『カエルの楽園 2020』(百田尚樹)_書評という名の読書感想文

公開日: : 最終更新日:2024/01/08 『カエルの楽園 2020』(百田尚樹), 作家別(は行), 書評(か行), 百田尚樹

『カエルの楽園 2020』百田 尚樹 新潮文庫 2020年6月10日発行

コロナ禍の日本に問う、衝撃の3つの結末!
国難に迷走する政治。無責任なメディア。楽園の行く末は!?

二匹のアマガエルがたどり着いた夢の楽園は悲劇的な末路を迎えたはずだったが、悪夢の翌朝、二匹はなぜか再び平和な地にいた。今度の世界では、ウシガエルの国で 「新しい病気」 が流行っていたが、楽園のカエルたちは根拠なき楽観視を続ける。しかし、やがて楽園でも病気が広がり始め・・・・・・・。国難を前に迷走する政治やメディアの愚かさを浮き彫りにし、三通りの結末を提示する、警告と希望の書。(新潮文庫)

ネットで噂の 『カエルの楽園 2020』 を読みました。

- この作品は、5月6日から11日にかけてネットで無料公開したものです。
この小説の執筆は、新型コロナウイルスの流行によって自粛生活を余儀なくされている方たちに、小説家として何かできることはないかと考えたことがきっかけです。そして、どうせ読んでいただくなら、今この時を描いた作品にしたいと思い、新型コロナウイルス騒動をテーマにしたものを書こうと決めました。(著者あとがきより)

- という作品です。2016年に刊行された 『カエルの楽園』 の続編としての 「寓話」 だということ。(もしも 『カエルの楽園』 を読んでないという方は、ぜひこの機会に一読を。読むとこの物語に登場するカエルたちが、実は、今いる人間の誰のことかがとてもよくわかると思います)

百田さんは人類が初めて経験する未知なる感染症に対し、日本における初動から今日までの迷走と混乱 - 何が正しく、何時、誰が、何を見誤ったのか。感染拡大の抑止に関し、本当に正しい判断は誰がしたのか、誰の言葉を信じればよかったのか - を、「ある意味、現実をそのままなぞった寓話」 に仕立てました。

- 私たちはふだんの日常生活において、新聞で論説委員が書いた社説やコラムを読みます。またテレビでコメンテーターや学者が語ることを聞きます。国会で議員たちが国政を論じているのを見ます。彼らはいずれも高学歴で、知識も教養もあります。それだけに、その発言ももっともらしく聞こえます。しかし、彼らをカエルに置き換えて、同じセリフを言わせてみると、実生活では気付かなかった滑稽さ、愚かさ、間抜けぶりなどが見えてくるのではないかと思っています。これが、私が 『カエルの楽園 2020』 を書いた理由です。(著者あとがきより)

物語の、ほんの一部を紹介しましょう。登場するのは、それぞれがとても個性的なカエルたちです。(ある場面の特徴的なところを抽出しています。連続した文章ではありません)

 まもなく梅の花が咲き、ウシガエルのお祝いシーズンになりました。エコノミンが言っていた通り、ウシガエルの沼からたくさんのウシガエルがナパージュにやってきました。
 ナパージュ中の美しい泉や池、あるいは森や草原には、どこへいってもウシガエルの姿がありました。ツチガエルたちの中にはウシガエルの機嫌を取ったり、ナパージュを案内してハエをもらう者がたくさんいました。

 その間も、イエストールはいろんな場所で、ウシガエルをナパージュに入れては駄目だ と声をあげていました。イエストールがあまりにも何度も言うので、ツチガエルたちの中にも不安がる者が出てきましたが、大多数のツチガエルはイエストールの妄言と笑っていました。
 ところが、ある日、ナパージュにいた一匹のツチガエルが、肺がおかしくなる病気になりました。例のウシガエルの沼で流行っていた病気とまったく同じ症状です。しかもそのツチガエルはウシガエルたちを案内してハエを貰っていたカエルでした。

 その日の元老会議で、長老格の一匹であるツーステップが、ウシガエルの国が今、病気で大変みたいだから、元老たちで、ハエを送ろう と言い出しました。元老たちは皆キョトンとした顔をしましたが、ツーステップは大真面目な顔で続けました。

