『少女奇譚/あたしたちは無敵』(朝倉かすみ)_朝倉かすみが描く少女の “リアル”
公開日:
:
最終更新日:2024/01/09
『少女奇譚/あたしたちは無敵』(朝倉かすみ), 作家別(あ行), 書評(さ行), 朝倉かすみ
『少女奇譚/あたしたちは無敵』朝倉 かすみ 角川文庫 2019年10月25日初版
このことは、あたしたちだけの秘密よ 朝倉かすみが挑む少女×ふしぎの物語
小学校の帰り道、きらきら光る乳歯のようなものを拾った東城リリア。同級生の清香と沙羅も、似たような欠片を拾ったという。ふしぎな光を放つこれはきっと、あたしたちに特殊な能力を授けてくれるものなのだ。敵と闘って世界を救うヒロイン。あたしたちは、選ばれた - 。でも、魔法少女だって、死ぬのはいやだ。(「あたしたちは無敵」)
少女たちの日常にふと覘く 「ふしぎ」 な落とし穴。表題作のほか、雑誌 『Mei (冥)』、WEBダ・ヴィンチに掲載されたものに書き下ろしを加えた全5編を収録。(WEBサイトKADOKAWAより)◆収録作品 「留守番」 「カワラケ」 「あたしたちは無敵」 「おもいで」 「へっちゃらイーナちゃん」
小学五、六年生あたりの少女を主人公にした、虚実混交の不思議な物語。不思議なことは、現に今いる少女たちの目の前で起こります。
彼女たちにとってはそれはまぎれもない現実で、不思議なことでも何でもありません。いとも容易く、それを 「現実」 として受け止めることができます。
軽々と。しなやかに。時には、息を詰めながら。
ある場合には、これから起こる僥倖の、あるいは災いの兆しとして。またある場合には、窮地に舞い降りた思いもしない救世主として。
「へっちゃらイーナちゃん」・・・・・・・ 七歳の時に家族と出かけた摩周湖で、不思議な女の子イーナちゃんと出会った 〈わたし〉。八歳で母が入院、九歳で父と姉との三人家族になり、父親の言動がおかしさを増していく。そして十一歳になった時、姉と 〈わたし〉 はある決断をする。とにかく妹に対する姉の思いが泣ける。また、次第に母親の複雑な思いが浮かび上がってきて胸を突かれる。(解説より)
この作品で特筆すべきは、父親がする一々の言動の際立った不快感。これに尽きます。二人は、父親の性向と性癖をよく承知しています。拒みたいのは山々なのですが、幼いゆえに拒むことができません。
母親が亡くなったあと、その傾向はさらに度を増し、姉ばかりか妹にも及びかねない事態になっていきます。
そんな時です。〈わたし〉 の前にふたたびあの不思議な少女、イーナちゃんが現れたのは。
この本を読んでみてください係数 80/100
◆朝倉 かすみ
1960年北海道小樽市生まれ。
北海道武蔵女子短期大学教養学科卒業。
作品 「肝、焼ける」「田村はまだか」「夏目家順路」「玩具の言い分」「ロコモーション」「恋に焦がれて吉田の上京」「たそがれどきに見つけたもの」「満潮」「平場の月」他多数
関連記事
-
『十二人の死にたい子どもたち』(冲方丁)_書評という名の読書感想文
『十二人の死にたい子どもたち』冲方 丁 文春文庫 2018年10月10日第一刷 廃病院に集結した子
-
『新宿鮫』(大沢在昌)_書評という名の読書感想文(その1)
『新宿鮫』(その1)大沢 在昌 光文社(カッパ・ノベルス) 1990年9月25日初版 『新宿
-
『千の扉』(柴崎友香)_書評という名の読書感想文
『千の扉』柴崎 友香 中公文庫 2020年10月25日初版 五階建ての棟の先には、
-
『純平、考え直せ』(奥田英朗)_書評という名の読書感想文
『純平、考え直せ』奥田 英朗 光文社文庫 2013年12月20日初版 坂本純平は気のいい下っ端やく
-
『R.S.ヴィラセリョール』(乙川優三郎)_書評という名の読書感想文
『R.S.ヴィラセリョール』乙川 優三郎 新潮社 2017年3月30日発行 レイ・市東・ヴィラセリ
-
『スペードの3』(朝井リョウ)_書評という名の読書感想文
『スペードの3』朝井 リョウ 講談社文庫 2017年4月14日第一刷 有名劇団のかつてのスター〈つ
-
『ことり』(小川洋子)_書評という名の読書感想文
『ことり』小川 洋子 朝日文庫 2016年1月30日第一刷 人間の言葉は話せないけれど、小鳥の
-
『死体でも愛してる』(大石圭)_書評という名の読書感想文
『死体でも愛してる』大石 圭 角川ホラー文庫 2020年8月25日初版 台所に立っ
-
『八月の銀の雪』(伊与原新)_書評という名の読書感想文
『八月の銀の雪』伊与原 新 新潮文庫 2023年6月1日発行 「お祈りメール」 ば
-
『幸せのプチ』(朱川湊人)_この人の本をたまに読みたくなるのはなぜなんだろう。
『幸せのプチ』朱川 湊人 文春文庫 2020年4月10日第1刷 夜中になると町を歩