『首の鎖』(宮西真冬)_書評という名の読書感想文

『首の鎖』宮西 真冬 講談社文庫 2021年6月15日第1刷

首の鎖 (講談社文庫)

さよなら、家族

妻を、殺してしまいました。」 介護、DV - 家族の鎖につながれた二人のエスケープ。家族に苦しむあなたへ

勝村瞳子、独身。自分を疎ましがる母の介護と、実家の店でこき使われているうちに一日が終わる。恋人には、妻がいる。そんな中、病院の待合室で丹羽顕と出会う。彼は、妻からのDVに悩まされていた。愛しているのに苦しい、実家への複雑な想いを始めて理解し合えた二人は、ある殺人事件を機に共犯者となるが - 。(講談社文庫)

妻は4月に、私は6月に、二人は夫婦揃って今年満65歳になりました。明らかに体力は落ち、無理が効かなくなりました。介護について、する側の人間だとばかり思っていたものが、今や、される側になりつつあります。

年金受給の知らせと共に、市の保険課からは介護保険専用の被保険者証が届きました。保険料徴収の案内があり、私たち夫婦は正真正銘の 「高齢者」 となりました。いささか抵抗があるにはありますが如何ともし難く、受けとめざるを得ません。

なぜこんなことを始めに書いたのか - 本来なら薄幸の主人公・瞳子の心情にこそ思いを寄せるべきところを、私は最初、私が現実に 「介護を受ける身になった」 ときのことを考えました。タイミングもあり、嫌でも考えさせられました。この小説に登場する瞳子の祖母や母の状態に、私も妻も、いずれはなるのだろうと。

その時、もしも瞳子のような、従順で働き者の娘がいたとしたら、何をおいても傍に置いておきたいと思うはずです。疎まれ、時に邪険に扱われたとしても、たとえ 「早く死ねばいい」 と思われていたとしてもです。

勝村瞳子の話をしましょう。

瞳子は高校卒業後、祖母の介護にはじまり、続いて母の介護までをも、彼女一人が担うことになります。当初は彼女が望んでしたことでもあったのですが、父が経営する店の手伝いもやらされて、結果、彼女は若い女性らしい時間を一時たりとも過ごすことができません。

現在の瞳子は、母には呼び出し専用のブザーを持たされて、昼夜関係なく世話をさせられ、空いた時間は店に出る - その繰り返しの毎日で、瞳子はまるで化粧っ気がありません。婚期を逸し、彼女はじきに40歳になろうとしています。

店を切り盛りする父も、病床の母も、娘のその状況を、実はわかりすぎるくらいにわかっています。百も承知で、見て見ぬふりをしています。

家族にがんじがらめにされ、自由な時間も持てずに束縛されるとしたら、それでも、それを家族の 「絆」 と言えるでしょうか? 

家の都合に、親のエゴ。夫婦の間に生じる亀裂。自分を犠牲にしてまで親の言い付けを守り、妻からのDVを耐え忍ぶということについて。

「絆」 と呼ぶものは、実は、首に巻かれた 「鎖」 ではないのでしょうか。

この本を読んでみてください係数  80/100

首の鎖 (講談社文庫)

◆宮西 真冬
1984年山口県生まれ。

作品 「誰かが見ている」で第52回メフィスト賞を受賞し、デビュー。他に「友達未遂」。

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