『玉瀬家の出戻り姉妹』(まさきとしか)_書評という名の読書感想文
公開日:
:
最終更新日:2024/01/05
『玉瀬家の出戻り姉妹』(まさきとしか), まさきとしか, 作家別(ま行), 書評(た行)
『玉瀬家の出戻り姉妹』まさき としか 幻冬舎文庫 2023年9月10日初版発行
まさきさん、なんちゅう本を書かれたのですか。どっぷりはまって、抜け出せない。- にしおかすみこ (お笑い芸人)
「そうだ、実家に帰ろう。」
澪子は41歳。夫に浮気されバツイチ引きこもり中。ある日、売れっ子イラストレーターとして活躍中の姉が金の無心にやってきて、流れで一緒に実家に出戻ることに。そんな訳あり姉妹を母は他人事と知らぬ顔。女三人の侘しい実家暮らしが始まるが、ある夜、“男“ の視線を感じて目が覚めて - 。帰ればそこに家族がいて居場所がある。実家大好き小説誕生。(幻冬舎文庫)
玉瀬家の女主人、和子は現在72歳。夫が女をつくって家を出ていったのは、澪子が小学六年生になったときでした。以後、彼女は女手一つで家族を支え、今もカラオケ喫茶を営んでいます。
姉の香波は、夢を叶えるために東京へ行きました。但し、夢が実現したかどうかはわかりません。彼女は二度の離婚を経験しています。
澪子は、実家がある札幌からJRだと四時間、車なら五、六時間はかかる、名所も名物もない北海道の田舎町で暮らしています。結婚して15年。思い描いた暮らしは叶わぬままに、夫の清志にも愛想をつかされ、致し方なく離婚を決意します。時の彼女の心境はと言いますと、
清志のことなんかもう好きじゃない。とっくに心は離れていた。別れるときも悲しみの感情はなく、惰性で読んでいた本を閉じる感覚だった。
それなのにあの夜、清志の生活が何不自由なく継続していることに打ちのめされた。わたしと別れた彼は、わたしを失っただけにすぎなかった。彼にはいままでどおりの生活がある。どこへでも行けるし、会いたい人と会い、笑ったりしゃべったりできる。
その真裏に、そうできない自分が見えた。清志と別れただけなのに、人生の土台を根こそぎ引き抜かれたようだった。仕事もお金もないし、行きたい場所も行ける場所もない。会いたい人も、一緒に笑う相手もいない。これから先、なんのために、どうやって生きればいいのかわからなかった。(本文より)
この澪子の独白に、「そこまで悲観的にならなくても・・・・・」 と思う人がいるかもしれません。そういう女性 (ひと) は大丈夫。問題は、澪子の心の声に 「激しく共感する」 という人が きっといる、という偽らざる現実です。
彼女は決して多くを望んだわけではありません。ただ、自分を支えてくれるであろう伴侶の存在を、あまりに鵜呑みに、過信していたふしがあります。自身の非力を思うがゆえに、訳なく一方的に - 。
さて、澪子の事情云々はともかくも、
つまりは、玉瀬家の女性三人は、三人そろって全員が離婚経験者であるわけです。それぞれが過去を引きずり、今とこれからを、どう生きようかともがき苦しんでいます。とても、家族団欒どころではありません。
さらにもうひとつ。姉妹には、行方不明になったのままの兄がいます。
※登場人物の誰かをとらまえて、きっと思うことがあるはずです。私にとってまさきとしかは今最も読みたいと思う作家の一人で、読んで裏切られたことがありません。
この本を読んでみてください係数 85/100
◆まさき としか
1965年東京都生まれ。北海道札幌市育ち。
作品 「夜の空の星の」「完璧な母親」「いちばん悲しい」「熊金家のひとり娘」「ゆりかごに聞く」「あの日、君は何をした」「祝福の子供」「彼女が最後に見たものは」他多数
関連記事
-
『いちばん悲しい』(まさきとしか)_書評という名の読書感想文
『いちばん悲しい』まさき としか 光文社文庫 2019年10月20日初版 ある大雨
-
『ある女の証明』(まさきとしか)_まさきとしかのこれが読みたかった!
『ある女の証明』まさき としか 幻冬舎文庫 2019年10月10日初版 主婦の小浜
-
『月の上の観覧車』(荻原浩)_書評という名の読書感想文
『月の上の観覧車』荻原 浩 新潮文庫 2014年3月1日発行 本書『月の上の観覧車』は著者5作目
-
『自分を好きになる方法』(本谷有希子)_書評という名の読書感想文
『自分を好きになる方法』本谷 有希子 講談社文庫 2016年6月15日第一刷 16歳のランチ、
-
『神の子どもたちはみな踊る』(村上春樹)_ぼくたちの内なる “廃墟” とは?
『神の子どもたちはみな踊る』村上 春樹 新潮文庫 2019年11月15日33刷 1
-
『奴隷商人サラサ/生き人形が見た夢』(大石圭)_書評という名の読書感想文
『奴隷商人サラサ/生き人形が見た夢』大石 圭 光文社文庫 2019年2月20日初版
-
『図書室』(岸政彦)_書評という名の読書感想文
『図書室』岸 政彦 新潮社 2019年6月25日発行 あの冬の日、大阪・淀川の岸辺で
-
『今夜は眠れない』(宮部みゆき)_書評という名の読書感想文
『今夜は眠れない』宮部 みゆき 角川文庫 2022年10月30日57版発行 "放浪
-
『69 sixty nine』(村上龍)_書評という名の読書感想文
『69 sixty nine』村上 龍 集英社 1987年8月10日第一刷 1969年、村上
-
『ポイズンドーター・ホーリーマザー』(湊かなえ)_書評という名の読書感想文
『ポイズンドーター・ホーリーマザー』湊 かなえ 光文社文庫 2018年8月20日第一刷 女優の弓香