『かか』(宇佐見りん)_書評という名の読書感想文

『かか』宇佐見 りん 河出書房新社 2019年11月30日初版

かか

19歳の浪人生うーちゃんは、大好きな母親=かかのことで切実に悩んでいる。かかは離婚を機に徐々に心を病み、酒を飲んでは暴れることを繰り返すようになった。鍵をかけたちいさなSNSの空間だけが、うーちゃんの心をなぐさめる。脆い母、身勝手な父、女性に生まれたこと、血縁で繋がる家族という単位・・・・・・・自分を縛るすべてが恨めしく、縛られる自分が何より歯がゆいうーちゃん。彼女はある無謀な祈りを抱え、熊野へと旅立つ - 。
未開の感性が生み出す、勢いと魅力溢れる語り。痛切な愛と自立を描き切った、20歳のデビュー小説。(河出書房新社)

第33回 三島由紀夫賞 史上最年少受賞作
第56回 文藝賞受賞作

私は男ですから本当のところはわからないのですが、親子関係のなかで、母と娘 (=女同士) というのは実にややこしい。難しい。そんな気がしてなりません。

もしも娘が生まれ、その娘が “名実ともに” 女になったとき、それまでと比べて二人の関係は、明らかに別のものへと変化します。親子でありながら、同じ女という性の生々しさを共有するがゆえの鬱陶しさや葛藤に、思い悩むことになります。

うーちゃんにすれば、母は、母であって女ではありません。女である母を、理解しつつ、認めることができません。それと併せ、女に生まれた自分や自分の血縁を、恨むことしかできません。

小説では、弱冠19歳の主人公が、主に母と娘の間にある愛憎を、自分にしかない言葉で、正確かつ克明に描き出そうとしています。その空気や匂いや距離感を、リアルを、確と味わってください。

かかは、ととの浮気したときんことをなんども繰り返し自分のなかでなぞるうちに深い溝にしてしまい、何を考えていてもそこにたどり着くようになっていました。おそらく誰にもあるでしょう、つけられた傷を何度も自分でなぞることでより深く傷つけてしまい、自分ではもうどうにものがれ難い溝をつくってしまうということが、そいしてその溝に針を落としてひきずりだされる一つの音楽を繰り返し聴いては自分のために泣いているということが。

インターネットは思うより冷やこくないんです。匿名による悪意の表出、根拠のない誹謗中傷、などというものは実際使い方の問題であってほんとうは鍵かけて内にこもっていればネットはぬくい、現実よりもほんの少しだけ、ぬくいんです。

表情が見えなくたって相手の文章のほのかなニュアンスを察してかかわるもんだし、人間関係も複雑だし、めんどうなところもそんなに変わらん。ほんの少しだけぬくいと言ったのは、コンプレックスをかくして、言わなくていいことは言わずにすむかんです。第一印象がいきなし見た目で決まってしまう現実社会とはべつにほんの少しだけかっこつけた自撮りを上げることもできるし、学校どこ?なんて聞いてくる人もいないし、教室でひとりでお弁当を食べてる事実を誰も知らないわけです。みんな少しずつ背伸びができて、人に言えん悩みは誰かに直接じゃなくて誰かのいるとこで吐き出すことができるんです。

・・・・・・・うーちゃんはにくいのです。ととみたいな男も、そいを受け入れてしまう女も、あかぼうもにくいんです。そいして自分がにくいんでした。自分が女であり、孕まされて産むことを決めつけられるこの得体の知れん性別であることが、いっとう、がまんならんかった。男のことで一喜一憂したり泣き叫んだりするような女にはなりたくない、誰かのお嫁にも、かかにもなりたない。女に生れついたこのくやしさが、かなしみが、おまいにはわからんのよ。(太字は全て本文からの抜粋)

※小説は、どこかの地方の方言、ではなく、彼女が話す日常会話をもって語られています。意味がわかりづらい言葉があると思いますが、前後を参考に予想しながら読んでください。

この本を読んでみてください係数  85/100

かか

◆宇佐見 りん
1999年静岡県生まれ、神奈川県育ち。
現在大学生。

作品 2019年、本作にて第56回文藝賞受賞。

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