『メガネと放蕩娘』(山内マリコ)_書評という名の読書感想文

公開日: : 最終更新日:2024/01/08 『メガネと放蕩娘』(山内マリコ), 作家別(や行), 山内マリコ, 書評(ま行)

『メガネと放蕩娘』山内 マリコ 文春文庫 2020年6月10日第1刷

実家の書店に暮らしつつ市役所勤めをするタカコ。突然、十年前に家出した妹ショーコが妊婦姿で帰ってきた。寂れた商店街に衝撃を受けたショーコはシングルマザーとしてここで働くと言い始める。破天荒だけど地元愛は強いショーコはタカコを巻き込み、いざ街おこし! アラサー姉妹の奮闘と成長を描く社会派エンタメ小説。(文春文庫)

最初に断っておきます。これは内容の善し悪しについての不満や批判といったものでは決してありません。言いたいのは、私がイメージする山内マリコのこれまでの小説とは違い “えらく前向きな話” である、ということです。

山内マリコは、何があってこんな!? 小説を書いたのか - その理由は巻末にある 「文庫版のためのあとがき」 に詳しく書いてあります。そうせずにはいられなかった、書かずに済ますわけにはいかない理由があったからです。

相変わらずの流れるような文章はとても読み易く、タカコと同じアラサー独身女性が読めば、共感するところがたくさんあるはずです。悲観的な話を悲観的にするのではなく、軽妙な笑いに変えて中にそっと本音をしのばせる。手慣れたものだと思います。

ただ、何と言いましょうか、ある意味話が上手く行き過ぎて、逆にしらけた気持ちになるのは、私だけのことなんでしょうか。

勿論、「寂れた商店街の活性化」 の話が悪いわけではありません。しかし、それはいつかどこかで聞いたような。貴女でなくても、別の誰かが書く話のような。そんな気がしてなりません。過去の作品に 「贖罪」 などする必要はないのだと思います。

私は、私が好きな 『ここは退屈迎えに来て』 『アズミ・ハルコは行方不明』 『選んだ孤独はよい孤独』 など、やっぱりそんな話が読みたかった。

この本を読んでみてください係数  80/100

◆山内 マリコ
1980年富山県富山市生まれ。
大阪芸術大学映像学科卒業。

作品 「アズミ・ハルコは行方不明」「ここは退屈迎えに来て」「さみしくなったら名前を呼んで」「パリ行ったことないの」「かわいい結婚」他

関連記事

『向田理髪店』(奥田英朗)_書評という名の読書感想文

『向田理髪店』奥田 英朗 光文社 2016年4月20日初版 帯に[過疎の町のから騒ぎ]とあり

記事を読む

『死者のための音楽』(山白朝子)_書評という名の読書感想文

『死者のための音楽』山白 朝子 角川文庫 2013年11月25日初版 [目次]教わ

記事を読む

『ママナラナイ』(井上荒野)_書評という名の読書感想文

『ママナラナイ』井上 荒野 祥伝社文庫 2023年10月20日 初版第1刷発行 いつだって、

記事を読む

『本屋さんのダイアナ』(柚木麻子)_書評という名の読書感想文

『本屋さんのダイアナ』柚木 麻子 新潮文庫 2016年7月1日発行 私の名は、大穴(ダイアナ)。お

記事を読む

『森の家』(千早茜)_書評という名の読書感想文

『森の家』千早 茜 講談社文庫 2015年12月15日第一刷 自由のない家族関係を嫌う美里は、一回

記事を読む

『黒牢城』(米澤穂信)_書評という名の読書感想文

『黒牢城』米澤 穂信 角川文庫 2024年6月25日 初版発行 4大ミステリランキングすべて

記事を読む

『アカペラ/新装版』(山本文緒)_書評という名の読書感想文

『アカペラ/新装版』山本 文緒 新潮文庫 2020年9月30日5刷 人生がきらきら

記事を読む

『検事の本懐』(柚月裕子)_書評という名の読書感想文

『検事の本懐』柚月 裕子 角川文庫 2018年9月5日3刷 ガレージや車が燃やされ

記事を読む

『ひなた弁当』(山本甲士)_書評という名の読書感想文

『ひなた弁当』山本 甲士 小学館文庫 2019年3月20日第9刷 人員削減を行うこ

記事を読む

『かわいい結婚』(山内マリコ)_書評という名の読書感想文

『かわいい結婚』山内 マリコ 講談社文庫 2017年6月15日第一刷 結婚して専業主婦となった29

記事を読む

Message

メールアドレスが公開されることはありません。 が付いている欄は必須項目です

『時穴みみか』(藤野千夜)_書評という名の読書感想文

『時穴みみか』藤野 千夜 双葉文庫 2024年3月16日 第1刷発行

『作家刑事毒島の嘲笑』(中山七里)_書評という名の読書感想文

『作家刑事毒島の嘲笑』中山 七里 幻冬舎文庫 2024年9月5日 初

『バリ山行』(松永K三蔵)_書評という名の読書感想文

『バリ山行』松永K三蔵 講談社 2024年7月25日 第1刷発行

『少女葬』(櫛木理宇)_書評という名の読書感想文

『少女葬』櫛木 理宇 新潮文庫 2024年2月20日 2刷

『この部屋から東京タワーは永遠に見えない』(麻布競馬場)_書評という名の読書感想文

『この部屋から東京タワーは永遠に見えない』麻布競馬場 集英社文庫 2

→もっと見る

  • 3 にほんブログ村 本ブログ 書評・レビューへ
PAGE TOP ↑