『琥珀の夏』(辻村深月)_書評という名の読書感想文
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最終更新日:2024/01/05
『琥珀の夏』(辻村深月), 作家別(た行), 書評(か行), 辻村深月
『琥珀の夏』辻村 深月 文春文庫 2023年9月10日第1刷
見つかったのは、ミカちゃんなんじゃないか。私も、あの夏、あそこにいた。『かがみの孤城』 『傲慢と善良』 著者が描く、瑞々しい子どもたちの日々、そして、痛みと成長
カルト団体 〈ミライの学校〉 の敷地跡から、白骨遺体が見つかった。ニュースを知った弁護士の法子は胸騒ぎを覚える。埋められていた少女はミカではないか - 。小学生時代に参加した夏合宿で出会ったふたり。最後の年、ミカは合宿に姿を見せなかった。30年前の記憶の扉が開くとき、幼い日の友情と罪があふれ出す。解説・桜庭一樹 (文春文庫)
文庫で608ページ。辻村深月の長編 『琥珀の夏』 を読みました。読んで強く感じたのは、子どもは親を選べない、親は子どもを選べない、ということです。そして、それでも、子どもにとって親は誰より頼るべき存在で、親にとって子どもは誰より愛すべき、かけがえのない存在だということです。
忘れ去ったはずの記憶をいまさらに、法子はあの夏の日々を思い返すことになります。うれしかったこと、救われたこと。優しい先生や憧れた先輩。彼女にとってのそれは、案外、楽しく有意義なものでした。
『琥珀の夏』 は、ミライの学校という宗教的団体の施設を舞台に、子どもたちの成長や大人たちの失敗をめぐる切なく苦い夏の物語だ。
クラスで目立たなくて、少し浮いている小学四年生のノリコは、華やかで友人の多いクラスメートの誘いに乗り、ミライの学校の学び舎での夏合宿に参加することになる。子どもの自主性を重んじる教育方針や、野菜や水のおいしさについて聞いて楽しみにしていたのに、着いてみると、聞いていた話とはなんだかちがう面もあった。
ノリコは戸惑いながらも、ミライの学校で普段から親と離れて共同生活している子どもたちと親交を深めていく。凛々しい少女ミカとの友情を得たり、シゲルに淡い恋心を抱いたり。夏休みがくるたび通い続けることになるのだが、最後になる三年目の夏、なぜかミカの姿はなかった。それから幾年月。大人になって弁護士として働くノリコは、ショッキングなニュースに直面する。ミライの学校の当時の敷地から少女の白骨死体がみつかった、と・・・・。(解説より)
ノリコとミカが出会い、夏の短い間、〈ミライの学校〉 で共に過ごしたのは、二人が小学四年生と五年生のときでした。六年生で参加したとき、なぜかミカはいません。理由はわかりません。30年経った今、それを法子は思い出しています。
白骨死体でみつかった少女は、いったい誰なのか。その報せに、法子ははじめ、それがミカではないかと思います。一時期一緒に過ごしただけの、それは根拠のない胸騒ぎのようなものでした。
わたしは読みながら、学び舎の大人が、子どもの存在自体を 「美しい子だ」 と寿いで感嘆する様子などに不穏な気配を感じた。大人の理想のための夢の像、ある種の “マジカル子ども“ の役を生身の子どもにさせてしまっているのでは、と。とはいえ、彼らの語る理想が間違っているわけではない。だから、やっかいなのだ。それなら、間違いじゃなく、足りないものがあるんじゃないか? 足りないもの・・・・・・・それはなんだろう? (桜庭一樹/同解説より)
この本を読んでみてください係数 85/100
◆辻村 深月
1980年山梨県笛吹市生まれ。
千葉大学教育学部卒業。
作品 「冷たい校舎の時は止まる」「凍りのくじら」「ツナグ」「太陽の坐る場所」「鍵のない夢を見る」「朝が来る」「ゼロ、ハチ、ゼロ、ナナ。」「かがみの孤城」「傲慢と善良」「盲目的な恋と友情」他多数
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