今度、ウシガエルの王様をお客様としてナパージュに呼ぶのも、裏でツーステップがプロメテウスに指示したという話だよ
ツーステップの指示ですって!? ソクラテスは驚きました。元老のトップはプロメテウスでしょう。ツーステップはトップよりも偉いんですか
プロメテウスが元老のトップになれたのは、ツーステップの後押しがあったからだと言われている。最近、ナパージュに多くのウシガエルが入ってくるようになったのも、裏でツーステップが指示しているという噂だよ
 ソクラテスは、もしそれが本当なら、とても危険なことのように思いました。

誰が誰のことなのか、どこの国のことを言っているのか、考えながら読んでみてください。すぐにわかるはずです。

この本を読んでみてください係数 85/100

◆百田 尚樹
1956年大阪府大阪市生まれ。
同志社大学中退。

作品 「永遠の0」「海賊とよばれた男」「夢を売る男」「影法師」「フォルトゥナの瞳」「カエルの楽園」「夏の騎士」他多数

関連記事

『他人事』(平山夢明)_書評という名の読書感想文

『他人事』平山 夢明 集英社文庫 2022年11月14日第13刷 本当の恐怖はすぐ

記事を読む

『子供の領分』(吉行淳之介)_書評という名の読書感想文

『子供の領分』吉行 淳之介 番町書房 1975年12月1日初版 吉行淳之介が亡くなって、既に20

記事を読む

『くちぶえ番長』(重松清)_書評という名の読書感想文

『くちぶえ番長』重松 清 新潮文庫 2020年9月15日30刷 マコトとは、それき

記事を読む

『くもをさがす』(西加奈子)_書評という名の読書感想文

『くもをさがす』西 加奈子 河出書房新社 2023年4月30日初版発行 これはたっ

記事を読む

『起終点駅/ターミナル』(桜木紫乃)_書評という名の読書感想文

『起終点駅/ターミナル』桜木 紫乃 小学館文庫 2015年3月11日初版 今年の秋に映画にな

記事を読む

『コンビニ人間』(村田沙耶香)_書評という名の読書感想文

『コンビニ人間』村田 沙耶香 文藝春秋 2016年7月30日第一刷 36歳未婚女性、古倉恵子。大学

記事を読む

『教誨師』 (堀川惠子)_書評という名の読書感想文

『教誨師』 堀川 惠子 講談社文庫 2025年2月10日 第8刷発行 おすすめ文庫王国201

記事を読む

『偏愛読書館/つかみどころのない話』(林雄司)_書評という名の読書感想文

『偏愛読書館/つかみどころのない話』林 雄司 本の話WEB 2016年5月12日配信 http:/

記事を読む

『5時過ぎランチ』(羽田圭介)_書評という名の読書感想文

『5時過ぎランチ』羽田 圭介 実業之日本社文庫 2021年10月15日初版第1刷

記事を読む

『かたみ歌』(朱川湊人)_書評という名の読書感想文

『かたみ歌』 朱川 湊人 新潮文庫 2008年2月1日第一刷 たいして作品を読んでいるわけではな

記事を読む

Message

メールアドレスが公開されることはありません。 が付いている欄は必須項目です

『神童』(谷崎潤一郎)_書評という名の読書感想文

『神童』谷崎 潤一郎 角川文庫 2024年3月25日 初版発行

『孤蝶の城 』(桜木紫乃)_書評という名の読書感想文

『孤蝶の城 』桜木 紫乃 新潮文庫 2025年4月1日 発行

『春のこわいもの』(川上未映子)_書評という名の読書感想文

『春のこわいもの』川上 未映子 新潮文庫 2025年4月1日 発行

『銀河鉄道の夜』(宮沢賢治)_書評という名の読書感想文

『銀河鉄道の夜』宮沢 賢治 角川文庫 2024年11月15日 3版発

『どうしてわたしはあの子じゃないの』(寺地はるな)_書評という名の読書感想文

『どうしてわたしはあの子じゃないの』寺地 はるな 双葉文庫 2023

→もっと見る

  • 3 にほんブログ村 本ブログ 書評・レビューへ
PAGE TOP ↑