『旅する練習』(乗代雄介)_書評という名の読書感想文
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『旅する練習』(乗代雄介), 乗代雄介, 作家別(な行), 書評(た行)
『旅する練習』乗代 雄介 講談社文庫 2024年1月16日 第1刷発行
歩く、書く、蹴る - 傑作ロード・ノベル!
第164回芥川賞候補作 第34回三島由紀夫賞受賞 第37回坪田譲治文学賞受賞
中学入学を前にしたサッカー少女の亜美と、小説家の叔父。コロナ禍で予定が消えた春休み、二人は、徒歩で鹿島アントラーズの本拠地を目指す旅に出る。期間は約一週間。利根川沿いをゆき、ドリブルをして、風景を描写する。歩く、書く、蹴る - これは練習の旅だ。(講談社文庫)
それはもう - 思いもしない不意打ちに、最後にあなたはきっと涙をこぼします。さもなくば、倒れ込むかもしれません。
姪の亜美 (あび) は移動しながらサッカーの練習でドリブルをし、リフティングをする。叔父は折々の場所の 「人気のない風景を描写する」 修練として、その場でノートに文章を書きつける。旅の途上でのそれぞれの 「練習」 が描かれるのだ。
山川草木や鳥獣虫魚を愛でる緻密な描写には唸らされる。小学生のころ日本野鳥の会と日本鳥類保護連盟の会員だったわたしは、野鳥がじっくり観察される様子を、双眼鏡を覗くような心地で読んだ。ツグミやキジ、オオバンの姿がなまなましく目に浮かんだ。カワウの話もすばらしい。叔父の日記が始まると、三倍速、四倍速で読み飛ばされないことを祈りたくもなった。
今回のもうひとりの主人公、が言い過ぎだとすればもうひとりの語り手は柳田國男だ。利根川沿いで多感な日々を送った少年國男の叶わなかった恋の話、後年、利根川時代の回想とともに記された民俗学者柳田の感慨は、池に沈められた石のようにこの物語の重しとなり、光に揺れる水面を黙って見上げる視線になっている。
「風景を説き立てるのは通例は老人だが、実はこうして大きくなる盛りに、うぶな心をもって感動したものが、一生の鑑賞を指導している」
亜美がなにを見て、なににこころを動かされたのか。その経験を書いているのです、と書き手になりかわり、柳田國男が読者を 「指導している」 かのようでもある。(解説より/松家仁之・小説家)
※旅は二人ではじまりますが、ふとした出会いがあって、途中から三人になります。その人はみどりさんという名前で、卒業を間近に控え、就職先も内定しているという女子大学生でした。彼女もまた、徒歩で鹿島を目指しています。
ほんのわずかな道行ではあったのですが、小学生の亜美とすでに十分大人なみどりさんは、まるで前からの知り合いように、とても気が合うようでした。
ところが、数日後、みどりさんは理由も告げずに、突然二人の前からいなくなります。後でわかるのですが、彼女はある悩みを抱えています。それを二人に言い出せず、思い余って姿を消したのでした。
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◆乗代 雄介
1986年北海道江別市生まれ。
法政大学社会学部メディア社会学科卒業。
作品 「十七八より」「本物の読書家」「最高の任務」「皆のあらばしり」「ミック・エイヴォリーのアンダーパンツ」「それは誠」など
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