『死にゆく者の祈り』(中山七里)_書評という名の読書感想文

『死にゆく者の祈り』中山 七里 新潮文庫 2022年4月15日2刷

死刑執行直前からの大どんでん返し!  絞首台へ向かう友の魂を救えるか - 。究極のタイムリミット・サスペンス!!

何故、お前が死刑囚に - 。教誨師の高輪顕真が拘置所で出会った男、関根要一。かつて、雪山で遭難した彼を命懸けで救ってくれた友だ。本当に彼が殺人を犯したのか。調べるほど浮かび上がる不可解な謎。無実の罪で絞首台に向かう友が、護りたいものとは - 。無情にも迫る死刑執行の刻、教誨師の執念は友の魂を救えるか。”大どんでん返し” の帝王による、予測不能・急転直下のタイムリミット・サスペンス。(新潮文庫)

教誨師 (きょうかいし):服役中の囚人や死刑囚に対して、過ちを悔い改め徳性を養うための道を説く者。日本では真宗の僧侶が多い。死刑囚と面会し、さらには刑の執行にも立ち会う。

【あらすじ】
平成24年8月23日。深夜に川崎市内の公園で殺人事件が起きた。被害者は兎丸雅司と塚原美園という若いカップルで、ナイフによる刺殺だった。その翌日、関根要一という男が警察に出頭し、二人の殺害を自供。カップルと面識はないが、鼻の痣を嗤われたため、衝動的に殺したのだという。関根には、第一審で死刑判決が下された・・・・・・・。

本書は、この事件の5年後を描いたミステリである。主人公を務めるのは、高輪顕真という浄土真宗の僧侶だ。彼は東京拘置所において、教誨師として被収容者、つまり囚人たちの宗教的要望に応じている。

教誨師の役割は、例えば、囚人たちを集めて行う集合教誨であり、死刑執行への立ち会いであった。そして8月の集合教誨において、顕真は死刑囚としてこの拘置所に収容されている関根と “再会” した。そう、顕真と関根は大学時代、同じ山岳サークルの同期だったのだ。卒業して25年、久々の、また、予想もしなかったかたちでの再会だった。

そして顕真は5年前の事件の詳細を知り、違和感を覚える。関根の犯行とは思えない点がいくつもあったのだ。衝動的な殺人という点もそうだし、鼻の痣を嗤われたから、というのも、鼻の特徴を重宝がっていた関根らしくない。一審判決のあと、控訴しなかったことも不自然だ。

顕真は、教誨師として月に一回の面会を関根と行いつつ、事件についても自分なりの調査を始める。既に確定してしまった死刑が執行される際、関根が取り乱すことのないよう、”自分は仏の力を借りて関根を安寧に導かなければならない” と考えたのだ。そのためには、詳細を知らねばならない、と。(解説より)

調べていくとやがてわかるのですが、どうやら関根は誰かを護ろうとしているのではないかと。自分が身代わりに、望んで死刑になろうとしているのではないのかと。

関根は固く口を閉ざしています。しかし、関根に人は殺せない。殺すはずがない - 関根との過去を思う時、顕真にはそう信じるに足る根拠があります。

この本を読んでみてください係数 80/100

◆中山 七里
1961年岐阜県生まれ。
花園大学文学部国文科卒業。

作品 「切り裂きジャックの告白」「七色の毒」「さよならドビュッシー」「闘う君の唄を」「嗤う淑女」「魔女は甦る」「連続殺人鬼カエル男」「護られなかった者たちへ」他多数

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