『ある行旅死亡人の物語』(共同通信大阪社会部 武田惇志 伊藤亜衣)_書評という名の読書感想文

『ある行旅死亡人の物語』共同通信大阪社会部 武田惇志 伊藤亜衣 毎日新聞出版 2024年1月15日 第10刷

第13回広島本大賞ノンフィクション部門 受賞 現金3400万円を残して孤独死した身元不明の女性 - あなたは一体誰ですか?

はじまりは、たった数行の死亡記事だった。警察も探偵もたどり着けなかった真実へ - 。名もなき人の半生を追った、記者たちの執念のルポルタージュ。ウェブ配信後たちまち1200万PVを獲得した話題の記事がついに書籍化!

2020年4月。兵庫県尼崎市のとあるアパートで、女性が孤独死 - 現金3400万円、星形マークのペンダント、数十枚の写真、珍しい姓を刻んだ印鑑・・・・・・・。記者二人が、残されたわずかな手がかりをもとに、警察も探偵も解明できなかった身元調査に乗り出す。舞台は尼崎から広島へ。たどり着いた地で記者たちが見つけた 「チヅコさん」 の真実とは? 「行旅死亡人」 が本当の名前と半生を取り戻すまでを描いた圧倒的ノンフィクション。(毎日新聞出版)

一気に読みました。一日あれば十分で、たまにこんなことがあります。この本の、何が人を惹きつけるのか。答えは案外難しく、(ただ) 読んだだけでは 「わかった」 ふうには書けません。

名もなき高齢女性の死の背景に、記者は何を感じ取ったのでしょう。仕事の合間を縫い、自腹を切ってまで、なぜくり返し広島まで出かけて行ったのか。その気にさせた、理由こそが問題です。

痕跡たどり、浮かび上がった人生 評者:澤田瞳子/朝日新聞掲載:2023年02月11日

行旅死亡人とは病気や自殺等で亡くなったものの身元が判明せず、引き取り者不在の死者を指す法律用語。日本では年間600から700名の行旅死亡人情報が官報に記され、どこかに帰る日を待っている。

本書は2020年に兵庫県で行旅死亡人と認定された高齢女性の半生を追ったノンフィクション。残された3千万円超の大金、目撃者のいない 「夫」 など彼女の周囲は謎に満ち、ミステリすら想起させるが、本書が我々に提示するのはその謎解き過程だけではない。

人は生きる限り、無数の痕跡を刻む。だがそれらを第三者が完全に理解することは不可能で、再現される人生はどうしても断片的となる。それは行旅死亡人であろうがなかろうが同じ。人生とは死と時を経れば、風に散る塵 (ちり) の如 (ごと) くはかない。しかし二度と戻らぬ時を過ごし、各々の生涯を生きるがゆえに、人は尊いのだ。熱量に満ちた筆致の奥から、人生とは、死とは何かを問う一冊である。

※何も知らずに買ったのですが、(後からネットでみると) ずいぶん評判であるらしい。何気に本屋へ行き、ふと目についたのがこの本でした。表紙を見てください。後ろを向いた女性が、大きな犬のぬいぐるみを持っています。このぬいぐるみ、ただのぬいぐるみではありません。

この本を読んでみてください係数 85/100

◆武田 惇志
1990年生まれ、名古屋市出身。京都大学大学院人間・環境学研究科修了。2015年、共同通信社に入2015年、共同通信社に入社。横浜支局、徳島支局を経て2018年より大阪社会部。

◆伊藤 亜衣
1990年生まれ、名古屋市出身。早稲田大学大学院政治学研究科修了。                2016年、共同通信社に入社。青森支局を経て2018年より大阪社会部。

関連記事

『蟻の菜園/アントガーデン』(柚月裕子)_書評という名の読書感想文

『蟻の菜園/アントガーデン』柚月 裕子 角川文庫 2019年6月25日初版 婚活サ

記事を読む

『後妻業』黒川博行_書評という名の読書感想文(その2)

『後妻業』(その2) 黒川 博行 文芸春秋 2014年8月30日第一刷 ※二部構成になってます。

記事を読む

『百花』(川村元気)_書評という名の読書感想文

『百花』川村 元気 文藝春秋 2019年5月15日第1刷 「あなたは誰? 」 息子を

記事を読む

『明るい夜に出かけて』(佐藤多佳子)_書評という名の読書感想文

『明るい夜に出かけて』佐藤 多佳子 新潮文庫 2019年5月1日発行 富山は、ある

記事を読む

『センセイの鞄』(川上弘美)_書評という名の読書感想文

『センセイの鞄』川上 弘美 平凡社 2001年6月25日初版第一刷 ひとり通いの居酒屋で37歳

記事を読む

『だれかのいとしいひと』(角田光代)_書評という名の読書感想文

『だれかのいとしいひと』角田 光代 文春文庫 2004年5月10日第一刷 角田光代のことは、好きに

記事を読む

『命売ります』(三島由紀夫)_書評という名の読書感想文

『命売ります』三島 由紀夫 ちくま文庫 1998年2月24日第一刷 先日書店へ行って何気に文

記事を読む

『幸福な遊戯』(角田光代)_書評という名の読書感想文

『幸福な遊戯』角田 光代 角川文庫 2019年6月20日14版 ハルオと立人と私。

記事を読む

『エンド・オブ・ライフ』(佐々涼子)_書評という名の読書感想文

『エンド・オブ・ライフ』佐々 涼子 集英社文庫 2024年4月25日 第1刷 「理想の死」

記事を読む

『水やりはいつも深夜だけど』(窪美澄)_書評という名の読書感想文

『水やりはいつも深夜だけど』窪 美澄 角川文庫 2017年5月25日初版 セレブマ

記事を読む

Message

メールアドレスが公開されることはありません。 が付いている欄は必須項目です

『雪の花』(吉村昭)_書評という名の読書感想文

『雪の花』吉村 昭 新潮文庫 2024年12月10日 28刷

『歌舞伎町ゲノム 〈ジウ〉サーガ9 』(誉田哲也)_書評という名の読書感想文

『歌舞伎町ゲノム 〈ジウ〉サーガ9 』誉田 哲也 中公文庫 2021

『ノワール 硝子の太陽 〈ジウ〉サーガ8 』(誉田哲也)_書評という名の読書感想文

『ノワール 硝子の太陽 〈ジウ〉サーガ8 』誉田 哲也 中公文庫 2

『救いたくない命/俺たちは神じゃない2』(中山祐次郎)_書評という名の読書感想文

『救いたくない命/俺たちは神じゃない2』中山 祐次郎 新潮文庫 20

『歌舞伎町ダムド 〈ジウ〉サーガ7 』(誉田哲也)_書評という名の読書感想文

『歌舞伎町ダムド 〈ジウ〉サーガ7 』誉田 哲也 中公文庫 2022

→もっと見る

  • 3 にほんブログ村 本ブログ 書評・レビューへ
PAGE TOP ↑