『緑の花と赤い芝生』(伊藤朱里)_書評という名の読書感想文
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最終更新日:2023/08/16
『緑の花と赤い芝生』(伊藤朱里), 伊藤朱里, 作家別(あ行), 書評(ま行)
『緑の花と赤い芝生』伊藤 朱里 小学館文庫 2023年7月11日初版第1刷発行
「利用する女」 VS 「拒絶する女」 女らしさとは? あの女 (こ) の本心、覗いてみる? きれいごとなし、忖度なし。女と女が、言葉で本気の殴り合い! - そこまでして、なんのために働くん? この部屋でだれにも見つからんまま死んでも、がんばった、幸せやったって思う? あたし、あんたみたいな女って大っ嫌い
大学院を修士課程まで修了し、大手飲料メーカーに勤めて独身のままキャリア街道をひた走る今村志穂子。本音を隠してでも夫や姑と 「理想の家族」 を築いていきたい桜木杏梨。まったく異なる27年間を生きてきた二人が、一つ屋根の下で暮らすことになる。
微塵もわかり合えない二人は、うまくいかないことがあるたび苛立ちを募らせる。自分にとって本当に居心地の良い場所、素の自分でいられる場所は、どこにあるのだろう。歩みを止めてはお互いの姿を思い浮かべるようになった彼女たちは、誰のためでもなく自分のための答えに辿り着く。解説=寺地はるな (小学館文庫)
伊藤朱里の本は、これで3冊目。初めて読んだ 『きみはだれかのどうでもいい人』 は衝撃的でした。そして思いました。この人は信用できる、この人の本をもっと読んでみたいと。
『緑の花と赤い芝生』。印象的なタイトルだ。緑の芝生でもなく、赤い花でもない。はじめて目にした時ふしぎに思ったことをよく覚えている。
赤と緑は 「補色」 だ。補色とは色相環において反対側に位置する色のことで、本書には幾たびも赤と緑が印象的に示される。志穂子が手掛けた野菜ジュースのパッケージ。杏梨が勤める眼鏡店の視力検査表。志穂子と杏梨というふたりの主人公も、赤と緑のごとく正反対のタイプの女性として描かれる。読み進めるうちにふたりには似た部分や共通点があることがわかってくるのだが、周囲の人々は最後まで彼女たちを 「正反対のタイプ」 としてしか見ない。
こっちとあっち。明確に分類できるのは気持ちがいい。整理整頓の行き届いた部屋のようにすがすがしい。しかし人生の多くの物事は 「こっちを選んだからこうなった」 とか、「こっちを選ぶとこれが手に入る」 とかいうように明快にシンプルに展開していかない。選択と結果がイコールにならない。だから他人に 「あなたはもう 『そっち』 なんだからね、『こっち』 には来ないでね」 と線を引かれるとモヤモヤするし、眠れぬ夜に 「あの時 『こっち』 を選んだけど、正解だったのかな」 と不安にさいなまれる。(寺地はるなの解説より抜粋)
※ちなみに、『きみはだれかのどうでもいい人』 を読んだある書店員さんの感想が -
残酷さと慈愛の両面を捉えた
この著者の視線は鋭く強く確かである -
ゾクッとするこの読み応えを
多くの読者と分かち合いたい! (内田剛/書店員)
というもので、確かに内田氏が言う通り、「ゾクッとする」 「読み応え」 こそが伊藤朱里の真骨頂だと思います。その 「鋭く強く確かな」 感性は、きっとあなたの心を揺さぶることでしょう。 (特に若い女性におすすめです)
この本を読んでみてください係数 80/100
◆伊藤 朱里
1986年静岡県浜松市生まれ。
お茶の水女子大学文教育学部卒業。
作品 「名前も呼べない」「きみはだれかのどうでもいい人」「稽古とプラリネ」「ピンク色なんかこわくない」他
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