『向こう側の、ヨーコ』(真梨幸子)_書評という名の読書感想文
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『向こう側の、ヨーコ』(真梨幸子), 作家別(ま行), 書評(ま行), 真梨幸子
『向こう側の、ヨーコ』真梨 幸子 光文社文庫 2020年9月20日初版
1974年生まれの二人の 「陽子」。恋愛小説家として成功した陽子は、幼い頃から、自分が辿るはずだったかわいそうな運命を生きるヨーコの夢を見ていた。一方、夫と一人息子と共に暮らす陽子は、決して贅沢のできない毎日に嫌気がさしていた。家も、職業も、生活も、全てが異なる二人の人生は絶対に交わることはなかったが - 瞬く間に世界が狂い出す、イヤミス最高傑作! (光文社文庫)
独身生活を謳歌する小説家・陽子には、幼い頃からよく見る “夢” がありました。それは、実際とは違う “かわいそうな人生を送る自分” の夢でした。
一方、結婚し夫と息子の三人で暮らす陽子は、現在、大手通販会社の事務センターでパートタイマーとして働いています。彼女は、(とてもありがちなことですが) 平凡な毎日の生活にやや嫌気がさしています。
この物語には、ある背景があります。主に登場する女性たちの全員が 「1974年生まれ」 の、40歳を過ぎたばかりであるということです。もう若くはなく、それぞれが、それぞれに人に言えない屈折を抱えています。
加えて、1974年に生まれた女の子に付けられた名前のランキングを見ると - 例えば、裕子、真由美、久美子、純子 - などを抑えて1位は 「陽子」 だったということ。中年にさしかかり、そろそろ更年期を迎えようかという 「陽子」 が、その頃、いたるところにわんさかいたということです。
こちら側と、「向こう側の、ヨーコ」- ばかりではありません。同じ分だけ生きてきた40を過ぎた女性なら、(その言動に) 裏もあれば表もあります。立場はどうとあれ、陰に隠れて何をしているかわかりません。
事は、殺人事件へと発展します。誰が一番まともで、クールで、客観的なのか? よ~く考えてください。
※A面とB面それぞれに、男女合わせて多くの人物が登場します。惑わされてはいけません。名前は、時に呼び名やペンネームであったりします。いつも本名とは限りません。それより何より、皆が、正直に事実を述べているとは言い難い中で話は進行します。
安心して下さい。混乱しなくて済むために、最後に、「主な登場人物」 のA・B面ごとの一覧表が載せてあります。
この本を読んでみてください係数 80/100
◆真梨 幸子
1964年宮崎県生まれ。
多摩芸術学園映画科(現、多摩芸術大学映像演劇学科)卒業。
作品 「孤虫症」「えんじ色心中」「殺人鬼フジコの衝動」「深く深く、砂に埋めて」「女ともだち」「あの女」「みんな邪魔」「人生相談」「お引っ越し」他多数
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