬村美里の二人でした。二人は絶望に絶望を上塗りするような、極めて困難な闘いを強いられることになります。結果彼らは救われるのですが、それで終わるわけではありません。背筋が凍るほどの戦慄は、まだまだ続きます。
この本を読んでみてください係数 85/100
◆中山 七里
1961年岐阜県生まれ。
花園大学文学部国文科卒業。
作品 「切り裂きジャックの告白」「贖罪の奏鳴曲」「追憶の夜想曲」「七色の毒」「さよならドビュッシー」「闘う君の唄を」「嗤う淑女」「連続殺人鬼カエル男」他多数
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