『ふたりぐらし』(桜木紫乃)_書評という名の読書感想文

『ふたりぐらし』桜木 紫乃 新潮文庫 2021年3月1日発行

ふたりぐらし(新潮文庫)

元映写技師の夫・信好は、看護師の妻・紗弓と二人暮らし。映画脚本家の夢を追い続けて定職はなく、ほぼ妻の稼ぎで食べている。当の妻は、余裕のない生活で子供を望むこと、義母との距離、実母との確執など、家族の形に悩む日々だ。幸せになるために生涯を誓ったはずなのに、夫婦とは、結婚とは、一体何だろう。夫婦が夫婦になっていく “家族のはじまり” を、夫と妻交互の視点で描く連作短編集。(新潮文庫)

不惑の夫・信好には決まった仕事がありません。仕事に就く気がないのは、(映画の) 脚本家になる夢を諦めきれずにいるためです。

妻の紗弓は看護師をしています。二人は狭いアパート暮らしだったのですが、それとても、紗弓の稼ぎがあればこそのことでした。生活はギリギリで、子供を持つことは叶いません。じきに彼女は、三十六歳になります。

節約も最初のころは趣味にすればよしと思っていたけれど、月給のほとんどが生活に消えてゆく日々が続くと心が荒むのか、ときおりやりきれない思いに襲われる。

いつまでこんな感じかな - 子供を持つことも躊躇うような日々が、期限付きではないことが気がかりだった。(「家族旅行」 より)

信好の母・テルが亡くなった後、二人はアパートを出て、テルのかつての住まいであり、信好の実家でもある古い平屋の一軒家へと引っ越します。そこで暮らすと決めたのは、妻の紗弓の方でした。

その後信好は、紗弓の父からの紹介で決まった仕事に就けるのですが、収入は十分といえず、生活は中々に思い通りにはいきません。紗弓がする節約にはさらに磨きがかかり、信好の夢は夢であり続けます。紗弓が母となる期限は、間近に迫っています。

※仕事やお金。老いた親のこと。子供のこと。おまけに、不倫疑惑。二人は大いに悩むのですが、かと言って、慌てる素振りも焦る様子も見せません。流れに任せ、折り合いをつけながら、慎み深く暮らしています。二人は、どこも、何も、不幸に見えません。

結局のところ、これは著者が意図して書いた、究極の “のろけ” 話ではないのかと。そんな風にも思えてきます。こんな夫であったなら、こんな妻であったなら。こんなふたりであったならと - 読んだあなたはきっと思うはずです。

この本を読んでみてください係数  80/100

ふたりぐらし(新潮文庫)

◆桜木 紫乃
1965年北海道釧路市生まれ。
高校卒業後裁判所のタイピストとして勤務。

作品 「起終点駅/ターミナル」「凍原」「氷平線」「ラブレス」「ホテルローヤル」「硝子の葦」「星々たち」「ブルース」「霧/ウラル」「砂上」「家族じまい」他多数

関連記事

『KAMINARI』(最東対地)_書評という名の読書感想文

『KAMINARI』最東 対地 光文社文庫 2020年8月20日初版 KAMINARI (光

記事を読む

『福袋』(角田光代)_書評という名の読書感想文

『福袋』角田 光代 河出文庫 2010年12月20日初版 福袋 (河出文庫) 私たちは

記事を読む

『風味絶佳』(山田詠美)_書評という名の読書感想文

『風味絶佳』山田 詠美 文芸春秋 2008年5月10日第一刷 風味絶佳  

記事を読む

『初めて彼を買った日』(石田衣良)_書評という名の読書感想文

『初めて彼を買った日』石田 衣良 講談社文庫 2021年1月15日第1刷 初めて彼を買った日

記事を読む

『ペインレス 私の痛みを抱いて 上』(天童荒太)_書評という名の読書感想文

『ペインレス 私の痛みを抱いて 上』天童 荒太 新潮文庫 2021年3月1日発行 ペインレス

記事を読む

『僕のなかの壊れていない部分』(白石一文)_僕には母と呼べる人がいたのだろうか。

『僕のなかの壊れていない部分』白石 一文 文春文庫 2019年11月10日第1刷 僕のなかの

記事を読む

『ヒーローインタビュー』(坂井希久子)_書評という名の読書感想文

『ヒーローインタビュー』坂井 希久子 角川春樹事務所 2015年6月18日初版 ヒーローインタ

記事を読む

『また、同じ夢を見ていた』(住野よる)_書評という名の読書感想文

『また、同じ夢を見ていた』住野 よる 双葉文庫 2018年7月15日第一刷 また、同じ夢を見て

記事を読む

『ふがいない僕は空を見た』(窪美澄)_書評という名の読書感想文

『ふがいない僕は空を見た』窪 美澄 新潮文庫 2012年10月1日発行 ふがいない僕は空を見た

記事を読む

『本と鍵の季節』(米澤穂信)_書評という名の読書感想文

『本と鍵の季節』米澤 穂信 集英社 2018年12月20日第一刷 本と鍵の季節 (単行本)

記事を読む

Message

メールアドレスが公開されることはありません。 * が付いている欄は必須項目です

『わたしの本の空白は』(近藤史恵)_書評という名の読書感想文

『わたしの本の空白は』近藤 史恵 ハルキ文庫 2021年7月18日第

『太陽と毒ぐも』(角田光代)_書評という名の読書感想文

『太陽と毒ぐも』角田 光代 文春文庫 2021年7月10日新装版第1

『夏の終わりの時間割』(長岡弘樹)_書評という名の読書感想文

『夏の終わりの時間割』長岡 弘樹 講談社文庫 2021年7月15日第

『スイート・マイホーム』(神津凛子)_書評という名の読書感想文

『スイート・マイホーム』神津 凛子 講談社文庫 2021年6月15日

『ぼくはイエローでホワイトで、ちょっとブルー』(ブレイディみかこ)_書評という名の読書感想文

『ぼくはイエローでホワイトで、ちょっとブルー』ブレイディみかこ 新潮

→もっと見る

  • 3 にほんブログ村 本ブログ 書評・レビューへ
PAGE TOP ↑