『夢見る帝国図書館』(中島京子)_書評という名の読書感想文

公開日: : 最終更新日:2024/01/06 『夢見る帝国図書館』(中島京子), 中島京子, 作家別(な行), 書評(や行)

『夢見る帝国図書館』中島 京子 文春文庫 2022年5月10日第1刷

ねえ、どうして、図書館ってものが作られたのか、あんた知ってる?

図書館を愛した喜和子さんと、図書館が愛した人々の物語は、やがて切なくも愛おしい記憶へと辿り着く。

上野公園のベンチで出会った喜和子さんが、作家のわたしに 「図書館が主人公の小説」 を書いて、と持ち掛けてきた。二人の穏やかな交流が始まり、やがて喜和子さんは終戦直後の上野での記憶を語るのだが・・・・・・・。日本初の国立図書館の物語と、戦後を生きた女性の物語が共鳴しながら紡がれる、紫式部文学賞受賞作。解説・京極夏彦 (文春文庫)

小説というのは、まあウソである。でも何から何までウソという訳ではない。現実からなにがしかを借りてこなければ、小説は書けないし、書いても通じにくい。小説というものは、ウソとマコトが不可分にブレンドされているものなのである。だからこそ、嘘を真実っぽく書くことも、現実を面白可笑しく書くこともできるのだ。その匙加減が、小説の、延いては小説家の腕の見せどころということになるのだろう。

中島さんの小説の佇まいは、とても優しい。気の好いご近所さんがかけてくれた朝の挨拶の如く、優しい。時に苛烈な先行きが待ち受けていたりもするのだけれど、優しい。だから読者は迷うことなくその優しげな日常に入り込んでしまう。微細に描写されるディテールも、語り手の心の機微の積み重ねも、それをやんわりと後押ししてくれる。だから読む者はなんの躊躇いもなく上野で喜和子さんと出会うことになる。

当然、僕らはその書物の中の日常で、図書館や、本や、人のことを考える。読み手は語り手と同調して、この先何が起きるのかを夢想し、起きたことを反芻する。

その辺の書き方はもう、手練れである。とても巧い。(解説より)

今更言うのも何なのですが、良い読書をしたあとというのは、心がきれいに洗われて、なにより清々しい感じがします。そして、そんな本(作品)に出会えたことに、心から感謝します。

著者が書いた作品を既に何冊もお読みの方なら言わずもがなですが、そうではない方に、京極氏の言う 「気の好いご近所さんがかけてくれた朝の挨拶の如く、優しい」 文章を、ぜひ味わってみてください。ちょっと得難い読書体験になるのでは。図書館が、人に思えてきます。

この本を読んでみてください係数 85/100

◆中島 京子
1964年東京都生まれ。
東京女子大学文理学部史学科卒業。

作品 「FUTON」「イトウの恋」「均ちゃんの失踪」「冠・婚・葬・祭」「小さいおうち」「眺望絶佳」「樽とタタン」「妻が椎茸だったころ」「長いお別れ」他多数

関連記事

『やぶへび 』(大沢在昌)_書評という名の読書感想文

『やぶへび 』大沢 在昌 講談社文庫 2015年1月15日第一刷 甲賀は女好きでしたが、女運

記事を読む

『ハーメルンの誘拐魔』(中山七里)_書評という名の読書感想文

『ハーメルンの誘拐魔』中山 七里 角川文庫 2022年2月25日11版 刑事犬養隼

記事を読む

『三の隣は五号室』(長嶋有)_あるアパートの一室のあるある物語

『三の隣は五号室』長嶋 有 中公文庫 2019年12月25日初版 傷心のOLがいた

記事を読む

『やさしい猫』(中島京子)_書評という名の読書感想文

『やさしい猫』中島 京子 中央公論新社 2023年5月30日8版発行 吉川英治文学

記事を読む

『切り裂きジャックの告白』(中山七里)_書評という名の読書感想文

『切り裂きジャックの告白』中山 七里 角川文庫 2014年12月25日初版 東京・深川警察署の

記事を読む

『きりこについて』(西加奈子)_書評という名の読書感想文

『きりこについて』西 加奈子 角川書店 2011年10月25日初版 きりこという、それはそれ

記事を読む

『ヒポクラテスの誓い』(中山七里)_書評という名の読書感想文

『ヒポクラテスの誓い』中山 七里 祥伝社文庫 2016年6月20日初版第一刷 浦和医大・法医学教室

記事を読む

『ハラサキ』(野城亮)_書評という名の読書感想文

『ハラサキ』野城 亮 角川ホラー文庫 2017年10月25日初版 第24回日本ホラー小説大賞読者

記事を読む

『夜の谷を行く』(桐野夏生)_書評という名の読書感想文

『夜の谷を行く』桐野 夏生 文芸春秋 2017年3月30日第一刷 39年前、西田啓子はリンチ殺人の

記事を読む

『嗤う淑女』(中山七里)_書評という名の読書感想文

『嗤う淑女』中山 七里 実業之日本社文庫 2018年4月25日第6刷 その名前は蒲

記事を読む

Message

メールアドレスが公開されることはありません。 が付いている欄は必須項目です

『鑑定人 氏家京太郎』(中山七里)_書評という名の読書感想文

『鑑定人 氏家京太郎』中山 七里 宝島社 2025年2月15日 第1

『教誨師』 (堀川惠子)_書評という名の読書感想文

『教誨師』 堀川 惠子 講談社文庫 2025年2月10日 第8刷発行

『死神の精度』(伊坂幸太郎)_書評という名の読書感想文

『死神の精度』伊坂 幸太郎 文春文庫 2025年2月10日 新装版第

『それでも日々はつづくから』(燃え殻)_書評という名の読書感想文

『それでも日々はつづくから』燃え殻 新潮文庫 2025年2月1日 発

『透析を止めた日』 (堀川惠子)_書評という名の読書感想文

『透析を止めた日』 堀川 惠子 講談社 2025年2月3日 第5刷発

→もっと見る

  • 3 にほんブログ村 本ブログ 書評・レビューへ
PAGE TOP ↑