『カンザキさん』(ピンク地底人3号)_書評という名の読書感想文

『カンザキさん』 ピンク地底人3号 集英社 2026年1月10日 第1刷発行

わしのこと以外、書くことなんてないやろカンザキさんは、悪魔だったのか、それとも--。

殺すぞぼけ もうやめてください こらぁ まだ死にたくありません カンザキさんの言うことは、絶対だった - 。  

大学卒業後、引きこもりを経て、僕が働くことになったのは、離職者続出、いつでも求人中の超絶ブラック企業の配送会社。
そこで先輩として出会ったのが、誰にでも優しい人格者のミドリカワさんと、「殺すぞぼけ」 と人を罵り、蹴りを入れる悪魔のようなカンザキさんだった。
ナンバーワンの配送員になって幹部を目指す! と豪語した同期は、カンザキさんと組んで5日後に辞めた。要領の悪い同期は、カンザキさんに殴られ続け、走るトラックの助手席から飛び降り、入院してしまう。そしてカンザキさんと組まされた僕は、カッター片手の彼に、トラックの荷台の上へ引きずり込まれ、「服を脱げ」 と命じられて --。

圧倒的な暴力と不条理の果てに、見えてくる戦慄の光景。注目の劇作家による初小説! 第47回野間文芸新人賞受賞作。(集英社)

カンザキさんの生き方、仕事の仕方、あらゆる心構えについてのブレのなさは鉄壁で、半端ではありません。彼のふるう暴力は誰も拒めず、彼がする言いがかりにしか思えない指示や命令も、決して断ることはできません。パワハラ、モラハラの化身のようなカンザキさんですが、そのあり余るパワーと一切揺るぎのない屁理屈に、(不謹慎ながら) 私は腹を抱えて笑ってしまいました。

主人公のノミは、十五歳くらいから鬱病を患い、大学を6年かけて卒業した後は実家に引きこもる生活をしていた。このままではまずいと一念発起し、ひとり暮らしと就職活動をはじめた。唯一採用となった大型家電の配送を請け負う会社が、この小説の舞台である。

ひどい労働条件の上に、ほとんどの社員が意地悪く、当然のことながら離職率が高い。引きこもりを脱したばかりのノミにはどう考えても向かないが、最初にパートナーとなって仕事を教えてくれたミドリカワさんのおかげで、なんとか仕事を続けている。

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同期入社の5名のうち、唯一やたら前向きで 「幹部にまで上り詰める」 と豪語していたタカギくんが退職してしまったことから、運命は変わる。カンザキさんと組んでから様子がおかしくなり、指導方法について課長に窮状を訴えたものの問答無用で殴られ、たった二週間で辞めたのだという。代わりにカンザキさんと組むことになったのがノミなのである。

ゴミだらけの異臭漂うトラックに耐え、次々に付けられる意味不明な言いがかりに怯え、本来は二人で運ぶべき小さな冷蔵庫 (チビ冷) を一日にいくつも一人で運ぶように命じられ、少しでも休めば階段から突き落とされ、「殺したろか」 と罵られる。いやいや、ありえませんって!

あまりに理不尽で暴力的な現実とは反対に、ノミの脳内世界はユニークだ。運んでいる途中に 「フレーフレーノミさん」 と応援してくれるチビ冷はやけにかわいらしく、もうひとりの自分やら脳内のミドリカワさんとの対話に思わず吹き出してしまう。人間性に問題がある会社の人々は素晴らしい言語センスで描写されるので、ムカつくんだけど滑稽さが際立つ。

読者としては笑っちゃうけどさ、この会社やばいって。今すぐ退職の一択だよ! と言いたいが、ノミは辞めないのである。(WEB本の雑誌 【今週はこれを読め! エンタメ編】 より抜粋)

※ネットで見つけた著者の刊行記念インタビューの中に、こんなやりとりがありました。

もしかしてカンザキさんはのメタファーなんでしょうか。(という問いに対し著者は、)

はい。本作は神との対話を試み、拒否され、翻弄される人間の話でもあります。明確にヨブ記を意識していますね。

と答えています。そういえば、それらしき場面がたしかにありました。わりと唐突だったので、ここでなぜ “キリスト“ なんだと思いましたが、なるほどそういうことかと。カンザキさんが、神・・・・ですか。

この本を読んでみてください係数 85/100

◆ピンク地底人3号
1982年生まれ。同志社大学文学部文化学科美学芸術学専攻卒業。

劇作家・演出家。地上侵略をもくろむ怪人。2019年 「鎖骨に天使が眠っている」 で第24回劇作家協会新人戯曲賞受賞。2022年 「華指1832」 で第66回岸田國士戯曲賞最終候補。初の小説となる本作品で、第47回野間文芸新人賞受賞。

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