『希望病棟』(垣谷美雨)_書評という名の読書感想文

公開日: : 最終更新日:2024/01/07 『希望病棟』(垣谷美雨), 作家別(か行), 垣谷美雨, 書評(か行)

『希望病棟』垣谷 美雨 小学館文庫 2020年11月11日初版

神田川病院に赴任した女医の黒田摩周湖は、二人の末期癌の女性患者をみている。先輩のルミ子に促され、中庭で拾った聴診器を使うと患者の “心の声” が聞こえてきた。
児童養護施設で育った桜子は、大人を信じていない。代議士の妻の貴子は、過去に子供を捨てたことがあるらしい。
摩周湖の勧めで治験を受けた二人は快方に向かい、生き直すチャンスを得る。”従順な妻” として我慢を強いられてきた貴子は、驚きの行動に出て・・・・・・!? 孤独と生きづらさを抱えてきた二人はどのような道を歩むのか。共感の嵐を呼んだヒューマン・ドラマ 『後悔病棟』 に続く感動の長編。(小学館文庫)

物語の舞台は前作と同じ神田川病院。物語の鍵を握るのが不思議な聴診器であることも同じだ。ただ、聴診器の持主は (前作の主人公・早坂ルミ子から) 黒田摩周湖という二十九歳の女性医師に変わる。

なんとも妙ちきりんな名前を持つ摩周湖さんだが、言動も負けず劣らず、変。異様なまでに口下手で無愛想なせいで、周囲を怒らせてばかりいる。摩周湖は、言葉足らず - というより、自分の考えや気持ちをうまく表現できないせいで誤解されることが重なり、すっかり自信喪失に陥っていた。

そんな彼女が、二名の末期癌患者に対する遺伝子治療治験の担当者となった。

治験の対象者のひとりは捨て子として児童養護施設で育ってきた高校二年生の小出桜子。厳しい生い立ちゆえに鉄壁の外面を持つが、内面は極度の人間不信に陥っている。

もうひとりは三十六歳の代議士夫人・谷村貴子。元キャバ嬢という経歴に引け目を感じ、俗物の夫や姑からは軽んじられ、利用され続けていた。その挙げ句、今では死さえ望まれている。

桜子のこれまでの人生には良い事がひとつもありません。親に捨てられ、望んだ高校へは行かせてもらえず、施設を出ると同時に自立しなければなりません。頼れる人はなく、時給の安いアルバイトだけでは、準備にかかる資金を貯めることもままなりません。

いまさらながら、貴子は代議士の夫と結婚したことを激しく後悔しています。何不自由ない暮らしではあるものの、政治家として絶望的に使命感に欠ける夫にうんざりしています。今度の選挙に落ちればいいと、心から願っています。

桜子も貴子も、まだ老いも見ぬ自分が余命宣告を受けることになろうとは考えてもなかっただろう。なんの覚悟もないところに、病がやってきた。突然告げられた人生の打ち切りを前に、心に湧くのは後悔や恨みばかりである。前作は、この 後悔や恨みが話の核だった。

ところが、本作では二人に思わぬ未来が用意されていた。治験が成功し、健康を取り戻すのである。(太字は全て解説からの抜粋)

問題は (肝心なのは) ここからである。

この本を読んでみてください係数  85/100

◆垣谷 美雨
1959年兵庫県豊岡市生まれ。
明治大学文学部文学科フランス文学専攻卒業。

作品 「竜巻ガール」「ニュータウンは黄昏れて」「後悔病棟」「女たちの避難所」「老後の資金がありません」「夫の墓には入りません」「農ガール、農ライフ」他多数

関連記事

『妖談』(車谷長吉)_書評という名の読書感想文

『妖談』車谷 長吉 文春文庫 2013年7月10日第一刷 ずっとそうなのです。なぜこの人の書

記事を読む

『空中庭園』(角田光代)_書評という名の読書感想文

『空中庭園』角田 光代 文春文庫 2005年7月10日第一刷 郊外のダンチで暮らす京橋家のモッ

記事を読む

『ギッちょん』(山下澄人)_書評という名の読書感想文

『ギッちょん』山下 澄人 文春文庫 2017年4月10日第一刷 四十歳を過ぎた「わたし」の目の前を

記事を読む

『土に贖う』(河﨑秋子)_書評という名の読書感想文

『土に贖う』河﨑 秋子 集英社文庫 2022年11月25日第1刷 明治30年代札幌

記事を読む

『血縁』(長岡弘樹)_書評という名の読書感想文

『血縁』長岡 弘樹 集英社文庫 2019年9月25日第1刷 コンビニの店員が男にナ

記事を読む

『疫病神』(黒川博行)_書評という名の読書感想文

『疫病神』黒川博行 新潮社 1997年3月15日発行 黒川博行の代表的な長編が並ぶ「疫病神シリー

記事を読む

『紙の月』(角田光代)_書評という名の読書感想文

『紙の月』 角田 光代  角川春樹事務所 2012年3月8日第一刷 映画 『紙の月』 の全国ロー

記事を読む

『物語が、始まる』(川上弘美)_書評という名の読書感想文

『物語が、始まる』川上 弘美 中公文庫 2012年4月20日9刷 いつもの暮らしの

記事を読む

『検事の本懐』(柚月裕子)_書評という名の読書感想文

『検事の本懐』柚月 裕子 角川文庫 2018年9月5日3刷 ガレージや車が燃やされ

記事を読む

『貴婦人Aの蘇生』(小川洋子)_書評という名の読書感想文

『貴婦人Aの蘇生』小川 洋子 朝日文庫 2005年12月30日第一刷 北極グマの剥製に顔をつっこん

記事を読む

Message

メールアドレスが公開されることはありません。 が付いている欄は必須項目です

『あいにくあんたのためじゃない』(柚木麻子)_書評という名の読書感想文

『あいにくあんたのためじゃない』柚木 麻子 新潮社 2024年3月2

『執着者』(櫛木理宇)_書評という名の読書感想文

『執着者』櫛木 理宇 創元推理文庫 2024年1月12日 初版 

『オーブランの少女』(深緑野分)_書評という名の読書感想文

『オーブランの少女』深緑 野分 創元推理文庫 2019年6月21日

『揺籠のアディポクル』(市川憂人)_書評という名の読書感想文

『揺籠のアディポクル』市川 憂人 講談社文庫 2024年3月15日

『海神 (わだつみ)』(染井為人)_書評という名の読書感想文

『海神 (わだつみ)』染井 為人 光文社文庫 2024年2月20日

→もっと見る

  • 3 にほんブログ村 本ブログ 書評・レビューへ
PAGE TOP ↑