『太陽のパスタ、豆のスープ』(宮下奈都)_書評という名の読書感想文

『太陽のパスタ、豆のスープ』宮下 奈都 集英社文庫 2013年1月25日第一刷

結婚式直前に突然婚約を解消されてしまった明日羽(あすわ)。失意のどん底にいる彼女に、叔母のロッカさんが提案したのは “ドリフターズ・リスト” の作成だった。自分はこれまで悔いなく過ごしてきたか。相手の意見やその場の空気に流されていなかっただろうか。自分の心を見つめ直すことで明日羽は少しずつ成長してゆく。自らの気持ちに正直に生きたいと願う全ての人々におくる感動の物語。(集英社文庫)

もうずっと自分に自信を持てないでいる。もうずっとというのがどれくらいずっとなのか、思い起こそうとすると頭が痛くなるくらいだ。熱中症の後遺症なんかじゃない。自信なんて生まれた頃から持ったことがなかった気がする。

何かでいちばんになるとか、目立つとかいったことがぜんぜんなかった。勉強も運動も容姿も並だ。自分に対しての評価は大概甘くなるというから、自分で並だと思っていたということは実際には並よりちょっと下だったのかもしれない(P155) - と、嘆き悲しんでいる貴女。

この小説は、貴女にこそ読んでほしいと思う一冊です。

(その「象徴」がタイトルの)本作は、結婚直前に婚約を破棄された20代後半の女性が、ドリフターズ・リストという自分のやりたいことを書いたリストを作成し、その内容を実行していくことで、浮き沈みしながらも自信を取り戻していく - という物語です。

主人公のあすわは、婚約し、いざ結婚という間際に及んで、最愛の人と信じた譲から破談の申し入れを受けます。天国から地獄、全ては暗転し、たちまちに彼女は人生の「漂流者」となります。その時の彼女の心境はというと -

譲さんがいなくなってみてよくわかった。並んで歩くはずの人が消えるということは、並んで歩いていくはずの道も消えるということだ。私はどっちに足を踏み出していいのかさえわからないでいる。あたりまえだ。結婚によりかかって歩いていたのだから。

しかし、今ならどうか。元の道に戻してあげようかと聞かれたら、私はうなずくだろうか。あんなにしっかりとしていたはずの道が、今は跡形もない。その先に何があるのか、足もとの土はぬかるんでいないか、すぐそこに穴が開いてるんじゃないか。そんなことを考えもしなかった。気がつけば、道のないところにひとり佇んでいる。(P149)

この(最悪で絶望の)状況から、あすわは抜け出すことができるのか? できたとするなら、それは何がきっかけだったのか? 何があって彼女は立ち直ることができたのか・・・・・・・?

この小説には、その、ほんのささいなきっかけの、しかし往々に見過ごしてしまいかねない日々の営みの、あたりまえといえばあたりまえのことが綴られています。

この本を読んでみてください係数 85/100

◆宮下 奈都
1967年福井県生まれ。
上智大学文学部哲学科卒業。

作品 「静かな雨」「スコーレNO.4」「遠くの声に耳を澄ませて」「田舎の紳士服店のモデルの妻」「メロディ・フェア」「誰かが足りない」「ふたつのしるし」「羊と鋼の森」他多数

関連記事

『物語のおわり』(湊かなえ)_書評という名の読書感想文

『物語のおわり』湊 かなえ 朝日文庫 2018年1月30日第一刷 妊娠三ヶ月で癌が発覚した女性、父親

記事を読む

『エレジーは流れない』(三浦しをん)_書評という名の読書感想文

『エレジーは流れない』三浦 しをん 双葉社 2021年4月25日第1刷 海と山に囲

記事を読む

『欺す衆生』(月村了衛)_書評という名の読書感想文

『欺す衆生』月村 了衛 新潮文庫 2022年3月1日発行 詐欺の天才が闇の帝王に成

記事を読む

『隣のずこずこ』(柿村将彦)_書評という名の読書感想文

『隣のずこずこ』柿村 将彦 新潮文庫 2020年12月1日発行 帯に 「衝撃のディス

記事を読む

『月の満ち欠け』(佐藤正午)_書評という名の読書感想文

『月の満ち欠け』佐藤 正午 岩波書店 2017年4月5日第一刷 生きているうちに読むことができて

記事を読む

『向日葵の咲かない夏』(道尾秀介)_書評という名の読書感想文

『向日葵の咲かない夏』道尾 秀介 新潮文庫 2019年4月30日59刷 直木賞作家

記事を読む

『彼女が最後に見たものは』(まさきとしか)_書評という名の読書感想文

『彼女が最後に見たものは』まさき としか 小学館文庫 2021年12月12日初版第1刷

記事を読む

『太陽と毒ぐも』(角田光代)_書評という名の読書感想文

『太陽と毒ぐも』角田 光代 文春文庫 2021年7月10日新装版第1刷 大好きなの

記事を読む

『人生相談。』(真梨幸子)_書評という名の読書感想文

『人生相談。』真梨 幸子 講談社文庫 2017年7月14日第一刷 父が遺してくれた家に、見知らぬ家

記事を読む

『火車』(宮部みゆき)_書評という名の読書感想文

『火車』宮部 みゆき 新潮文庫 2020年5月10日87刷 ミステリー20年間の第1

記事を読む

Message

メールアドレスが公開されることはありません。 が付いている欄は必須項目です

『羆嵐』(吉村昭)_書評という名の読書感想文

『羆嵐』吉村 昭 新潮文庫 2026年12月20日 62刷発行

『妊娠カレンダー』(小川洋子)_書評という名の読書感想文

『妊娠カレンダー』小川 洋子 文春文庫 2020年12月20日 第2

『カフェーの帰り道』(嶋津輝)_書評という名の読書感想文

『カフェーの帰り道』嶋津 輝 東京創元社 2026年1月23日 4版

『きっと君は泣く』(山本文緒)_書評という名の読書感想文

『きっと君は泣く』山本 文緒 角川文庫 2026年1月25日 改版初

『彼女たちが隠したかったこと』(一木けい)_書評という名の読書感想文

『彼女たちが隠したかったこと』一木 けい 角川文庫 2026年1月2

→もっと見る

  • 3 にほんブログ村 本ブログ 書評・レビューへ
PAGE TOP ↑